第210話: プラメルの危機
「エレナ、この状況は一体⋯」
エレナと一緒にエルフの里に戻る否や、衛兵達に取り囲まれてしまった。槍を突きつけられて、身動きが取れない状況にいる。
「シュートル! これは、どういう事なの!」
紳士服を着た長身のエルフが顔色一つ変えずに応えた。
「姫様がお留守にしておられる間に王が変わりましてね。私共はその新しき王の命令を遂行しているまでですよ」
「そ、それは一体どういう事なのですか。お父様はどこ! お母様は!」
「騒がしい姫様ですね」
シュートルと目配せした近衛隊が、エレナを取り押さえようと動く。
「ぐぁっ⋯」
小さく呻き声をあげると、1人が地面へと倒れ込んだ。
「悪いけどエレナには指一本触れさせないよ」
「な、なんだ貴様は!」
「そうだな⋯姫様を護る騎士ってとこかな」
「おかしな事を。近衛隊、構うな。そいつは殺せ」
指示と共に、近衛隊は一歩下がり、俺と距離を置く。
そうして、短い高速詠唱から放たれたのは、多種に渡る魔術の数々だった。
四方八方から魔術が着弾⋯する前に障壁を展開し、それを防ぐ。
あっぶないな。エレナに当たったらどうするんだよ。流石に少し頭にきたな。
「ユウ様、どうか近衛隊を傷付けないで下さい。何か事情があるのだと思います。無理を承知のお願いです。どうか⋯」
着弾による粉塵と衝撃音で、俺たち2人の姿はおろか、会話の内容でさえ外には聞こえないだろう。
「相変わらずエレナは優しいよな。分かった。取り敢えず、両親の元に向おう」
「でも、一体どこにいるのか⋯それに無事なのかどうかも⋯」
「大丈夫。二人は無事だよ」
「それは本当ですか」
「ただ、牢獄に捕らえられているみたいなんだ。この場所は⋯ええと、王宮の地下辺りだな」
メルウェル様に貰った新スキル、指定把握によって、何度か会った事のあるエレナの両親の場所が分かった。
本当これ便利だよね。
「な、消えただと! 早く探し出せ!」
粉塵の過ぎ去りし頃には、既に俺たちは別の場所に転移した後だった。
「ユウ様、ここは?」
「ああ、エレナの寝室だよ」
「で、ですね、少し気が動転してました。牢屋はこの塔の地下にあります」
エレナが震えているのを感じる。両親の身を案じているのだろう。
「ユウ様?」
「ああ、悪い。流石にこのままだと外を出歩けないからな、姿を隠して進もう」
ストレージから透明化マント取り出して羽織り、地下へと向かう。
それにしても、
道中も、エレナは方向を示唆するだけで、俯いたままだった。
早く両親の無事な姿を見せてあげないとな。
そんなに広い王宮ではなかった為、すぐに目的地へと到着した。
しかし、地下牢へと続く扉の前には、看守と思われる人物が俺たちを待ち構えていた。
隣にいるエレナが、その目を大きく見開く。恐らく知り合いなのかと思いきや、どうやら俺も見知った顔のようだ。こんな場所にいるはずもないその人物がそこにいたのだ。色々と因縁のある人物で、エレナと会う気遣っ掛けにもなった人物だ。出来れば金輪際会いたくはななかったゲス野郎だな。
「マルベス⋯」
思わずエレナが声を発してしまった。この透明化マントは、姿こそは消してくれても発する音までは消してくれない。
「その声はエレナ様ですか」
バレてしまったみたいだな。バレてしまっては仕方がない。
俺自体はバレてないから、ここでエレナだけの姿を晒せば、俺だけは隠れられるだろう。まぁしないけどね。
透明化マントを脱ぎ、その姿を晒す。
その姿を見たマルベスは、凄くというかかなり驚いてる。
「き、貴様は! あの時の人族か!」
「どうも、久し振りだな。まさかこんなとこであんたに会うとは思っても見なかったよ」
マルベスとはエレナと出会ったキッカケとなった人物だ。それだけなら良かった。だけどあいつは、そのエレナを何度も罠にかけようとし、あまつさえ殺めようとしやがった。俺はお前を許さない。絶対にだ。
悪事を全て晒されたマルベスは、エレナの父であるロイド王の手によって、二度とエルフの里の敷居は跨ぐ事が出来なくなっていたはずだった。
「どうやら、やはり私にも運が巡ってきたようですね」
「マルベス、貴方がなぜこの場所にいるかなんて興味はありません。すぐにそこを退きなさい」
「ほぉ、少し見ない間に成長されましたな。あの時は泣叫ぶだけだったと言うのにね」
下卑た笑いをエレナに向けながらクククと笑っている。そして、懐から何かを取り出し、徐に地面へと投げつけた。
中から黒煙が上がり、狭い地下牢前の空間を一瞬の内に覆っていく。
念の為、エレナを抱えて後方に退く。
「な、なんですかあれは⋯」
煙幕が消え去った場所には、腕が1.2...6本ある筋骨隆々の化け物がマルベスの横に立っていた。
さっきの煙幕は、あの化け物を召喚する為のアイテムだったのか。にしてもこの化け物、中々にレベルは高いようだけど、スキルが何もないのは妙だな。後は、種族が分からないのは初めてだ。
名前:ゴイズゴルン
レベル:70
種族:??
弱点属性:火
スキル:なし
「流石の貴様とて、こいつには勝てんだろうさ。ハハハッ」
マルベスが何やら騒いでいるが、様子がおかしい。
「エレナ、俺の背後に」
「は、はい」
「お、おい! やめろ! 敵はあいつだ! 私じゃな、やめろおぉぉぉ!」
次の瞬間、筋肉ダルマの拳により一撃でいとも簡単にマルベスがペシャリと潰れた。それこそ空き缶を踏み潰すように簡単に。
人ってあんなに簡単に潰れるものなのか⋯。
マルベスとは敵同士だけど、こうも最期が無残だと哀れで同情するな。
「自分で召喚しておいて、ちゃんと責任取れよな」
当然のことながら筋肉ダルマのターゲットがこちらへと移る。1階へ逃げるとわざわざ隠れて侵入した事がバレてしまう。それは、この場で音を出しても同じだ。
「悪いけど、一瞬で終わらせてもらうよ」
ストレージから聖剣アスカロンを取り出す。前からは既に筋肉ダルマが切迫しており、3本の丸太のような太い拳がすぐ眼の前まで迫っていた。
ハムをスライスするかの如く3本、もとい6本全ての腕を斬り落とし、 最後に首を斬り落とした。
巨体が地面へと倒れ込む。
しかし、その前にストレージへと収納した。こいつの死体。何かの繋がりがあるかもしれないから時間がある時に調べてみるかな。
「圧倒的ですね」
「いや、見た目に騙されたけど、意外と弱かったみたいだよ」
勿論そんな事はない。ガタイにそぐわない身のこなしの速さ。拳を振り落とすスピード、ユイでも避けるのは容易じゃなかったかもしれない。
だけど、限界突破した今の俺にはスロー再生に見える程だった。
地下牢の鍵を探したけど、何処にも見当たらない。まぁ、詳しく調べるのはエレナに断られたからなんだけど。人が潰れた場所にいつまでもいるのは、流石に嫌だよね。
仕方がないので、サクッと鍵を壊して、中へと踏み入る。
俺には事前に
「お母様! お父様!」
「え、その声はエレナなの?」
柵越しに手を取り合っている。
「どうやってこの場所まで来たの?」
「はい、ユウ様と一緒に」
泣きながら再会を喜びあっている。
折角の家族との再会の場面を邪魔するのは忍びないけど、いつ追加の見張りが来るか分からない。俺としてはすぐに脱出したい。
「ユウさん、この度はロイド共々助けて頂き、本当にありがとうございました」
「いえ、間に合って良かったです。それと、ここはまだ危険ですので、何処か安全な場所へ移動したいのですが」
「うむ再会の挨拶はこの状況を何とかしてからじゃな。ならば、今は使われていない離れの御所がいいじゃろう」
「それなら私も知っています」
「分かりました。ではそこに移動しましょう。エレナ、道案内を頼んでも?」
「はい」
まずは、エレナと2人だけで姿を隠して、その場所まで移動する。
そして、後から集団転移で捉えられていたエレナの両親たちを移動した。
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