第249話: 援軍
アニ達がトランスゲートへ向かっていると突如として全身を超重力が襲った。
堪えきれずに全員が地に顔を伏せる。
「な、何が・・・」
アニはうつ伏せのまま、必死に顔の向きを変え、嫌な気配を放っている方へ顔を向ける。
そこにいたのは・・
まるで何事も無かったかのように涼しい顔をしていたユリシアと、すっかり負傷が治っていたアンの姿だった。
更に見知らぬ人影がもう四人。
一人は青いミトラを頭に被り、白を基調としたドレス、その姿はさながら聖女そのものだった。
「いやー助かったよメルちゃん」
ユリシアにメルと呼ばれたのは、聖ローランド王国の聖女メルフリーテル。
以前、ユリシアを盗伐する為に勇者一行が戦いを挑むも、返り討ちに遭い、そのままパーティー全員手駒とされてしまった。
更に
つまりは、死にさえしなければ、どんな傷でも即時に回復する事が出来る。
もう一人は、パラディン。
盾騎士の最上級職で、勇者、聖女に続いてその数は希少だ。
攻撃はあまり得意ではなく、パーティでは盾役を努めている。防御に特化した職で、極めればダメージ無効などのスキルを習得する事が出来る。
「さてと、今残った貴方たちももれなく私の手駒にしてあげる。感謝しなさいよ」
「誰が貴様みたいな悪魔に感謝など・・グォ・・」
愚痴を呟いたラグールの一人がアンの投擲した小石に頭を貫かれ絶命する。
これは冗談抜きで打つ手がないわね・・。
あの化け物少女に対抗出来そうなのは、ユイさんくらい。だけどユイさんはまだ気を失ったまま。
手負いならまだチャンスはあったのに・・・。
どのみち手足一つ動かせない今の状態では何も出来ない。
あんな奴に良いように操られるくらいならば・・いっその事・・・。
何かが地面に着地した音が聞こえたかと思えば、身体を押さえつけていた超重力が綺麗さっぱり消えてしまった。
「お前らが7大魔王とか言う輩か?」
声を発したのは、つい今し方この場に現れた人物。
白い水着に白いマントという一見場違いなこの少女。
しかし、彼女がアニ達に掛けられていた重力を解除した本人でもあった。
「なーにあなた?ここを海水浴場か何かと勘違いしているんじゃないかしら?」
「生憎そう言った冗談は好きじゃないんじゃよ」
少女は両手を前に出し、一言だけ何かを唱えると、ユリシア達5人を取り囲むかのように透明の球体形状の結界を出現させた。
すぐにアンが結界の破壊を試みるが、まるで結界が嘲笑うかのように弾かれ、攻撃を全く受け付けなかった。
「貴女は一体・・」
アニの言葉に少女が振り返る。
「お前らがユウの言っていた連中じゃな」
「え、私達を知ってるのー?」
少女は一頻りアニ達を一瞥すると、己が敵の方を見直す。
「まあその話は後じゃ。まずは彼奴らを消し炭にしてからゆっくり話そうぞ。其方らが7大魔王なる輩で間違いないな?」
「ええ、そうだと言ったら?」
「其方らに恨みはないんじゃが、悪いが友との約束の為、消えてもらう」
《
ガラスが割れるような甲高い音を発しながら、少女は結界ごと中にいる人物諸共、文字通り破壊した…。
「絶対防御か、厄介じゃな」
結界の中から出て来たのは、パラディンがその大盾を前に構えている以外は、攻撃を仕掛ける前と変わらない姿だった。
アンの姿が消え、一瞬の内に少女の背後に回り込む。
そのまま無防備な後ろ姿に斬りかかった。
しかし、アンの攻撃は見えない壁に阻害され、その壁に触れた瞬間、凄まじい電撃がアンを襲った。
普段の彼女ならば、それを避ける事は造作もない事だが、ありえない場所から攻撃が遮られてしまった事で回避の判断をほんの0.1秒程遅らせてしまった。
全身を黒焦げに焼かれ、下へと落下していくアン。
少女はそれ目掛けて虚空から取り出した大きな槍を投擲した。
槍はアンの身体を貫通し、そのまま一緒に地面へと突き刺さる。
「一体何者よ、あんた?」
ユリシアは。自身の信頼するアンがまるで赤子のように敗れてしまった様を見てここへ来て初めて警戒心を露わにした。
「そうじゃな。名乗る程の者でもないんじゃがな。まぁいいか。儂の名はシュタリアじゃ。周りからは白の魔女と呼ばれておるがの」
「白の魔女?知らないわねぇ。でも誰であろうと関係ないわ!行きなさい!」
何処から現れたのか、ユリシアの背後から二人の人物が白の魔女に向かい飛びかかる。
一人は途中で止まり杖を構え詠唱を唱える。
一人は腰の剣に手を掛け、抜刀の構えを取ったまま白の魔女の眼前まで迫る。
剣の届く位置まで一瞬で到達し、抜刀する。
いくら速くても真正面では無意味だと若干呆れながらも白の魔女は魔術で応対する。
しかし、次の瞬間白の魔女は背後から首を刎ねられてしまった。
「移動した・・・じゃと・・」
一人が放った魔術は、対象一人を視界の届く限りの任意の場所に転移させる術。
相当高位な魔術の一つだが、これも本来彼が持ちえていた魔術ではなく、
彼も聖女と一緒に自らの手駒にした存在。魔術師カールと言えば、魔導の道を志す者ならば知らない者はいない程の実力者だった。
白の魔女に飛びかかった彼がカールの仲間である勇者セム。
彼もまた勇者としては中々優秀で実力も確かなものだった。
ユリシアの手により強化された勇者一行は、本来の何倍もの力を発揮出来るようになっていた。
「あははっ、白の魔物だか魔王だか何だか知らないけど、大した事無かったわね!」
本来、生物は首と胴体が離れれば死は免れない。
それは魔女とて同じだった。
しかし、白の魔女に至ってはその常識は通用しなかった。
頭部のない胴体が既に勝敗は決したと油断しきっていた勇者と魔術師に対して魔術を撃つ。
複数の魔術をほぼ同時に、且つ2人別々に一瞬で行使する。
《捕縛》《
「全く酷いことしてくれるの」
いつのまにやら頭部が再生している白の魔女は何事も無かったかのよう動けなくなっている2人の元へと歩み寄る。
「ふむ。例え操られていようと儂にたてついた時点で死罪は確定しておる」
自らがされたようにあっけなく二人の首を落とした。
その際、先程アンにやったように虚空から取り出した槍を同じように腹部に突き刺す。
「残りは3人じゃな」
圧倒的なまでの強さを前にアニ達はただ見守る事しか出来なかった。
「ね、ねぇ、あの人凄いよ!白の魔女って、確か前にユウさんが言ってた人だよね」
「え、ええ、危険だから決して近付くなよ?と」
小声で話していたが、白の魔女には筒抜けだった。
「聞こえておるわ!」
2人の体がビクリと震える。
「人を化け物みたいに言いおってからに」
初めてこのタイミングでユリシアが動く。
「纏めて私の手駒になりなさいな!」
怪しげな紫色の怪光線が白の魔女目掛けて放たれた。
その直線上にいたユイを抱えているアニ、ルーもまたユリシアのターゲットにされてしまった。
咄嗟の出来事に2人は反応出来ない。
しかし、アニ達の前に転移した白の魔女が結界を展開する。
怪光線は結界に阻まれ、やがて消えた。
「世話が焼けるの」
「あ、ありがとうございます魔女様」
「ありがとー!シュタリアさん!」
「まぁ良い。この結界の中なら大抵の事に対しては安全じゃろう。絶対出る出ないぞ。それにその片足メイドもお主らの仲間じゃろ?」
いつの間にかアリスを連れて来ていた白の魔女は、アニ達を結界内に残して外に出た。
「さて、それじゃあ王手を取らせてもらうかの」
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