第26話 オガヒの隠し事

町長の言葉に戸惑う人々

「ほんとに町を移動しなきゃいけないの?」

「他に何か方法があるんじゃない?」

まだ未練が隠し切れない様子だ。


「皆、確かにこの盗賊団と契約し従うように言ったのは私だ。

しかしこのままだったとしても、いつかは町ごと滅びていただろう。

私達がやらなければいけないのは、同じところに留まり怯える事ではなく

新しい場所へ一歩を踏み出す事ではないのか?」

オガヒがそう言い終ると、

「…俺、アンタに付いていくよ。」

一人の若者が呟くように言った。


「俺は元々立派な行商人になるのが夢だったからな。どうせクックルには

いつか行こうと思ってたんだ。」

「若い者に町を任せると決めたのは、ワシのような年寄り達だからの。

アンタの決定には従うしかあるまい。」

「罪を犯したのは、ここにいる全員だよ。アンタ一人の責任じゃない。」


移動する事を決意した者たちから言葉が漏れる。

それでも移動したくない者がいたようだが、口をつぐんでいた。

このままではいけないと、どこかで分かっていたのだろう。


「勇者殿、私たちは近い内にここを出て行くでしょう。

あなた方に掛けた迷惑…いえ、それだけではありませんな。

今まで何の罪もないのに殺された方々も忘れる事はありません。

許していただく事はできないでしょうが、生涯償い続けていくつもりです。」

そういうと深々と頭を下げた。


「…もういい、眠いから俺は寝るぞ。」

俺はそれだけ告げて家の中に入っていった。



翌日の朝早くに目覚めた俺は、

「よお、元気か?」

「ワン!」

アドルフのところに来ていた。

こいつも日に2度殺されかけるとは思わなかったろうが、俺もそのせいで

恥ずかしい呪文を唱えなきゃいけなくなったんだ。


「お前は元気でいろよ?でないと助けた甲斐がなくなる。」

「クゥン?」

もう少ししたら出て行くだろうから別れの挨拶を

済ませていたところに声が掛かった。

「勇者殿、おはようございます。お早い目覚めですな。」


オガヒだった。

「昨日はこの町を救っていただきありがとうございました。」

「あの盗賊どもは?」

「全員縛って近くの馬小屋に放っております。」

「そうか…なぁ


まだ隠している事があるんじゃないのか?」


急な話題に慌てるオガヒ。

「な、何を言い出すのです?」

「昨日、脳筋が急に倒れたよな。あれは薬でも盛られたんだろ。

晩飯に睡眠薬でもいれたか?」

「わ、私は…」

「しかも盗賊の首領が薬を盛られているのを知ってた。

お前、アイツと繋がってたな?」


オガヒは黙ったままだ。

「盗賊が好き放題やってるだの言ってたが、昨日の夜に脳筋が


”おっかしいなぁ…警護してる人の報告や各町村の代表から

話を通すようになってるはずなんですが”


という言葉を言ってた。

初めに聞いた時は疑問を持たなかったが4年もあんな連中を見逃すものか?

国に報告が行かないようにするには見て見ぬフリ、

盗賊が捕まらないようにするには誰かが代わりになる。

だが、この町に人はそんなに来てる様子がない。」


「…何が言いたいのでしょうか?」

「誰も来なければ盗賊は何も奪えないし殺しもできない。

すると必然的に町民に被害が及ぶ、もしかしたらネアにも。」

「…」

「それを防ぐため旅人をわざと誘い込んで、人柱にした。」


オガヒは顔を俯かせる。

「それどころか盗みも殺しも手伝ったんじゃないか?」

「おっしゃる通りです…」


やはりな、

「ですが、それらは一部の人間でやったこと。事実を知らない者が大半です。」

「全てを盗賊団のせいにして、自分たちは可哀想な被害者ぶってたんだろ?

お前のようなヤツは吐き気がする。」


もう反論もせずに俯いたままのオガヒの横を通り部屋に戻る。


???「…」

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