第261話: 邪神復活1

神の代行者編

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我々神の代行者の活動目的は、人族の永遠なる反映。

その為には、人族以外の全ての種族の抹殺と魔界に巣食う魔族を全滅させる事。

その為には、全てを完膚無きまでに叩き潰す程の圧倒的な力が必要だった。

そこで我々は、古い文献を漁り、ある秘密を発見した。


魔の種と呼ばれるその種は、別名邪神の卵とも呼ばれていた。


遥か昔、魔の種より生まれし邪神により、この地界、魔界の生物の殆どが死に絶えた。

その当時、地界で武勲を挙げていた猛者達や魔界で最強の存在たる魔王ですら全く歯が立たない程に。


私は、何十年にも渡る調査の末に、シア大陸の遺跡地下の古代地層より、偶然にも魔の種を複数発見する事が出来た。

自力生成する方法もあるらしいが、結局その方法は分からずじまいだった。


しかし、肝心の魔の種を孵化方法もまた分からなかった。

古代の文献を読み漁るもその事についてはどこにも記されていなかったのだ。

古代人が意図的に記載しなかったのか、今となっては知るすべは無い。


そんな私は、孵化の方法を求め世界各地を放浪している中、とある村に立ち寄った。


そこは、伝染病が蔓延しており、村人は全員死に絶えていた。

すぐに立ち去ろうと思った矢先、ある閃きが起こった。

今まで数限りなく、それこそ数千を超える養分の数々を与えてきたが、一つだけまだ試していないものがあった。


それは死人だ。

魔の種と呼ばれる程だ。人の肉を養分としてもおかしくはない。


そして実験し、結果は見事に成功した。


後に判明した事だが、この種は死人だけではなく、その地に住まう怒りや憎しみと言った負の感情をも養分として吸い取っていた。

人は死して尚、負の感情を消し去る事が出来ず怨霊となりて彷徨い続ける。


確かに種は成長した。

元は米粒程度だったが、1週間足らずで親指の爪程度までのサイズになった。

気が付けば、村人の死体は綺麗サッパリとなくなっていた。

魔の種が養分として吸収したのだろう。


文献によれば、魔の種は最大で子供サイズまで成長するそうだ。


つまりは、もっと大量の死体もしくは負の感情が必要だ。

そこで目をつけたのは、国同士の争い。そう戦争だ。

戦争というのはそういうものが纏めて手に入る格好の舞台でもある。

我は、同じ思想を持つもの同士で神の代行者なる組織を作った。

神の代行者は数年で100を超える規模へと成長した。


魔の種も順調に育ち、何度かの妨害による失敗を繰り返しながらも予定していたサイズにまで成長させる事が出来た。

しかし、そんな折、地界全土へと衝撃が走ったのだ。


忌々しい魔王め…復活するや否やまさか人族と停戦協定を結ぶなどな。

だが、関係ない。魔族は必ず裏切る。

先手を打たれる前にこちらから仕掛ける。

停戦協定など糞食らえだ。


「ハイル様、全ての準備は整っております」


黒いローブで顔を覆い隠した怪しげな人物が跪く。


ついにこの時が訪れた。

我ら神の代行者の祈願への礎が築かれる。

邪神の力を使い、憎き魔族供を根絶やしにし、地界に蔓延る他種族供を1匹残らず消し去ってくれる。

この世界に人族以外必要ないのだ。


「ではこれより邪神復活の儀式を執り行う」


最大成長した魔の種を石段の上に置く。

ここは、海の底に造られた神の代行者のアジトの一つ。


白の魔女が介入した時は正直肝を冷やしたが、ここならば誰にも邪魔はされまい。


文献に記されていた通りの呪文を唱える。


すると、すぐに種が淡く光り輝いたではないか。

ついにこの時が来たのだと胸が高鳴る。


ハハハッ!待っていろ魔族供!


種にヒビが入り、やがて外皮を破り中から何かが出てきた。


それは、人族に例えるならほんの子供、8歳程度だろうか。

邪神と言うから一体どんな姿形なのかと思いきや、額に目があるのを除いてはまんま人族に近い姿だろうか。

まだおぼつかない足で必死に立ち上がる。


目は見えているのか、はたまた眩しいだけなのか、細めて左右に行ったり来たりさせている。


そういえば、養分となった物に近い形で生まれて来ると書いてあった気がするな。

まぁ、どちらにしても姿形など関係ない。

重要なのはその強さだ。


邪神は、その場に立ち竦み。自らの手を見たりその視線は忙しなく動いていた。

時折「アー」だの「ウー」だの声にならない呻き声をあげたかと思うと、今度は一転して沈黙が訪れた。


邪神は右手を掲げて何やら口をモグモグさせていた。

恐らく魔術を行使しようとしてるのだろうが、生憎その中・・・では使えないぞ。

外へ出ようともがいているが、無駄だ。


邪神を誕生させるに辺り、当然入念な準備をしている。


邪神の足元には多重魔法陣を展開させていた。


決して外へは出れない行動阻害の魔法陣。

魔術やスキルの類が一切使えない魔法陣。

そして、これが最も重要な対象を服従させる魔法陣。


どれも文献に記載されていた邪神に対してのみに有効な魔法陣だ。


賭けだった。

文献に記載されている内容が全てが本当とは限らない。


だが・・・


「ハイル様、じゃ…邪神が頭を垂れています」


どうやら我は賭けに勝ったようだな。


「名は何と言うか」


邪神は依然として我に対して頭を下げたままだ。


「・・・僕の名はエリアス」


おどろいたな…この短期間で流暢に我々の言葉を話せるようになるとは。

知性の方も相当に高いのが伺える。


「エリアス、貴様の主人は誰だ?」

「貴方様です」


真っ直ぐに我を見て告げた。


やったぞ!やはり服従は成功したようだ。

さて、まずは邪神の実力を見させてもらおう。


「主人であるハイルが命じる。まずはエリアス。貴様の力が見たい。コイツと戦ってみろ」

「なっ!わ、私ですか!」


指を刺された人物が驚き、一歩後ずさった。


「お前は一度失敗をしていたな。失敗には責任を取る必要があるとは思わないか?」


ラースは我ら神の代行者の中でも一番の使い手だ。

普段から漆黒のローブを羽織り、元彼の国の宮廷魔術師をしていた経歴を持つ。

属性も火水雷の3属性を操る事が出来る。

ラースは堕落していた王政に失望し、我ら神の代行者に合流した。


英雄級の力を持つラース相手に果たして邪神はどう戦うのか。


地下にある戦闘訓練場へと移動する。


「どちらかが降参するまでだ。では始め!」


ラースは自身の四方に3属性の魔球を出現させたかと思えば、その球から雷撃ライトニングボルト火撃ファイアーボルト水撃アクアボルトが同時に放たれた。


邪神は避けるでもなく魔術で防御するでもなく、何もしなかった。


「何故避け・・・・そうか、私の魔術程度避けるまでもないと言うことか!」


何事も無かったかのように佇んでいた邪神にラースは自身の最大の魔術を行使した。


全ての魔力を消費して発動されるその魔術の名は、トリプルボム。

ユウの使う4属性のエレメンタルボムの3属性バージョンだ。


邪神に触れた瞬間に大爆発を起こした。

強固に造られたはずの戦闘訓練場の壁も見事に破壊されてしまっていた。


「はぁ…はぁ…これならどうだ!」


文字通り魔力の殆どを消費したラースは、片膝をつき、衝撃により発生した粉塵が晴れるのを待っていた。


「そんな…ありえん…無傷だと言うのか?」


最初の状態から全く変わらぬ姿の邪神にラースは恐怖すら抱いた。

元より自分に勝ち目などないのは最初から分かっていた。

分かっていたが、まさかこれほどまでに実力差があるとは思っていなかった。


次の瞬間、ラースの首が宙を舞った。

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