第39話 落し物

クアーズ王国の方の出口に行って受付に話をする。


「ツ、ツデャ様…でよろしかった…ですか?」

「…もうそれでいい。」

このやり取り、久しぶりだな。

「手続きは済んでいますので、どうぞお通りください。」


門を通り外に出る。

「勇者殿。」

「ワミか。どうした?」

「騎士団の恩人に挨拶もせずに旅立たせる訳にもいきませんでな。」


ワミの後を見ると騎士団が整列して敬礼している。

「勇者殿の旅に幸あらん事を。」

そう言うとワミも敬礼した。


…大仰なのは勘弁してくれ。



「さっきの凄かったですね!私ちょっと感動しちゃいましたよ。」

「皆を救った立役者だもんね~」

「普通で良かったんだがな。」

今は三人でたわいもない話をしながら歩いている。


「そういや、あんたの名前ってツデャって言うの?変わってるわね。」

「…違う。次哉だ。」

「チュニャ?」

何で、この世界の人間は俺の名前は聞き取れないのか。


「もう何でもいい…そんな事より次の村だかミルズ村とかいったか。

どんな村だか分かるか?」

「申し訳ありません。騎士団は国内警備が主でして、他の国には

あまり出向かないんですよ。」

「私も初めて国を出たからな~。」


喋っていると後から荷物を運んでいる馬車が通ろうとした。その時、


ガタッ!!!

ジャラッ!


道端の石に乗り上げてしまい、馬車が大きく揺れた。

その時に何かが落ちた。

拾い上げてみてみると、


「ネックレス?」

「綺麗なネックレスですね。」


【鑑定】で確認してみる。


【誓いのネックレス】

コボルト族の間で結婚式に使う装飾品。

特殊効果なし。


結婚指輪みたいなものか。

「…しょうがない、追いかけるか。お前らは歩いて来い。」

「勇者殿?」

走って前の馬車を追いかける。


しばらく走ると見えてきた。

乗っているヤツの近くに行き、声を掛ける。

「おい。」

「うわぁぁぁぁぁぁ!」


馬もソイツも驚いた。失礼な話だ。

「すいません!命だけは!商品の中から好きな物持ってっていいんで!!

あ、でもできれば商品も見逃していただければもっとありがたいです!!!」

「違う、物取りじゃない。」

「えっ!?」


いちいち驚くな。

「これを落としたからな、渡しに来た。」

そう言ってさっきのネックレスを渡す。


「これは、ありがとうございます!!次の村で売る予定だったんで、無くしたら

シャレになりませんでした。」

「それが売れるって事は結婚式でもやるのか?」

「そうなんですよ。前々からの常連さんがいましてね。ぜひウチの商品を

使って結婚式を挙げたいってなったんですよ。」


無くしたら信用問題だな。

「そうか、それなら戻ってよかった。じゃあ俺は戻るぞ。」

「ちょっとお待ちを!せっかくなので他の品を見ていきませんか?」

「…今?」

「お礼に特別価格にしておきますよ。」


この世界の商人はこうもたくましいのか。

「…欲しい物が無かったらすぐ戻るぞ。」

「えぇ結構です。」


荷馬車の商品をざっと見渡す。

といってもエジオで買い物は済ませたから特に何もないんだが、

「ん?これは?」

「お目が高い。それは魔法のペンと言いましてな、インクを付けなくても

文字が書ける優れものです。」

「じゃあ、コレと紙を貰えるか?」

「毎度!」


この世界にボールペンがあるとは思わなかった。

字の練習用にちょうどいいだろ。


「また、お会いした時に声を掛けていただければ格安でお売りするので

是非ご利用ください。ではまた。」



商人は去っていった。

しかし、次に会った時に見分けがつくか?

俺はカエルの顔の区別なぞ分からんぞ。

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