第247話: ユイ達の危機

「遅れて悪かったな、ギリス坊」


エルフには似つかわしくない程の筋骨隆々の体躯の人物が作戦室へと入ってくる。


ざわついていた場がシーンと静まり返る。


「ご無沙汰しております団長。後、その呼び名はやめて頂きたい」

「あー悪い悪い、ついいつもの癖でな、それより、この場に見知らぬ、ましてやラグールじゃねえ奴も居るじゃねえか、紹介してくれや」


それってきっと私達の事だよね。

そういえば何だか嫌な視線を感じるのは気のせい?


「彼女たちは、我らの命の恩人です。一緒に戦って頂いています」


ライルディン様と言えば、エルフの精鋭ラグールの団長をしている人物でもある。

恐らく、私が知る中ではエルフ族で最も強い人。


「初めまして、私はアニ・クロスマリー。微力ながらエルフの里の奪還に御協力させて頂きます」

「へぇ、姉ちゃんハイエルフだな。直に見るたぁ久々だな。ハイエルフと言えば、自里から出る事はないと思っていたんだがな」

「きっと私が変わり者なんだと思います。今は訳あって彼女たちと一緒に冒険をしています」

「結婚してくれ」

「・・・はい?」


この場にいる全員の視線が集まる。


え?結婚?


なに、私プロポーズされたの?

しかもイキナリ?


「ちょっと団長、何を言っているのですか・・」

「いいじゃねえか、容姿も悪くねえしよ、あれだ、一目惚れってやつだ」


・・・。


言って近付いてくるライルディン様と私の間にユイさんが割って入る。


「何だ嬢ちゃん、何も取って喰うって訳じゃねえ、そう怖い顔しなさんな」


ありがとうユイさん。

大丈夫、仮に襲われても私逃げるのは得意なんですよ。

でもこの人はイキナリ何言ってくれてるんでしょうね。そんなの答えは決まってるじゃない。


「申し訳ありません、そのお話をお受けする事は出来ません。私には既に心に決めた方がいますので」

「なんでえ、そんなら仕方ねえかって、簡単には諦めないけどな。まぁあれだこの話の続きは無事に全ての里を救ってからゆっくりしようぜ」


はぁ、面倒ですね。


「私の想いは変わりませんよ」


ライルディン様に精一杯の嫌味を込めた笑顔をする。

私はユウ様以外眼中にありませんから。

そんな私の心情を知ってか知らずかユイさんに若干のジト目で睨まれてしまった。


「ゴホン。では、これより次の里奪還に向けての会議を・・」


ライルディン様を中心とした奪還作戦が開始した。

別任務で抜けていたライルディン様と別に3名が加わった戦力は圧倒的なものだった。


危なげなく次々と奪い返していく。


そうして、ようやく最後の里までやって来た。


「ここは黒野郎の里だな。俺も入るのは初めてだが、ゲートがまさか黒野郎の里にまで繋がっていたとは驚きだな」

「団長、あまりデカイ態度を取らないようにお願いしますよ。古の頃はダークエルフたちとは共に手を取り合っていましたからね、その頃からの名残でしょう。それと黒野郎という呼び名は駄目です」

「ギリスよ、お前は俺のお袋か?まぁ、了解だ」


これまでに奪い返した里の数は12。

犠牲者や戦線離脱した者を除いて、今この場には16人だけが残っていた。


ゲートを抜け、階段を上がり外の広間までやって来た時だった。


「待っていたわ」


広間の奥に 4人の人影がある。

広間には見るも無残な屍が並んでいた。

肌の色から察するに、この里の住人たち・・


酷い・・酷すぎる・・


ライルディンが皆に静止するように手を挙げる。


「お前が黒幕だな」


黒幕、そうか・・彼女が今回の一連のエルフの里襲撃の首謀者なのね。

華奢な体躯。とても魔王と呼ばれている存在には見えない。

恐らくあれが、ユウ様の言っていた7大魔王の一人。

その周りには、彼女を守るように3人戦士が武器を構えて立っていた。


「7大魔王が一人、ユリシアよ。宜しくねエルフの皆様」


仰々しくユリシアは一礼する。


次の瞬間、ライルディン様の姿が一瞬のうちに消え、気が付けば彼女の前まで移動していた。

瞬きをするほんの刹那の瞬間。斧を振り上げ振り下ろす。

しかし彼女は微動だにしない。

というより素早い動きについて行けていない。

かく言う私も。目ですら追えていない。


辺り一帯に甲高い金属音が響き渡る。


ライルディン様の振り下ろした斧を護衛3人の武器が受け止める。

目では全く追えなかったあのスピードに護衛の3人は反応していた。


それにしてもあの護衛、無表情で何だか怖いわね。

顔色を一切変えないのは、自分の意思とは無関係に動かされているのだろうか?


ライルディン様は力で押し切れないと判断し、後方へと退く。


「流石に簡単に終わらせてはくれんようだな。それに優秀な護衛を連れているな」

「お褒めに預かり光栄ね。貴方も私の護衛をしても良くってよ?」

「悪いが遠慮させて貰う。おいギリス、護衛の3人はお前等で何とかしろ。俺が大将を叩く」


その言葉に小さく頷き、ギリス様が的確に指示を飛ばしていく。

こちら側は数の有利差を利用し、複数人で対処する事になり、私達は護衛の一人を任された。

その人物は長剣を担いだ着物を着た青年。


「私あいつ知ってる」


ユイさんの話だと、以前戦った事があるようで、凄く強かったらしい。

その人物は真っ白な袴を羽織っており、腰に刀を右手にもう一振りの刀を手にしていた。


その人物は、かつて傭兵団グリモアに所属していたザン・キだった。

ユウ達とは、以前一戦交えた事があり、その実力はかなりのものだった。

ユリシア討伐の依頼を受けたザン・キは、見事に返り討ちに遭い、洗脳によって手駒のように操られてしまっていた。

ユリシアによって、身体能力もかなり向上している。


「俺っちの相手は、あちらのお嬢さん方っすね」


自らの相手を認識したザン・キは、ユリシアの元を離れ、ユイたちの元へと歩み寄る。

他の護衛たちも自らの相手を見定めそれぞれ散っていく。


「全く、主人の元を離れるなんて護衛失格じゃない?貴方もそう思うでしょ?」

「知らねーな。だが、大将同士正々堂々決着をつけようじゃねえか」

「私暑苦しい男は嫌いなのよね」


巨大な戦斧を振り上げると、再びライルディンがその場から消える。

そのままユリシアへと振り下ろされたが、またしても先程と同じように阻まれてしまった。


小柄なエルフの少女が身の丈程もある戦斧を軽々と受け止めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「この程度っすか?」


ザン・キと戦闘を繰り広げていたユイたちは、彼の強さに4人掛りでも苦戦を強いられていた。


ルーの召喚した精霊は、ことごとく斬り伏せられ、アリスは既に片足を失っていた。

主人であるユウの魔力がなければ自らを修理する事が出来ないアリスは、大幅に戦力を削ぎられてしまった。


ユイが高速で剣技を振るうが、ザン・キは涼しい顔をし、全てをいなしている。

2人は、まるで光が移動しているかのような速度で斬り合っていた。

先程のライルディンの速さにも引けを取らないだろう。

だが、それでも・・・


「強すぎだよ!あんなの勝てっこない!」


精霊の連続召喚で息を切らしていたルーは、既に戦意喪失していた。


ユイの本気の攻防、瞬十字ソニッククロスを放つも、ザン・キはその全て防いだ。


「今のは中々危なかったっすね、でもまだ足りないっすわ」


無慈悲な一撃がユイを襲う。


鮮血が宙を舞った。

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