第187話: 勇者の苦悩

名前:アニ・クロスマリー

レベル49

種族:ハイエルフ

職種:呪術師

スキル:闇撃ダークネスボルトLv3、黒嵐ダークネスストームLv3、影棘ダークネスウィップLv4、暗闇ブラックアウト、転移、呪怨Lv2、呪縛Lv3、催眠スリープLv2


偶然とは思えないタイミングで俺の前に現れたハイエルフの少女アニ。

何かの運命を感じて奴隷落ちされる前に俺は彼女を買い取った。


驚いたのは見た目の割にレベルが高い。

それに転移持ちと来た。

ならむざむざ捕まるなんて事は、まずありえない。

その前に、一階の冒険者よりも全然強い。


「一つ聞いていい?」

「なんですか?旦那様」


可愛らしくスマイルするアニ。


「キミは一体何者なんだい?」

「ふぇ?あれ?鑑定アナライズ持ちの旦那様でしたら、私の種族はご存知のはずですが?」


鑑定アナライズ持ちだと分かったのは、恐らく使用時に目が紅く光るというのを知っていたのだろう。


「いや、そう言う意味じゃなくてさ、なんでワザと捕まったフリまでしたんだ?キミだったら逃げる事なんて造作も無かったはず」


俺の問いにアニは、暫く考え込むそぶりを見せる。


「・・・うーん、大丈夫だよね・・・えっとですね、待ってたんです。旦那様を」


テヘッと可愛らしく笑うアニ。

待ってた?俺を?


「取り敢えず意味が分からないけど、俺が助けてくれると分かってたって事か?」

「はい、そうです。でもこれを話すと長くなるんですけど、一言で申しますと・・私の未来の旦那様を探すために里を飛び出したんです」

「・・・・・」


この子は一体何を言っているのだろうか?

ああ、そうか、きっと怖い思いをしたから、気が動転しているんだろう。きっとそれに違いない。


「その、頭おかしい子を見るような目は侵害です!もう一度言います!貴方が私の探し求めていた旦那様なんです!」

「うん、やっぱり意味が分からないから。それにそんなに一方的に言われてもね」

「もしかして、旦那様には既に奥方様がいらっしゃるのですか?」

「いや、それは居ないけど・・」

「良かったです!ならなんの問題もありませんね」

「問題大有りだ。それにまだアニは子供じゃないか。結婚なんて考えるのは早いだろう」

「こう見えても私の実年齢は旦那様よりも数倍は上だと思いますよ」


そうだった・・エルフたちは、その外見からでは年齢の判断が出来ない。

幼女の姿をしていても、齢200以上なんてざらだった。


「どっちにしてもだめだ」


アニの頭をくしゃくしゃに撫でてその場をやり過ごす事にした。


アニを宿に連れ帰り、皆に事情を説明する。


「家族が増えるの?」

「ああ、一時的にだけどな」

「一時的ってどう言う事ですか?私は旦那様と一生添い遂げるつもりなんですよ?」

「おい、話をややこしくするんじゃない・・」

「お兄ちゃん、どう言う事?」


ヤバい・・・ユイが真剣な表情でこっちを見ている。

これは、回答を間違えれば命の危険すらありえる。


「全くユウさんは!私のような美少女がいるのに、それだけでは飽き足らずに正妻をご所望なんです、ぷぎゃ!」

「一層ややこしくなるからお前は黙ってろ。いいかユイ。さっきも説明したけど、たまたまハイエルフの少女を見つけて、しかも奴隷にされようとしていたから、解放してあげようと思っただけだ。今回はアニの件もあったしね、同族なら何か情報を知らないかと思って連れて来たんだ。要件が済めばすぐに解放するつもりだよ」

「ふうん。内容は分かったけど、旦那様って何?」


だよね、そこだよね。


「それはこいつが勝手に言ってるだけだ」


その後、半ば強引に納得させて互いに自己紹介を済ませ、本題へと入る。


「アニは、ミラとは初対面なんだよな?」

「はい、初対面ですね。ですけど、ハイエルフ自体その数は多くありませんので皆同じ家族と言う認識です」


少し当てが外れたな。

顔見知りなら、同郷でミラの迷子も一挙に解決だと思ったんだけどな。


「実はな、ミラは訳あって迷子なんだ。だから、生まれ故郷である里を探してるんだけど、他のハイエルフの里の場所を把握してるなんて事はないよな?」

「ハイエルフの里は、現状3つしかありません。私が知っているのは自分の里だけです。基本的に里同士の交流は皆無ですので。それにしても迷子なんて珍しいですね」

「まぁ、色々と事情があるんだよ」


俺が知っているのは、テュナさんの里だから、もしアニが知っている里がそれ以外だとすれば、残された最後の場所って事になるのか。

どちらにしてもアニも自里しか知らないのなら、結局地力で探すしかないのか・・。


「アニ、俺もハイエルフの里の場所を一つだけ知ってるんだけど、その里長の名前はテュナさんって言うんだけど知ってるか?」

「うーん、分からないです。里長ともなれば名前くらいは聞いた事くらいはあるはずなんですけど、、もしかしたら、最近里長が変わられたとか?」

「あーどうだろ。比較的最近だったかもしれないな」


テュナの両親が元々里長をしていたが、不慮の事故で他界してからはテュナが引き継いだと聞いている。

流石に親の名前までは聞いてないな・・。


「私の里に戻れば、ミラちゃんの里の場所も分かるかもしれません」

「お、本当か?」

「はい。恐らくあの人なら知っていると思います」

「これは、かなり前進したんじゃないか。ちなみに場所は、ここから近いのか?」

「飛竜で10日ってとこだと思います」


飛竜とはこれいかに。


「あれですよ。ハイエルフの里は、外部の方の侵入を拒みますので、絶対に辿り着けないような場所にあるんです。ちなみに私の里は、空を飛ばないと辿り着けない場所です」


そういえば、テュナさんの里の入り口も結界めいたものが施されていて、外部の人は一切は入れないようになっていたっけな。


「どちらにしても他に手掛かりがない以上、そこに賭けるしかないな」


考えるまでもないか。

どちらにしても、不死の王ノーライフキング亡き後、この場に止まる理由がない。

と言うか、忘れてたけど、バーン帝国に今回の件を報告するように言われていたんだった。


「決まりだな。明日この国を出発するぞ」

「ミラも一緒だよね?」

「ああ、勿論だ。一度、バーン帝国に戻って用事を済ませてから本格的にミラの里を探す旅に出よう」

「わーい!ありがとお兄ちゃん!!」


ユイとミラが抱き合って喜んでいる。

相変わらずのユイの世界はみんなお友達は今日も絶好調だ。


さて、俺は出発前にお世話になった人たちに挨拶しておくかな。


「少し出てくるよ」


この国を去る前にギールさんたちには挨拶しておかないとね。

確か、勇者名義で王より居住区を与えられたって聞いてたけど・・・こいつは驚いたな・・。


ハリウッドスターばりの大豪邸が見えて来た。

しかも屋外にはプール完備と来てやがる。

この世界の住人は水の中に入るのに抵抗があると思ってたんだけどな。


「やあ、ユウ殿じゃないか」


遥か遠くの方から手を振っている姿が視認出来た。

俺じゃないと、今の声聞こえなかったぞ・・


暫く待っていると、執事の出で立ちをした老人が現れた。


「お待たせして申し訳ございません。ギール様より応接間までお越し下さるように承っております」

「えっと、挨拶しに来ただけなんですけど・・」

「承っております」

「あ、はい」


この人あれだ、逆らったら駄目な人だ。

気配で分かる。それに目力も凄い。

俺の勘だが、元勇者か何かだろう。

鑑定アナライズは怖いのでやめておく。


大豪邸の中へと通された俺は、そのまま応接室まで案内された。

そしてそこに待っていたのは、ギールさんだけではなかった。


「ギールさん、ミーチェさんこんにちは」

「ユウ殿の方から訪ねてくれるとは嬉しいね」

「まだちゃんとお礼を言ってなかったです。その節は助けてくれてありがとうございました」


深々と頭を下げるミーチェさん。


「いえいえ、もう充分すぎる程、お礼の言葉は頂きましたから気にしないで下さい。それと、今日は明日バーン帝国に戻ろうと思ってその連絡に来ました」

「なるほど、こちらはまだやらねばならない事が山積みでね、もう暫くは戻れそうにないんだ。悪いが、ギルド長と王へ簡単にでも今回の討伐の報告をしておいて頂けないだろうか?」

「はい、そのつもりですよ」

「助かるよ。それと、不死の王ノーライフキングに関しての情報をいくつか手記に収めているんだけどね、色々と質問してもいいだろうか?」

「はい、喜んで」


勇者の仕事と言えば、剣を振るう事しか想像出来ないのだけど、どうやらそれは半々程度らしい。

国お抱えの勇者と言うのは、色々と苦労が絶えないようだ。

今は、不死の王ノーライフキング討伐に関しての絶賛書類業務に追われているらしい。


今回、俺も国立図書館の文献には助けられた面もある。こうした手記が、後々の構成の世に残されていくのだろうと考えると、協力は惜しまない。


それに、皆が勘違いしている事があった。


不死の王ノーライフキングは、その名の由来でもあるように不死だと思われている事。

そして、今回討伐には成功したが、また数百年の後に復活するだろうと思われていた。

だけど、敢えてその点においては、訂正しないでおく。


スイの言葉が正しければ、彼はもう二度と復活する事はないだろう。

つまり、危険はないという事だ。

いつの時代も、危険に備えておく事は必要だ。

俺の世界にも、備えあれば憂いなしていう言葉がある。

予め想定しておけば、予想外の出来事が起こった際にも対処する事が出来る。

それと、スイは不死には違いないのだから、そこも訂正しないでおく。


「その後、質問と言う名の談義は、深夜まで続いた」

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