受験生たる俺の、慎ましやかな並行世界戦記
朝立 朗
第一章 青松城編
第1話 強制たる旅立ち
神も仏もいるもんかぁ!!
―――
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―
受験生の朝は大変なんだ。何って、勉強したり、漫画を読んだり、アニメを観たり勉強したり……。いやあ、去年は成績は芳しくなかったが、今回の俺には抜け目がない!何せ、今年の俺には秘策がある。
「行ってくる!」
俺は誰もいない室内に景気よく言うと、ドアを勢いよく開けた。
この家には俺以外の親族は他にいない。といっても、親父はちょっとした教育職に就いていて、色々と忙しい。特に俺が浪人すると、各地を転々として講演会などの仕事を始めた。母親もそれに付いて行った。
だが俺はそんな両親を白状などと思ったことはない。現にここまで自由にさせて貰っているのは有難いし、勉強に集中できる環境でもある。
家に帰ってこないということで俺の生活はまさに一国一城の主となったようなものなのだから。
本当は妹が一人いるのだが全寮制の高校へ行ってしまい、なかなか会ってはいない。残念ながら出来の悪い兄を鼻で笑っている状況だ。まさか、同じ年度に受験をするとは思わなかった。今年も失敗したら……と考えただけでもおぞましい!
俺は門を出ると、そのまま道なりに進む。このあたりの区画整理は戦後になってから頻繁に行われてきた。大きなこの道は、
どこへどう繋がっているのかは知らないが、バブル期の地上げに流されることなく、昔ながらの銭湯や絹織物の専門店がいくつかある。
やがて見えて来る百円ショップの駐車場の裏に来ると、俺はその歩みを止めた。
そこは空間が資質であった。すっかり寂れてしまい、草木が無造作に生えている。その視線を上に向けていくと、朽ちた木製の祠がある。その周りには小さな鳥居が祠を囲むように点在している。
ここを国益神社というらしい。らしい、というのも親父から聞いただけのことだ。とく祖父ちゃんからは、家格の高い神社やお寺に行くべきだと言われていたが、身近にありながらひっそり佇んでいるこの空間が好きだった。
何より、どこか自分と似ている気さえ感じた。
俺は、よいしょっと声を出して草木をかき分ける。年甲斐に合わない掛け声に自嘲してしまうが、それも受験生という身分だからだろう。きっと大学に入ればあふれる程に遊びつくすのだ!サークルに趣味のカードゲームに!
そう考えると、にやにやと笑みが浮かぶ。
「なにとぞ……お聞き届けください……」
俺は祠の前に立ち、100円玉を傍に置いた。もはや賽銭箱さえないのが、ここの現状だった。きっとこの神社にも昔は多くの人々が訪れたのだろう。
目を瞑り、そんなことを考え続けた。
俺は友人たちとはどうだろうか?自分が馬鹿にさえしていた友人も立派とは言えないまでも、大学生として社会に出ている。なのに自分は、そこに後ろめたさを感じ、みんなを遠ざけていたのではないだろうか……。
しんみりするのは俺のキャラには合わないのだが、翌日の不安もあるのだろう。そんなことをふと考えてしまった。
「俺も……昔に行けたらな……」
その瞬間だった、草木の揺れが激しくなる。動物の類がいる気配はない。
「え、ちょ……ちょっとおおお!」
俺は自慢じゃないが、幽霊だとか妖怪だのは苦手である。怖いもの見たさでそういった番組を観ては夜には寝られない生活を送ってきた。勉強もせずに。
次に周囲にあった鳥居がガタガタと音を立てて揺れ始めた。
地震か!?と思ったが揺れは自分には一切感じない。誰かに助けを求めようとしたその瞬間、祠から強い光が発せられた。
もはや、目を開く余裕はない。情けない声で、叫ぶしか……今の俺には出来なかった。
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