第196話: 消えた新郎新婦
俺とムー王女は、バーン帝国隣国のラムール国の第三王女であるラティの挙式に参列中していた。
今まさに、この国一の大聖堂にて盛大に執り行われようとしていた。
俺たちは、他国の来賓扱いでいわゆるVIP席に案内されていた。
後ろを振り返ると、所狭しと並べられたイスにビッチリと恐らくこの国の国民だろう大量の人でごった返していた。
本日の主役である、新郎と新婦は、まだ会場入りしていない。
「今回の婚約に至るまでに、親族同士で相当もめたようじゃ」
ラティ王女は、ラムール国の第三王女の肩書きを持っているのに対して、夫となる相手方は、隣国の騎士団副長と言う肩書きだった。
愛に身分の差など関係ないだろうと言うのは俺のいた世界の話であって、こちらの世界では、基本的には近しい身分の者同士が結ばれるそうだ。
しかし、例外はある。
王族の場合は、相手側が他国の場合が殆どで、その理由としては政治的な理由が9割を超える。
ラティは、第三王女とは言え、正当な一国の王女だったが、相手方は騎士団副長と言う騎士階級においては、高位の身分だが、元は平民の出だそうだ。
ムー王女の話では、このご時世、平民がそこまで成り上がるのは、ただ単純に実力があるだけでは不可能で何か強力な後ろ盾が必要だと言う。
「相手が平民の出だからもめたのか?」
「それもあるがな。王女と平民上がりの騎士団副長とじゃ、身分の違いがありすぎるのじゃ。ならばなぜ、今回の婚約が成立したと思う?」
「普通に考えるのなら隣国チェレと親密な間柄になりたいって辺りか?」
「半分正解で半分不正解じゃな。本来互いの国同士が親密な間柄になりたいなら、互いが王族を出すのが基本じゃ。しかし、今回はそうじゃない」
「つまり、両国が望んでじゃなくて、片方の国、ラティ王女側のラムール国が強く望んでの事なんだな」
「うむ。国には、パワーバランスと言うものがあってじゃな、ラムールは相手国のチェレには遠く及ばないのじゃ。つまり・・」
「仮に戦争にでもなれば、ラムールは負けると?」
「そうじゃ。元々両国間はあまり仲がよろしくなかったようじゃ。それを今回の婚約を期に和平条約を結ぶそうじゃな」
昔話ではよくある話なのだろう。
自国が脅かされない為に、同盟を結び来るべき闘い備えて準備をする。
「でもそれって、当の本人達は、望まぬ婚姻って事だよな」
「長男長女以外は、大体そうなる運命じゃな。これは王族に生まれた宿命みたいなもんじゃ。本人に拒否権はない」
「ムー王女は、一人娘だからその心配はないんだよな?」
「なんじゃ?心配してくれておるのか?それともユウが妾を貰ってくれるのか?」
「なぜそうなるんだよ」
開始時刻から既に1時間経過したが、依然として本日の主役達が現れない。
「いくらなんでも遅すぎじゃないか?」
「じゃな。何かあったのかもしれん。いつの間にやら、国王たちの姿がみえん」
いつまで経っても始まらない婚姻式に先程から場が騒ぎ出していた。
「遥々来てやったと言うのに一体いつまで待たせる気なのだ!」
他国の王族達だろう。
新婦側の関係者が場を収めようと尽力しているが、中々苦慮しているようだ。
主役がいないんじゃ、いつまで経っても式を始める事は出来ない。
流石に退屈過ぎて一人項垂れていると、
「ユウ。こっちへ」
ムー王女に手を引かれ、応じるがままに会場を後にした。
「ここまで来れば大丈夫じゃろ」
周りをキョロキョロして、誰もいない事を確認している。
「嫌な予感がするんじゃ。ユウならラティが何処にいるか探せるか?」
確かに、俺にはレーダーの
しかし、本当の事を言う訳にもいかない。
「無茶言うな」
口ではそう言いつつ、探してみる。
いない。
何も反応しないと言う事は、範囲圏外と言う事。
「なんじゃ、使えんの」
「悪いな、使えなくて」
「ユウなら何だって出来ると思ったんじゃがの」
「人を神様みたいに言うなよ?出来ないものは出来ない。大体さ、ムー王女は一応魔女なんだから、魔術で探せないのか?」
「一応は余計じゃ。それにそんな魔術は聞いた事もない。過去にはあったかもしれんがな」
ん?過去には?
そういえば、
ゴソゴソと鞄を漁るフリをしながら、巻物を1束取り出した。
「それは何じゃ?」
「魔術書だよ」
茶色の羊皮紙に赤い龍の髭を模した紐で結ばれた巻物。
だれがどうみても魔術書だった。
巻物の紐を解き、描かれている文字をスラスラと目で読見上げた。
''サーチを取得しました''
相変わらずのチート能力に申し訳なさを感じる。
無事に覚えたのは良いけど、名前から察するに
「人を探すことが出来る魔術なのか?」
「ああ、でもただの魔術じゃないよ。ロストマジックと呼ばれている今は失われてしまった魔術だよ。あ、ちなみに、これは、
「別に誰にも言いわせん。それに今更其方がどんな事をしようが言おうが実行しようが驚きはせんが・・相変わらずのバケモノじゃな」
反論した方がいいんだけど、ここは大人の対応で受け流しておく。
「グズグズしてていいのか?ラティ王女は、あっちの方角だぞ」
サーチを発動した事により、捜索対象のいる方位と距離が頭の中へと入って来る。
しかし、ここからだいぶ距離がある。
「仕方ない、飛んで行くか」
以前、紀元の魔女から貰い受けた
「使いこなせるようになったのか?」
「あれから夜な夜な練習したからな」
右手をムー王女へと差し出す。
「途中で落としたら承知せんからな」
「そっちこそ、冗談抜きでしっかり掴まってるんだぞ」
ムー王女の腰に手を回す。
フワリと地面から脚が離れる。
最初はユックリと、重さに慣れてきたら次第にスピードを上げる。
ちなみに、装着すると透明になるマントを羽織っている為、周りからは俺たちの姿は見えない。
ムー王女曰く、空を飛ぶという行為自体がこの世界ではとてもレアケースなのだ。
空を飛ぶのはファンタジー世界では当たり前なんだけどなぁ・・・とボヤいてみる。
「こんなに短時間でここまでの距離を移動出来るものかの?」
「俺みたく空から行くか、もしくは転移でも使用しないと無理だな。あるいは、覚えたてのサーチが使いものにならないとかな」
先程からムー王女の険しい顔は崩れない。
俺のボケも華麗にスルーされてしまった。
恐らくラティ王女の身を案じているのだろう。
「大丈夫だ。状況は不明だけど、今も動きがあるって事は、最悪の状況にはないって事だから」
この場合の最悪の状況とは、勿論本人の死だ。
死んでいたら動かない・・・とは断言出来ないが、大抵の場合は動かないだろう。
「ユウに心配されるとは妾も腑抜けたものじゃな」
婚姻式が行われようとしていた場所は、国の中心部に位置している大聖堂だった。
今俺たちが居るのは、その国の外れである、市街地郊外の俗に言う貧民街と呼ばれているような寂れた場所だった。
「本当にこんな場所におるのか・・・」
「このサーチ通りならね。反応があるのは、あそこの一際高い建物のちょうど真裏あたりだな」
敵対表示である赤い反応も複数確認出来る。
その中に魔族の反応が一つあるのは、気のせいじゃないよな?
上空からいきなり姿を表すと注目を浴びてしまう為、人目のない場所に一度降り立ち、歩いて向かう事になった。
「いいか。周りは全員敵かもしれないから、絶対に油断はするなよ」
「妾を誰だと思ってるんじゃ?ユウと比べると圧倒的に劣るが、冒険者と比較しても強い部類に入ると自負しておる。それに、もしもの時はちゃんと護ってくれると信じておるしな」
真顔で言われると流石に少し恥ずかしかった為、ただ一言「ああ」とだけ返した。
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