第2章 ヴィルモン編
第13話 祝賀パーティーでの発見
フォークマス奪還の翌日、俺たちは基地に戻ることなく、それぞれ船に乗ったままヴィルモン王都へ向かうこととなった。
人間界惑星の地図がガルーダの司令室にあったので見てみると、ヴィルモン王国は超大陸の南半球にあり、その半分が領土であることが分かる。
ロシア並のデカさだ。
ガーディナ王国は超大陸北半球の東端に位置する国で、インドぐらいの大きさだろう。
そんなガーディナ王国の沿岸部に、フォークマス自治領が存在する。
このフォークマスからヴィルモン王都までは8000キロはあるのかな?
ま、音速で飛んじゃうガルーダなら半日の距離だ。
ところで、地図を見た時の最初の感想は「国デカ! つうか少な!」だ。
数えてみたら35カ国しかなかった。
ちょうど側にいたロミリアが教えてくれたが、超大陸にある20の国と、その周辺にあるオーストラリアぐらいの大陸の国、そして2つの島国と人間界惑星の月にある国、この24カ国が共和国加盟国らしい。
その他のチマチマした島国の集まりは、島嶼連合として共和国とは別の連合を組み、 海運と商業を担当しているとか。
うむ、この世界の地理が分かってきた。
共和国は24の国の王様が集まる元老院がトップであり、その議長国がヴィルモン王国だとか。
リシャール=ヴィルモンっつう、俺たちを召還した王様が元老院議長ということかな。
あの人、めちゃくちゃ偉い人だったのか。
村上は随分と失礼な感じだったけど、怒ってないよな……。
ヴィルモン王都に高層ビルがあったり、スーツ姿の人がいたりしたのは、ヴィルモンが共和国最大の国家であり、その王都には様々なものが集まるからだそうだ。
別の国はあそこまで発展していない、とロミリアは言っていた。
良かったよ、あんなファンタジー世界と近代が混ざり合ったのが普通じゃなくて。
さて、そんなヴィルモン王都、しかも元老院の大広間に、俺たちはいる。
王都に到着し、ガルーダの格納庫にある輸送機で地上に降り立った俺たちを待っていたのは、共和国のお偉い、紳士淑女の皆さんだ。
皆さんの服装はザ・貴族って感じで、軍服姿の俺たちはすぐ圧倒された。
元老院は、なんとあのガラス張りの高層ビルであった。
低層階は宮殿なんだが、せっかくのファンタジー世界なのに興ざめである。
ともかく、この元老院ビル(それが建物の名前らしい。ファンタジー要素にはもっと頑張ってほしいものだ)の大広間で、俺たちは各国の王族とパーティーに参加することになった。
なんてこったい! 一般庶民には荷が重すぎるぜ!
異世界ではじめて参加する、王族の集まった祝賀パーティー。
まさか、元の世界のホテルの大広間みたいな場所でやることになるとは想像していなかったが、それ以外は概ね、予想通りかな。
大広間には幾つもの豪華な椅子が用意され、そこに16人の王様が座っている。
8人の王様は公務のため欠席、代わりに大臣や王妃が参加していた。
他に、エリノル参謀総長と知らない軍人、騎士達も参加している。
パーティーのはじまりは、リシャールの力強い演説だった。
長かったのでよく覚えていないが、魔界ぶっ潰せ的な内容。
王族たちはそんな演説に拍手し、演説終了後は俺たち異世界者に順番に挨拶する。
挨拶のとき、我らの国に住まないか、みたいなことを言うヤツもいたが、丁重に断った。
どんな裏があるか知れたもんじゃないからな。
で、自由時間に突入。
王様たちは別の国の王様との外交に移ってしまい、俺たちにはあまり関心を示さない。
軍人も軍人で独特なコミュニティを作り、俺らは蚊帳の外。
この広間でどんな権謀術数を繰り広げているのか知らないが、もう少し俺らを持ち上げてくれても良いんじゃないかな。
これでもフォークマスを解放したんだぞ。
だが調子に乗りっ放しの村上は、自ら進んで王族や軍人に話しかけていた。
なんとも無謀な男だ。
政治の世界に安易に足を踏み入れて、大丈夫なんだろうか。
まあ、リュシエンヌさんがきちんとした騎士だから、なんとかはなるだろうけど。
王族の皆さんも、異世界者とは仲良くしたいのか、満面の政治家スマイルだ。
久保田は暇そうに、なんとか肉のなんとか添え的な何かを食べている。
でも使い魔のルイシコフは、どこぞの国の大臣のところでずっと話し込んでいるな。
あの大臣は、たしか超大陸西方の国、グラジェロフ王国の大臣だったか。
使い魔のくせして、主人の久保田を置いてけぼりにしてやがんのか。
庶民である俺は、上座から一歩も動かずに食事に没頭だ。
なんとかのなんとかスープとなんとかのソテーを食べながら、話しかけんなオーラ全開である。
食事の名前は分からないが、結構うまいな。
そして、同じく庶民のロミリアは、緊張した面持ちでただ座っているだけ。
彼女も軍服姿なんだよな。
せっかくのパーティーなんだから、ドレスぐらい用意してくれりゃ良いのに。
「お疲れさまです、相坂さん」
おや、久保田に話しかけられた。
俺の話しかけんなオーラは自然と発動するもので、意図的に発動すればその効果はてきめんのはずだが、久保田には効かないか。
まあ、王族相手じゃなけりゃ良いか。
「お疲れさまって、フォークマス奪還作戦のこと?」
「そうです。相坂さんの活躍があったからこその勝利ですよ、あれは」
「……そんなに俺って活躍した?」
「もちろんですよ。僕なんてただ耐えることしかできませんでした」
俺的には必死にやっていた記憶しかないが、そうか、久保田にはすごく見えたのか。
でもそれって、村上と久保田あってのことなんだがな。
「久保田さんがいたから、揚陸艦は守れたんですけどね」
「僕にはそれしかできませんから」
「でも味方を守ってくれるのは、頼りになるよ」
「そう言っていただけると、ありがたいです」
おお、なんて良いヤツなんだコイツ。
村上とは大違いだ。
あの調子に乗った野郎とは。
「おい、なんの話してんだよ」
噂をすればか。
村上に絡まれた。
「フォークマス奪還作戦の話です」
「そうか。なあ、俺の遠距離砲、どうだった?」
なんで村上はドヤ顔なんだ。
なんだ? 褒めりゃ良いのか?
「素晴らしかったです。とても頼りになりました」
「だろ~さすが直人、わかってるな~」
おやおや、久保田のお世辞に村上はご満悦のようだ。
そりゃ確かに、村上の援護は助かったさ。
でもこうもムカつくドヤ顔されると、褒めるものも褒めたくなくなる。
これは俺の器が小さいのか?
「そういや、ちゃんと自己紹介してないんだよな俺たち。俺は村上将樹、21歳のバイト暮らし。でっかい夢追ってる最中だ。もう叶ったようなもんだけどよ。よろしくぅ!」
いきなり自己紹介が始まったぞ。
なんなんだこの村上ってヤツ、ノリについていけない。
「僕は久保田直人です。19歳で、大学に通っています」
「……相坂守。19歳の学生」
「お! 相坂の声はじめて聞いた! 意外と声低いんだな」
いや、お前の前で何度か発言してるぞ。
お前が聞いてなかっただけだろ。
「僕と相坂さんは同い年ですか」
「そうみたいだね」
「ってことは話も合いますかね。よろしくお願いします」
「よろしく」
久保田は話しやすくていいなあ。
悪いが村上、お前はちょっと苦手なタイプだ。
こういうタイプに限って、場を仕切るからな。
しょうがない、今は村上に合わせよう。
「なあ、お前らさ、どうやってこの世界来た?」
「僕はファンタジー小説を読み終えて、もう寝ようと電気を消したら、この場に」
「相坂は?」
「よく分かんない映画見てて、それが終わってテレビを消したらこうなった」
「へえ~。俺はゲームの電源切ったらいきなりこっちに飛んでた。マジびっくりだわ」
うん? 今の話、明らかに共通点があるぞ。
全員、なにかしらの電源を切ったらこっちの世界に飛ばされたみたいだ。
しかも、何かをやり終えた後。
俺がファンタジー映画で久保田がファンタジー小説、じゃあ久保田のゲームは……。
「あの、なんのゲームやってた?」
「は? いや、知らないゲームだけど。なに、お前ゲームオタク?」
俺はゲームオタクじゃない。
オタク体質だから、わざわざ否定まではしないけど。
というか、やってるゲームの名前を知らないってどういうことだよ。
「知らないゲーム?」
「ああ、なんかいつの間にか起動しててさ、やったら面白くてよ。ファンタジーゲーム」
「そういえば、僕が最後に読んでいた小説も、知らないうちにあったものです。面白かったので、最後まで読み切ってしまいました」
「俺が見てた映画は、知らない映画だった」
「……僕らがこちらの世界に来た理由は、共通点が多いようですね」
さすがに久保田も気づいている。
俺は確信したぞ。
俺たち三人は、知らないファンタジーものに目を奪われて、最後に何かの電源を落とした瞬間、こっちに召還されたんだ。
じゃあ、いくつか質問してみるか。
「小説とかゲームの名前ってなんだった? 昨日の城、登場した?」
「ワールドコンティニューという小説です。小説の描写とお城の様子は、言われてみると似ているような気がします」
「ゲームの名前は知らね。でも、あの城ならゲームに登場したな」
ゲームの名前はぜひ覚えておいてほしかったが、たぶんワールドコンティニューだろう。
なんてこった、コイツらとこんなに共通点があったとは!
「どうでもいいだろ、そんなこと。よく分かんねえけど、楽しいからいいじゃん」
む、結構な大発見だと思うが、村上は興味ゼロかよ。
しかも、話に飽きてどっか行っちまった。
なんなんだよ、アイツ。
「驚きましたね。まさかこんなに共通点があるなんて」
「だよな」
対して久保田は興味津々だ。
しばらく、二人で話してみよう。
ロミリアは、俺たちの話を意味不明と言いたそうな表情で聞いているが、しょうがない。
もしかしたら、何か分かるかもしれないんだから。
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