第363話: 試練の洞窟(結)

 試練の洞窟を前に最後に入ろうと踏み出した際、魔王様に呼び止められる。

 そして語られた壮大な魔族の物語。何故俺にそんな話をしたのかは分からない。魔王様はただ、お前にだけは知っていて欲しかったと言う。

 僅か数分のストーリーのはずが、小説に置き換えるなら何百枚の壮大なストーリーにも感じた。


 魔族が魔界へと追いやられた歴史の背景。数千年にも及ぶ他種族との因縁や争い。それはほんの些細なすれ違いかもしれない。だけどそれが決して解けることの無い絡み合う紐に、埋まることの無い深い深い溝になってしまった。


 この世界は種族間の争いなんて当たり前の世界だ。姿形が少し違うだけで、人は争いを始める。俺のいた世界でも似たようなことはあった。だから、仕方がないと言うのは分かる。理解する。だけど、それって勿体ないだろ。

 結局それは、互いが互いを理解出来ていないだけじゃないか。互いを理解すれば、争いを回避出来るかもしれない。種族間でいがみ合う必要なんてないんじゃないか。


 だから俺は⋯⋯いや、俺がその架け橋になってやる。


 争いのない、世界の実現の為に。


(面白い奴だなお前)


 試練の洞窟に入り、どれだけの時間が経過したのか。いつの頃からか中は漆黒の世界で、一寸先も見えない。夜目を使っても見えないことから、ここがただ明かりのない暗い洞窟なだけじゃないと言うのは伺える。

 そんな折、ただ自身の歩く音しか聞こえなかった。それ以外は無音の世界だった先に、何かが俺に語りかける。


「誰だ?」


 視界はゼロ。洞窟内の潤沢な魔力に邪魔されてか範囲探索エリアサーチも反応がない。

 相手が感知出来ないと言うのは、非常に怖いもんだな。


(⋯我のことは現魔王から聞いているはずだがな)


 魔王様から聞いている? それってもしかして。

 あの話の中には、2代目魔王の死が受け入れられずにこの洞窟で自害した3代目魔王がいたはず。その名は⋯


「3代目魔王、ノース様ですか?」


(敬称など不要だ。我はもはや魂だけの存在。それに魔王と呼ばれる資格のない、職務を放棄し逃げ出しただけの紛い者に過ぎない)


 あの話は、何百年も前の話だったはず。なら、この長い間魂だけの存在として生き続けていたのか。なんて孤独なのだろうか。


(やはり、其方は面白い奴だな。我を哀れんでくれるのか)


「心が読めるんですか」


(すまぬな。何となくだが把握出来るようだ。それよりも、現魔王との会話を聞いていた。其方たちは、地界に侵略してきた異世界からの脅威に対抗する為に力を求めてここに来たのだろう)


 説明しなくてもいいのは楽だな。


「そうです。この試練の洞窟に入り、生きて生還すれば力を付けることが出来ると────」


(そんな都合の良い話がある訳ないだろう。この洞窟は我の魂が彷徨い、それによって一部の魔術が封じられ魔力溜まりが発生しているだけに過ぎない)


 そうだよな⋯生きて出てくるだけでパワーアップなんて、そんな都合の良い話はないよな。あるとすれば、孤独と言う局面に耐え、精神を鍛える程度だろう。


(ふむ。そういうことならば協力してやらんでもないぞ)

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