第263話: 最強の眷属
突如として現れた少年に、スイが消された。
すぐに俺達は臨戦態勢に入る。
奴は何者だ?
サモナの召喚した眷属なのか?
いや、違う。
明らかに眷属である氷の巨人を屠ったのだ。
氷の巨人は消えたんじゃない。
その密度を膨張させ、巨大化した姿があの氷塊だったんだ。
それを奴は邪魔だとばかりに消し去った。
「一応確認しておく。俺達は冒険者だ。現在7大魔王討伐の任務についている。お前は俺達の敵か?」
問い掛けにも少年は何も喋らない。
そのまま、見向きもせずに何処かに消えてしまった。
一体何者だったんだ…。
スイが居た場所へ急ぎ向かうと、潰れて掻き消えたように見えたが、地面からもそもそと本人が現れた。
「いや、参ったね。弱り切った所を狙うのは酷いと思わないかい?」
取り敢えず一発頭を殴る。軽くね。
「一応心配したんだからな!」
「痛いな、
「貴重な戦力だから失いたくないだけだよ。それに、さっきの奴は何者だ?」
「酷いなその扱いは。えっとあいつね、確か邪神と名乗ってたよ。中々強い。というより、魔眼を使ったり、見たこともない魔術を使ったりと、只者ではないね」
「スイの知らない魔術がある方が驚きだな」
「所詮ボクは過去の存在。未来に生まれし魔術までは把握していないさ」
ストレージから備蓄していた魔力回復ポーションを複数本取り出し、全員に渡す。
何故か全員顔が引き攣る。
これは毒じゃないんだが…
勿論自作品ではある。
試行錯誤を繰り返し数多の失敗の上についに完成した究極のポーション!
何が凄いって、、
「こんなに飲めない」
「ユウ、本来ならこの瓶の半分も飲めば、もう口を通らないよね」
そうだ。
この世界でHP回復ポーションやMP回復ポーションは、あまり好ましく思われていない。
その最たる原因は、味だ。
良薬口に苦しとは良く言ったもので、良薬過ぎるせいか物凄く不味いのだ。
俺でも市販のポーションは1本飲めば、頭痛や気分が悪くなる。
「騙されたと思って飲んで見てくれ」
クロが口をつける。
皆がクロに続き、恐る恐る口をつける。
するとどうだろうか。
目を見開き、ゴクゴクと一気飲みしてしまったではないか。
「ユウ様、これは本当にポーションなのでしょうか?」
錬金術師になってからというもの、暇な時に研鑽に研鑽を重ねていた。
ポーションが不味いというのは、この世界の常識だった。
故に誰もこの味を改善しようなどと思う輩はいなかった。
だけど、俺は違う。
別世界から来た俺はポーションのあまりの不味さに疑問を覚え、調合の時に細工をし、効能を落とすことなく、美味しい味のポーションの生成に成功した。
「当然さ。回復してるだろ?効果の程は最高ランクの特大だ」
結局全員が数本を一瞬で飲み干した。
だが、備蓄していたポーションはこれで底をついた。
最近は忙しくて全く作って無かったからな。また作っておこう。
体力も魔力も全快した所で、奴を追い詰める作戦を立てる。
「ここで奴との追いかけっこは終わりにするぞ」
奴の居場所は・・・やはり、ユミルの砂宮か。
狙いはあの子だろう。
ジラの転移で移動すると、時既に遅かった。
そこは砂漠につくられたオアシスだった頃の面影はなく、モンスター達に襲撃された痛々しい跡が残る荒れた大地と化していた。
「くそっ俺達を足止めしてたのは、これが狙いだった訳か…」
「住人は全滅でしょうか?」
ジラが苦悶の表情を浮かべる。
「反応はない…な…」
生命反応はない。
いや、一つだけ。
「居るのは分かってる。出て来たらどうだ」
正面の空間が歪み、突如として黒い穴が出現した。
「全くキミ達はしつこいね」
中から出て来たのは、サモナとアリシアだった。
しかし、アリシアからは生体反応は感じられなかった。
「キミ達が邪魔するから完成するのに時間を要したよ。だけど、ようやく先程完成してね、紹介しよう」
サモナの発言と呼応するように、アリシアの皮を破り、中から出て来たのは、全身白一色。頭が異様に大きく、頭の半分は尖った目立をしたモンスター。そう、まるでエイリアンのような出で立ちだった。
「この子の名前は、そうだね、メギド。とでもしておこうかな。言わずとも分かると思うけど、彼女を媒介にして僕が生成した最強の力を持った存在」
俺以外の全員が武器を構え、戦闘態勢に入る。
目の前の異質で異様な存在に辺り一帯の空気がどんより重い。
隣にいるスイの表情が固い。
「あながち本当かもしれないね・・・。あのモンスター、底が見えない」
反対側にもう一人が降り立つ。
「気配がするとおもったら、やはり生きていたのか」
スイを付け狙う邪神だった。
「悪いが今は相手をしてあげてる余裕がないね」
異変はすぐに起こった。
クロがボソリと呟く。
「身体が動かない…」
それは俺も同じだった。
重力の類ではない。
それは例えるならば、金縛りでも食らったかのように。
圧倒的に強者の発した威圧で足が竦んでしまったように。
「何だこれは??くっ、お前の仕業か!」
邪神が仕返しとばかりにメギドに石化の魔眼を行使する。
「な、おま、裏切っ……」
しかしどう言った訳か魔眼の効果は反射し、サモナが石化してしまった。
あろうことか、メギドは石化したサモナを粉々に砕いた。
まさか眷属に裏切られるなど予想だにしていなかったサモナは完全に油断していた。
その結末が、死だ。
自らの主を殺したメギドは、依然としてそのあっけらかんとした表示は変わらない。
そして、後ろを振り向くと、邪神を指差す。
するとどうだろうか、邪神は苦しみ出し、数秒の後、口から大量の血を吐き、立ったまま絶命した。
依然として身体が動かない。
動かせるのは、せいぜい、視線と口くらいだろうか。
魔力も練る事が出来ない為、転移で離脱する事も出来ない。
ありったけ力んでみたり、ありとあらゆる魔術を行使しようとするが、やはり発動しない。
それはジラやクロも同じだった。
このまま無抵抗にこんなにもあっさりと簡単に殺されてしまうのか?
メギドの使っている技が魔術でない事は確かだった。
現状、魔術完全無効を発動したままの俺が動けないからだ。
「ユウ、どうやらキミとの再戦はまたの機会になりそうだよ」
スイが弱音を吐くなんて珍しいな。
だけど、流石にこの状況じゃ打つ手がないのは俺も同じ。
「ああ、この状況を切り抜けない限り、俺達に明日はないな」
その時だった。
スイの身体が薄っすらと光り出した。
「いいか、よく聞いてくれ」
全員の視線がスイに集まる。
「これから皆に掛かってる封じを強制解除する。だが、奴はまたすぐ封じてくるはずだ。恐らくだけど、あの大きく見開かれたあの目を見てしまうと動きを封じらてしまうようだ。その証拠に邪神が地に降り立った際、奴は身体をくねらせわざわざ後ろを振り向きその姿を一度視認している。それと、サモナは奴の方を一度足りとも見ていなかった気がする。故に奴の目を見ないように振る舞うしかないとボクは思う」
凄い奴だよお前は・・
やっぱりお前には敵わないな・・
この状況を打開する手段だけでなく、攻撃の糸口までみつけてしまうなんてな…俺なんて、万策つきて諦めてさえいた。
こんな事じゃ、白の魔術にまた怒られてしまう。
「スイの作戦に賭けよう。決して目は見ないように。と言ってもメギドもまだまだ色んな手を使ってくるだろう。奴が次なる手を打つ前に勝負を仕掛けるぞ。各々の判断で最良の攻撃をしよう」
「ん、分かった。私は背後に回って首を飛ばす」
「闇を展開して、あいつの視界を奪います」
「それでいこう。俺達に視界不良は効かないからな」
「作戦が決まったのなら実行に移すよ。ああ、そうだユウ」
この時、スイの顔は直接見えなかったが、何処か悲しそうな顔をしていたようなそんな気がした。
「あっちで待ってるよ」
この言葉の意味を知るのは数分後の事だった。
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