第5話 雨乃音の過去 その5
俺はすっと携帯を取り出して、教卓の上に置く。
そして、動画の再生ボタンを押した。
その時間はおよそ十分程だったが、動画が流れている間、クラスメイトは黙り込んでいた。
それぞれ複雑な顔で、そして恐怖に怯える目をしながら一点を見ていた。
まさかあいつがあんなやつだったなんて、ていうかこの動画は何であるんだとかそんな事を思っているところだろう。そして、動画の再生が終わった。
すると、俺が少し安心して力が抜けたのを逃さず、押さえつけていた俺の腕を森が振りほどいた。
その手にカッターを持って、俺を刺す気満々の怒りと絶望の表情を浮かべていた。
「許さないっ!殺してやる!!」
「おっと、悪い事したやつをしっかり押さえておくのを忘れたわ。そらよっと!!」
俺は瞬時に森の腕を締め付けて、関節を外した。
「ぐあっ!あが、ぁ・・・・・・」
これでもうカッターを持って振りかざす事はできないだろう。全くとんでもないやつだ。
「おい、見たかお前ら!これが真実!森はこういうやつなの!わかった!?うん、分かってくれたならいいんだよ。それじゃ、俺はもう一仕事してくるから」
俺は最後の追い打ちをしようと、あの場所に向かった。
放送室。
放送委員というのがあるのだが、お昼の時間に音楽を流すため、普通ならお昼の時間まで鍵がかかっているのだが、何故かこの学校には鍵がかかっていない。
まあ、この際好都合だから警備面についての文句は言わない。
俺は放送室に入り、すべての教室に音が流れるように設定した。
もちろん教職員室と校長室にもだ。
そして、最後の準備が出来た。
俺はマイクのスイッチを入れて、咳払いをしてから言葉を発した。
「全校生徒、および先生方。今から聞こえてくる会話は真実です。いや、会話じゃないな。ある男が女の子を脅迫している様子の音声という方が正しいかな?まぁ何でもいいや。では、ちょっと音質が悪いので聞きにくいかもしれないですが、ゆっくり聴いてくださいな!」
俺は、携帯をマイクに近づけて、動画の再生ボタンを押した。
・・・・・・。
動画が流れている間の俺はとてもすがすがしい気持ちだった。
なんていうか、こんないい気持ちになったのは初めてだ。身体の力が抜けていく。
もう何も思い残すことはないぐらいだ。このまま死んでしまってもいい。
ドアをがたがた開けようとする音が聞こえるがそんなの気にならない。
簡単に開けられないよう細工をしておいた甲斐があった。
今はこの余韻に浸っていたい。顔がにやけてしまう。ああ、ダメだ。笑いが止まらない。
「最高の気分じゃないか・・・・・・」
そして俺は、深い眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます