第203話: アーネストvs魔王4

先手必勝じゃ。


爆雷!!


正確無比ないかづちが、アーネストとその周囲一帯を襲う。


魔王が、相手の実力を図る際にいつも使う手だ。

不意打ちの所に超高速の一撃。

普通ならば避ける事は、ほぼ不可能に近い。

しかし、実の所、速さだけで然程威力はない。


これを避ける程、身のこなしが素早い相手ならば、まともな魔術は当たらないだろう。

しかし、厄介なのは避ける奴ではない。

魔術に当たるにしても、少しでも避けようという素振りがあるかどうかで、真価は変わってくる。

避けようとして、避けきれない場合は、相手の評価としては一番低くなる。

最も厄介なのは、反応出来ても敢えて避けない場合。

見た目からこの爆雷の魔術威力を測る術はない。

魔術を喰らう事に対して、何の躊躇いもない場合。

喰らっても問題ないという余裕の現れ。


魔王が恐れているのは、単に魔術による耐性が高いだけではなく、魔術を完全無効化する事だった。


妾の側近の中に、魔術を無効化する魔導具を持った人物はいる。

しかし、それは本来其奴が持っている能力ではなく、魔導具がもたらしてくれる恩恵に過ぎんのじゃ。


故に妾とて、真に魔術が効かない奴と対峙した事はない。

そして、目の前の奴は、涼しい顔して妾の爆雷を受けておる。


ニヤついた顔がイラっとさせる。

現時点での判断はまだ出来かねる。


どうやらもう一度確かめる必要があるようじゃな。


全てを焼き尽くす黒い炎。

黒炎放射ダークヘルフレイム!!


その光景は黒龍の如き黒く、そして巨大な塊が一瞬の内にアーネストを包み込む。

さながら黒龍に飲まれた者は夜が来たと錯覚する程に周りが漆黒に包まれる。


さあ、どう出るんじゃ?

それをまともに喰らっては、流石の妾でさえただではすまんぞ?


数秒の間、アーネストの周りを黒炎が取り囲む。

この時間は、魔王が与えた回避の時間だった。

手元から離れた黒炎を魔王は操る事が出来る。

わざわざ時間を与えたのは、奴の真意を確かめる為。


これでもやはり退かぬか。

ならば喰らうがいい。


魔王が合図を送ると、まるで意思を持っているかのように黒炎がアーネストを飲み込んだ。

巨大な黒炎がその体積を膨らませ、全長約10m程度にまで成長する。


「この炎は、対象を焼き尽くすまでは、決して消えることはない」


・・・のはずだった。


ははは、脱帽じゃな。


アーネストを包み込んでいた黒炎がこれまた一瞬の内に掻き消されてしまった。

何かに吸い込まれたと言っても過言ではない。


アーネストは、依然として涼しい顔をしている。


「どういったカラクリなんじゃ?」

「フフ、俺様には魔術は効かんよ。それだけだ」


効かないと掻き消してしまう事とは違う。

何か仕掛けがあるのじゃろうが、流石に敵である妾にそこまで教えてはくれぬか。


「今度はこちらの番だ。思い知るがいい!圧倒的は俺様の力を!」


アーネストの戦闘スタイルは、その凄まじいまでの武力によるゴリ押しだった。

力には絶対までの自信がある一方、魔術は一切行使する事が出来ない。

それは、魔術完全無効の誓約だった。

魔術が使えない代わりに魔術が一切効かない。


今までも、その圧倒的なまでの武力だけで戦いを制してきた。


刹那の瞬間。魔王と少し距離を置いていたアーネストが消え、魔王の目の前へと現れた。


アーネストの渾身の一撃が魔王へと炸裂する。


魔王は、物理障壁を展開していたが、あっさりとそれを破られてしまった。


パリンッという甲高い音が辺りに響き渡ると同時にアーネストの右拳が、魔王の右下腹部へと当たった。

その反動で魔王は遙か彼方へと飛ばされる・・・・はずだったが、持ち前の反射神経を活かし、拳の着弾時に幾分かその威力を相殺していた事もあり、数十メートル飛ばされる程度で踏み止まっていた。


「中々の速度と威力じゃな」


魔王は、自らの攻撃を受けた場所を摩りながら呟く。


中々の威力じゃな。

内臓に少なくないダメージと肋が何本か折れておるな。


「ほう、あれを喰らってまだ立っていられるのか。これは、中々楽しめそうだな」


妾も舐められたものじゃ。

どういったカラクリかは不明じゃが、魔術が効かぬのならば、物理攻撃で攻めるまでじゃ。


自身に数多の身体強化を施す。


「どうやら手加減できる相手ではないようじゃな。

悪いが、出し惜しみはなしじゃ。本気で行かせて貰うぞ」

「面白い受けて立ってやる」


既に先程受けたダメージは回復させていた。


お返しとばかりに、転移を用いてアーネストと同じ動きで、同じ場所を攻撃する。


しかし、アーネストに攻撃は当たらない。


魔王の渾身の右ストレートは、空振りに終わる。

というより、アーネストをすり抜けてしまった。


確かに存在はそこにあるのだが、実体がないのか、その後何度か攻撃を繰り返すが、ただの一発もアーネストには当たらない。


対するアーネストの攻撃は魔王に確実に少なくないダメージを負わしていく。


アーネストの固有能力の一つ

蜃気楼ミラージュ


まさに蜃気楼のように錯覚を起こさせてしまう。あたかもその場にいるように見えて、実際は1m程視界とのズレがある。

ネタが分かってしまえば、対処は造作もないのだが、気が付かなければ、辛くも範囲の小さい物理攻撃に絞られてしまった魔王の攻撃は当たる事はない。


しかし、相手は魔王だ。

仮にもこの世界で最強クラスの実力者だ。

洞察力に関しても並外れている事は言うまでもなかった。


こちらの攻撃は当たらぬが、あっちの攻撃は通る。

攻撃は、右側からの大振りばかりで、インパクトとモーションとのズレが0.ゼロコンマ程ある。

そして、微かじゃが、奴の右頬に擦り傷がついておる。


認識阻害か何かで妾の視覚がズラされていると考えるのが妥当じゃろうな。


ならばこちらも遠慮なく使わせてもらうぞ。


魔王が虚空から取り出したのは、何もない何か・・・だった。

確かにそれを摑む素振りをしているが、視界には映らない。


目下太陽の下では、光の屈折により目に見る事が出来ない魔剣だ。


それを掴むと、アーネストに向かって行く。

アーネストは警戒することなく、その場で迎え撃った。

魔王が手を振り上げると、アーネストの右腕が空を舞った。


そのまま上げていた腕を今度は振り下ろす。

しかしアーネストは後ろへと退避していた為、魔王の攻撃は当たらない。


「やはり認識ズレか。ネタが分かればどうという事はない」


しかし、アーネストは余裕の表情を崩していない。


魔王は再び虚空を開くと、目に見えない魔剣を放り込む。


「何じゃと・・・」


あまりの予想外の展開に魔王は後ろへジャンプする。


魔王の右腕が突如として斬り落とされたのだ。


アーネストの顔色を伺うと、当初と変わらず涼しい顔をしている。

魔王によって斬り落とされた腕もいつの間にやら元通りになっていた。


治癒ヒールの素振りは無かったんじゃがな。

それよりも、いつ斬られたのか全く察知出来んかった。

妙じゃな。


魔王はすぐに治癒ヒールで腕を再生する。


これには、アーネストが初めて表情を崩した。


「一瞬で、再生するのか。これは面倒だな」


魔術が一切使えないアーネストは、当然治癒ヒールは使えない。

また使えたとしてもその効果が発揮する事はない。

魔術が効かないアーネストは、治癒効果すらも当然の事ながら無効となる。


アーネストとしては、小声での呟き程度の声量だったが、魔王はユウにも負けず劣らずの地獄耳の持ち主だった。

どうやら彼奴は、治癒系の魔術が使えないようじゃな。ジリ貧じゃが、回復しないのなら、やりようはある。


途端、魔王は3本の鉤爪を取り出す。

正確には、自身の爪を伸ばし、硬質化したものだ。

その硬度は、魔剣レベルでも打ち負ける事はない。


その鉤爪を勢いよくサッと振るうと、アーネストの前まで転移する。


視界のズレを考慮し、アーネストの腹部を左右一直線を斬り裂いた。

そのままもう片方の手で、顔面に強烈な掌底を浴びせた。

アーネストは躱す事なく、まともに受け、後方に聳え立つ廃墟群の中へと崩壊音を立てながら消えて行った。


そのままゆっくりとアーネストの元へと歩み寄る魔王。


「グッ・・」


またしても突然何の前触れもなく、魔王の腹部が斬り裂かれた。


傷痕から、少なくない血が地面へと滴り落ちる。

魔王自身、いつ攻撃されたのか一切見えなかった。

しかし、魔王は確信していた。


「なるほどな」


先程の腕が斬り落とされた事といい、どうやら妾があいつに与えたダメージがそのまま反転して妾に返ってきておるようじゃな。


アーネストの固有能力の一つ反転だ。

反転したダメージは、そっくりそのまま相手へ返し、自分の負ったダメージは、負う前の状態へと戻る。

しかし、反転も万能ではない。

反転出来るタイミングがあり、1回反転させると次に発動させるまでには1分程の時間が必要になる。

それを相手に悟られれば容易に対策を打つ事が出来る。

故にそれを悟られないようにする事が必要となる。

しかし、ギミックが分からなければ、相手からすると驚異以外の何者でもない。

自分の攻撃がそっくりそのまま戻って来れば迂闊に攻撃する事が出来ないからだ。



原理は不明じゃが、全く面倒じゃな。

腹を切り裂いた斬傷は確かに反転されたが、顔面を殴った攻撃はこちらに返っていない。

何か違いがあるのじゃろうが、恐らくもう反転はしてこぬじゃろうな。


これはアーネストでさえ知らなかった事だが、ダメージを反転するほんの一瞬、アーネストの頭のツノが薄っすらと光り輝くのを魔王は驚異的なまでの動体視力で見抜いていた。

そして、アーネストの両方のツノを斬り落としていたのだ。

魔王は考えていた。

反転させる為には、ツノが必要不可欠なのではないかと。


直後、凄まじい地響きが辺りに響き渡ると、アーネストが消えていった方向の廃墟群が更に崩れて行く。


ズシン、、、ドシン、、、ズシン、、、


音が鳴るたびに地面が大きく揺れる。


一際大きな音が鳴ると、衝撃波が襲って来た。

衝撃波は、そのまま魔王諸共飲み込む。


魔王は、障壁を展開し、それをやり過ごした。


衝撃波により舞い上がった土煙が時間の経過と共に次第に晴れていく。

晴れた先に広がっていたのは、巨大なクレーターだった。

対照的にクレーターの周りの地形は、不自然なまでに平坦にならされていた。


クレーターの中心にはアーネストがいる。


先程までの余裕の表情とは一転。その形相は、今までとは打って変わり、怒り一色と様変わりしていた。


「許さねえ!俺様の顔とツノを潰しやがったな!!」


見ると、先程の魔王の顔面への攻撃の影響で、鼻が折れ曲がっていた。


「お似合いじゃな。何ならもう少し醜い顔にしてやろうか?」


魔王がアーネストを煽る。


どうやら彼奴は回復系の魔術が使えんようじゃな。

治さないところを見るに、ポーション系のアイテムも持ち合わせておらんようじゃ。

後、ダメージ反転しない理由は不明じゃが、もう大丈夫じゃろう。

油断は禁物じゃがな。

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