第202話: アーネストvs魔王3

魔王視点


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「どうしたの?」


ここは、魔界と呼ばれる魔族だけが住む世界。

その最奥にある天空まで届きそうな程の巨大な魔王城の一室。


妾の隣には心配そうに妾の顔を覗き込む一人の少女がいる。


少女の名前はクロ。


妾の心境の変化を感じ取ったのか、クロが心配そうな眼差しで問い掛ける。

クロは、ユウと一緒に旅をしている仲間で、治療と称して現在妾が預かっておる。


クロは、魔王の堕とし子という、いわば妾の分身体の一人でもある。

自らに流れる魔族の血に抗い理性を失わない為、また、それを抑え込むために精神にかなりの負担を掛けこれまでを過ごして来た。

その影響もあり、クロの内側(たましい)はボロボロの状態で、いつ理性を忘れて暴走状態となってもおかしくなかった。


まぁ、その治療に関してもほぼ終わりに近い段階まで来ておる。

妾に不可能はない。治せない病などあろうはずがない。


それにしても、最初ここに連れて来たときは、感情の変化を表現するのが不得意だったのじゃが、今では多少じゃが、出来るようになってきておる。

口数はかなり増えた。しかし、喋り口調は相変わらずといった感じじゃ。

目上の妾に対してもタメ口ときておる。

元より、そのような些細な事など気にするほど妾の懐は狭くはない。


その件に関しては周りの連中が多少うるさい程度じゃが、それも妾の一声で皆が一様に口を紡ぐ。


「地界の方で何やら不穏な気配を感じるんじゃよ」

「敵?」

「分からん。何となく胸騒ぎまでしてきおる。ただの杞憂なら良いのじゃがな」

「心配なら私確かめてくる?」


そういえば、最近は魔界の再統治が忙しく、地界に降りてなかったのぉ。

人族との停戦協定など、我ながら良く合意したもんじゃよ。上層部の反発も予想以上に多く、捻じ伏せるのに苦労したし、これも全てユウのせいじゃな。彼奴からの提案でなければ、この協定など最初から飲んでないわ。全く、罪な男よのぉ。


まぁ、飲んだ理由はそれだけじゃないのじゃがな・・・


「そうじゃな。妾が直接見てくるかのぉ」

「魔王が降りたら上役が困る?皆も驚く。ダメ」

「そんなの妾が気にすると思うのか?」

「気にして。周りの気持ちも考えて。魔王は魔族にとって大切な存在」

「お前も言うようになったのぉ。まぁ、妾が直接行かねばならぬ理由は他にもあるんじゃよ。それより、妾がいない間も、ちゃんとトレーニングは続けるんじゃぞ。それと、妾の調合したこの薬もちゃんと飲むようにな」


そうして去ろうとする妾の袖をクロが掴んで離さない。


「なんじゃ?まさか妾の身を案じておるのか?」


クロは下を向いたまま、何かを言いたげだったが、何も語ろうとはしなかった。


「クロよ。お前は、魔族のくせに思いやりがあり、素直で本当に良い子じゃ。そして、そんなお前を待っている仲間達がおる。今は身体を治す事だけを考えるんじゃ。1日も早く完治して、待っている其奴らの元へ帰るんじゃよ」


魔王はクロの頭を優しく撫でる。


「フランはおるか」


妾の護衛を担当しているフランを呼ぶ。


何処からともなく、音もなく現れたのは、綺麗な銀髪の美女だった。


この部屋の扉の外から転移を使ったのだろう。


「はっ!お呼びでしょうか」

「うむ。少し地界へ行く故、暫く魔王城を留守にするぞ」

「かしこまりました。では、私もお伴します」

「いや、共は不要じゃ」

「しかし、魔王様の身にもしものことがあれば・・」

「心配ない。すぐに戻る故な」


全く、皆ちと過保護すぎるじゃろう。

妾の身にもしもの事が起こりそうな要因が地界におると思うのか?

もしもそんな事が起こるのなら、是非とも体験したいものじゃがな。

魔王となってからというもの、本当の意味で全力で力を振るった事はない。



彼奴ならあるいは・・・少しは力を引き出してくれるやもしれんな・・


「1時間じゃ。1時間で戻らなければ迎えを頼むぞ」

「・・・かしこまりました」


渋々と言った感で、フランは了承する。

護衛の了承を得た妾は、すぐに転移する。




「随分辺鄙な所じゃ。何処かの国の廃区画か?」


妙な気配を感じた場所へ来たのは良いが、その気配も一瞬だけだった為、これ以上の手掛かりはない。


ん、この気配は・・・もしかしてユウか?


まだ少し距離はあるが、こちらへ向かってくるユウの気配を感じる。

妾と同じく、妙な気配を感じて赴いているのか?

面白そうじゃから、少し様子を伺ってみるかのぉ。


気配遮断を使っておるようじゃが、まだまだじゃな。

それに、もう一人誰かおるようじゃ。

あの独特な魔力から察するに恐らく魔女だろうか。


辺りを警戒し終えたのか、イキナリ魔術を行使しおった。

足が凍りついて動かぬ。


ユウの隣にいる魔女の仕業じゃろう。

事情があるのじゃろうが、やけに好戦的じゃな。

解くのは造作もない事じゃが、一応ここも様子見しておくかのぉ。


ユウと、すれ違いざまに目と目が合う。


バレるかと思いヒヤヒヤしたが、どうやらバレていないようじゃな。妾の変装も中々のものじゃろう。


どうやらユウ達の目的は、あの少女のようじゃが、妙じゃな。

鑑定アナライズによると、どうやら洗脳されているようじゃ。

しかし、仕草を垣間見るに、本人は洗脳されている自覚はないようじゃし、妾の知っている洗脳とは少し違うのやもしれん。


さてと、本来ここへ来た目的は、妙な気配を感じたからじゃが、肝心のその痕跡が全く無くなってしまった。

仕方がないので、少しだけユウと遊ぶかのぉ。


悪く思うなよ?死んでしまっても一定時間内であれば、生き返らせる事も可能じゃからな安心せい。


そうして、魔王とユウとの戦闘が始まった。


強い。


ここまで強い人族は初めてじゃな。

正直、昔妾を封印した勇者以上じゃ。

実に楽しい。

楽しいぞ!ユウ!


しかし、実力差はまだ妾の方がだいぶ上じゃな。

妾も致命傷となる攻撃は当てぬようにする余裕がある・・・はずだったんじゃが、運悪く頭部に当たってしまったようじゃ。

その場に倒れ込み、動かなくなってしまった。


これはマズい。


すぐに近寄り、ユウの容態を確認するが、まだHPは残っている。

少々肝を冷やしたが、頭を撃ち抜かれて生きてるとは大した奴じゃな。


正体を明かして回復しようと思った矢先、どうやら罠に掛けられたようじゃな。


今まで以上の魔力と威力で攻撃を放って来おった。

避けようとするが、身体が動かぬ。

転移しようと思ったら魔術も使えぬ。

既に発動させていた魔術はそのまま効果は維持出来てるようじゃ。


凄まじい炎が妾に襲い掛かる。


こうなれば、耐えるしかあるまい。

魔術属性の中で、妾の最も耐性が高いのは火だった事と、常時発動させていた超速再生もあり、何とかギリギリ耐えることが出来た。

しかし、変装していたのが解けてしまったようじゃ。


終いじゃな。


「今のは流石に妾も肝を冷やしたぞ」


妾の正体に気が付いたようじゃな。

おー驚いておる驚いておる。

その表情が見たかったんじゃよ。


「というか・・・なんで魔王様がこんな場所にいるんですか・・・」



ここにいる事情を説明し、まずはユウを治癒ヒールする。

最も効果的で効率的な方法で回復措置を取ったのだが、何故だが抗議されてしまった。

労いの意味も込めて多少色をつけてやったというのに、全く失礼な奴じゃ。

こんな事、異性ではユウ以外には絶対にせんと言うのにな。


む。妾は何を言っているのじゃろうか・・まぁ、良いわ。


それにしてもユウの戦闘能力には正直言って驚愕の域じゃな。

単純な戦闘能力だけならば、魔族の元帥にも匹敵するじゃろう。

流石は妾が見込んだ男だけはある。


神であるメルには悪いが、やはり妾のモノにしたいのぉ。


!?


どうやら、いつの間にやら妙な気配を放っていた奴が姿を現したようじゃ。

結果オーライじゃが、暇つぶしをしていた甲斐があったというもんじゃな。


早くせんと、リミットである1時間を過ぎ、迎えが来てしまう。


妙な気配の本人は、ユウの連れの魔女に直接憑依しているようじゃ。

鑑定アナライズでも観きれず、上位の分析アナライシスを以ってして、暴く事が出来た。


それにしても、さっきから殺意を込めた威圧を放っていると言うのに、彼奴は顔色一つ変えんとはな。


自らを7大魔王と名乗る。

7大魔王?

そんな存在聞いたこともない。

それより、妾以外に魔王を名乗る者がおるとは思わなんだな。


少し煽ると、彼奴は魔女の体から離れ、本体の姿を晒しおった。


鍛え抜かれた肉体。

長身じゃな。背丈は2m半と言ったところか。

全身に走る黒い刺青のような模様。

頭部には妾と同じツノが生えておる。


相手の感じからすると、戦いは避けられぬようじゃな。


これは、もしかするともしかするかもしれんな・・。


まずは戦闘に邪魔な者を下がらせる。

魔女とそこに転がっている女じゃ。


ユウに連れ帰ってもらう事になった。

本気で戦闘する事になった場合、ユウでも足手纏いにしかならぬからな。


今生の別れでもあるまいし、そんなに心配そうな顔をするでない。


転移で見送ったのを確認して、改めて相手と対峙する。


「アーネストとやら、お前達の目的はこの世界全てを手に入れる事なんじゃな?」

「そうだ。逆らう者は皆殺しだ。勿論、お前達魔族も例外じゃねえがな」

「そうか・・ならば仕方ないのぉ。妾が相手をしてやる。光栄に思うが良いぞ」

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