第228話: 魔界侵攻の行方
ディテールへと入った俺達は、すぐにジラと合流した。
ここは、市街地から外れた寂れた場所のようだ。
廃屋の残骸や、生ゴミがギッチリと通路一杯に敷き詰められている。
鼻をつくようなツンとした腐臭が立ち込めていた。
まともな人ならば、この場所に近付こうとは思わないだろう。
「ターゲットの妖魔族ですが、あそこに見える廃屋に入ったっきり、出て来ません。かれこれ2時間以上は経過しています」
「確かにあの中に反応が一つだけあるな」
もう暫く待っていると、この場所に近付く反応が現れた。
幸い、この辺りには隠れる場所はいくらでもある。
物陰に隠れてやり過ごすと、案の定その人物は妖魔族のいる廃屋へと入って行った。
今度は、
妖魔族に吸血鬼族に犬獣人か・・。
異種格闘技でも始めるつもりだろうか?
まぁ、冗談はさておき、このまま待っててもらち埒があかない。
「突入するか」
捉えて自白させれば何かしらの情報は得られるだろう。
自白に関しては久々にノアに活躍して貰うつもりだ。
っと、考えていると背後が慌しくなってきた。
これ以上人数が増えると面倒だな。
「別れて行動しよう」
「え?」
ジラとクロが不可解そうな顔で此方に顔を向ける。
「後方約500m付近に5人の反応が近付いてくる。それに廃屋の中の2人も何だか動きが慌ただしい感じがする。何か行動を開始するのかもしれない」
「一度離脱しますか?」
「いや、時間も惜しい。まとめて相手をするぞ」
「私が背後やる」
「ああ、任せた。ジラも後方を担当してくれ。人数的にな。2人なら大丈夫だろうけど、油断はするなよ。それと、殺しはなしだぞ?」
「私は1人で大丈夫ですので、クロちゃんはユウ様についてあげて下さい」
「心配してくれるのは有難いけど、だめだ。後方は相手の実力が未知数だからな。2人に任せたい。それに廃屋の2人は、職とレベルは把握している。俺1人で問題ないよ」
まだ納得はしていないようだけど、俺が考えを曲げないと思ったのか、ジラがコクリと頷き了承した。
「終わり次第すぐに駆けつけますから」
「ああ、分かった」
2人と別行動を開始する。
策は無しだ。真正面から堂々と乗り込む。
勿論、透明化マントを羽織ってるけどね。
卑怯?
石橋は叩いて渡るくらいが丁度いいんだよ。
どのみち、瓦礫の山の為、歩くたびに、ミシメシと足音が鳴っている。姿を隠す意味はないかもしれない。
「誰だ!」
やっぱりバレたか。
透明化マントを外して姿を見せる。
「貴様は・・・この辺りを嗅ぎまわってる奴の仲間だな。ギルドからの差し金か?」
たった数時間でそんな噂が広まっているのか。
「いや、あんたらの行動の目的に興味があってね。魔界にでも乗り込むつもりかい?」
核心をついて驚かすつもりが、2人の表情は変わらない。
「何者かは知らんが排除する」
スキル欄にあった、倍化だろう。
壁に立て掛けてある巨大な戦斧を持ち上げる。
吸血鬼族は何やら怪しげな呪文を唱えると、そのまま持っていた短剣を素早く俺目掛けて放り投げた。
最小限の動きでそれを躱した先に犬人(シエンヌ)が斧を振り上げて待ち構えていた。
脳天目掛けて振り下ろされた戦斧を片手で掴む。
「おりゃ!」
そのまま
流石にボロ屋だけあり、何枚かの壁を破壊した後、やがて視界から消えた。
吸血鬼族の元へ歩み寄ろうとした所で異変に気が付く。
脚が動かない。
いつの間にか、下半身に荊のようなものが巻き付いていた。
さっきの呪文か?
吸血鬼族の職は呪術師。
さっきジラには大見得切ったが、そんな職は聞いたこともない。
今は亡き、失われた職か何かか?
俺の動きが止まったのを確認すると、再度短剣を投擲してきた。
転移が使用出来ないところを見るに、この荊どうやら魔術の類も使用出来ないらしい。
だが、脚は動かないけど手は動く。
投擲された短剣を易々と手で掴むと、そのまま吸血鬼族に向かって投げ返した。
避ける間がなかったのか、右脇腹に見事に命中する。
大丈夫、命を奪ったりはしないから。
「な、何故・・動け・・・」
薔薇が消失したかと思いきや、吸血鬼族が口から泡を出し、苦しみ始め、やがてその身体が溶けて・・・え?溶けて?
やがて、消えた。
「おいおいまじかよ・・・短剣に毒か何かが塗ってあったのか?」
生け捕りにするつもりが、最悪の結果になってしまった。
もう1人の方はと言うと・・・うん、逃げ出してるね。
もうかなり遠くまで行ってるな。
でも悪いけど俺からは逃げられないよ。
すぐさま
どうやらジラ達はまだ交戦中のようだ。
「くそっ!一体お前は何者だ!」
「それはこっちのセリフだよ。お前らのバックにいるのは誰だ」
「い、言えねえ・・・それを言うと俺はまた殺される」
また?と言う言葉に疑問を覚えつつも、元より正直に話すとは思っていない。
(ノア、頼めるか?)
(はいはーい)
一歩、また一歩と
「へへっ、お前らはもう終わりだよ」
奥の手でも隠し持っているのか?
「間も無く彼の方がおいでになる。そしたらお前らは終わりだ!!はははっ・・・う・・・な、に・・・ぐはっぁぁぁー」
吐血をして、急に苦しみ出したかと思えば、そのまま生き絶えた。
その亡骸は灰になって、飛散していく。
その時だった。
脳内警報が鳴り響く。
これは、確か・・・
すぐに7大魔王の居場所を確認する。
と言うのも、7大魔王が範囲1km圏内に近付いた際に警報が鳴るようにセットしていたからだ。
マズい。
ジラ達の近くにラドルーチって奴が来ている。
すぐに転移で2人の元へ向かった俺は、戦況を確認する。
全員を丁度拘束し終わった所のようだ。
2人がこっちに気付き、駆け寄ってくる。
声を掛ける間も無く、すぐに2人を抱えてその場を離脱した。
街の反対方向まで離れたので、一先ずは大丈夫だろう。
「ユウ様、血相変えて一体どうされたのですか?」
「7大魔王が現れたんだ。1分としないうちにあの場所に来ていたよ」
「そいつ倒す?」
「いや、俺達だけじゃ無理だな」
恐らくラドルーチの目的は、魔界を攻めるつもりなのだろう。
だけど、あの転移門は片方からでは開ける事は出来ない。
魔界内に協力者でもいない限り奴等が魔界に渡る事は絶対に出来ない。
「ジラ、魔界側に奴等の協力者がいると思うか?」
「そうですね、あってもらっては困りますが、ありえなくはないと思います。今の魔界体制に不満を持っている連中は実はたくさんいます。魔王様が不在の中、もしその体制を壊すのに協力すると言う話なら、恥ずかしい話ですが、乗ってくる連中はいると思います」
「だったら、この事を魔王代理であるメルシーに伝えて、転移門を固めておいた方がいいな。てことは、また魔界に行かないといけないのか・・」
「その必要はありませんよ」
ジラが首に掛けていたものを服の中から取り出した。
その際、チラリと下着が見えた事は黙っておく。
「私達クオーツ同士は、この魔導具を使ってコンタクトを取る事が出来ます。有事の際の連絡手段ですね」
「ならそれを使って、この事態を伝えてくれ。相手さんは悠長に待ってくれそうになさそうだ」
ラドルーチの反応が街から離れ、件の転移門の方へと向かっていたのだ。しかも
「ありのままを伝えたのですが、少々問題が・・」
「問題?」
「はい、たまたま転移門の近くにいたクオーツのラザルが転移門の異常を伝えてきました。何故だか、転移門が開場状態となっていて、閉鎖する事が出来ないようです」
やはり、魔界側内部に裏切り者がいたって事か。
「マズいな、奴等もう転移門のすぐ近くまで来てやがる」
「魔界側の精鋭達を直ちに転移門に向かうようにフラン様から指示が出たようですが、場所が場所なだけに到着まで数時間は時間を要するでしょう」
「覚悟を決める必要がありそうだな・・」
「私達で時間を稼ぐ」
「ああ、それしかないな」
ジラとクロが臨戦体制に入る。
「いいか、何度も言うが無茶はするなよ。それと今度ばかりは生け捕りだなんて甘い考えは捨てる。敵対する勢力は全員排除だ!」
「「了解」」
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