第109話: 英魔との遭遇

「貴方はもしかして、あの時の・・」


どこかで聞き覚えのある声に思わず振り返る。

身なりの良い甲冑を着た剣士の格好をしている女性だった。


「えっと、確か・・・ユーリさん?」


鑑定アナライズで確認するまで忘れていたのは内緒だ。


「はい、覚えていて下さって嬉しいです。その節は大変お世話になりました」


深くお辞儀をするユーリさん。


何故だか仲間達の視線が痛い。

そういえば、みんなは知らないんだっけな。


ユーリさんは、以前グラン王国の遠征の時に出会った勇者一行の仲間だった。

俺は簡単に出会った経緯をみんなに説明する。


「勇者は元気?」

「ええ、ユウさんのおかげです。あれだけの深傷を後も残さず治してしまうんですもの。教会の神官達も驚いていました、きっと名のある聖職者のなせる技だと」


ただのチート冒険者なだけなんだけどね。

勇者のパーティは、5人くらい居たはずだがユーリさん以外にはそれらしい人物は見当たらない。


どうやら俺の視線を察したのか、ユーリさんが微笑む。


「他の者は、情報収集に行っています。私もその途中なんですけど」


ユーリさん達は、今厄介な依頼を受けているらしい。

ま、勇者が受ける依頼なんだから難易度は高めなのだろう。

聞く気はなかったのだが、依頼の内容を教えてくれた。


なんでも、この町に凶悪なモンスターが潜伏しているのだとか。

姿形は普通の動物なのだが、人言を理解して話すという。

騒ぎが起こる前に見つけ出し、駆除するのが今回の依頼のようだ。

ユーリさん達は丸一日捜しているが対象のモンスターが見つからないらしい。


捜し物は俺の得意分野なんだけど、さてどうしたものか。

というのも、さっきから範囲探索エリアサーチ圏内に確かに赤のモンスター反応が一つだけ見えている。

ここからそんなに離れていないようだった。


「もし宜しければ、手伝いましょうか?」

「え、いいんですか?」


両手を合わせて軽くジャンプしている。

こういう仕草は年相応で可愛らしいんだけどね。

外見が甲冑なので、せっかくの美人が台無しだ。


「まぁ、今この港町に来たばかりなので観光がてらでよければ」


ユイが袖をクイクイと引っ張ってくる。


「お兄ちゃん、そのモンスター可愛かったらペットにしてもいい?」


うーん、凶悪らしいから、きっと可愛いさとは真逆だと思うけど。


「可愛かったらな」


一方的に否定するのも可哀想なので、適当に誤魔化しつつユイの頭をなでた。


場所が分かるのも怪しまれるので、さり気無くユイに先頭に立ってもらい誘導し、それに皆がついていく。


周りの景色を楽しみながら少しだけ歩くと、人通りから少し逸れて細い路地へと入ってきた。

どうやらここは、材木置き場となっているようで、建築材料が至る所に積み重なっていた。


そして、曲がった角で行き止まりにあたってしまう。

道に迷った訳ではなく、反応はここであっている。


「何かいるよ!」


ユイが警戒の声を発する。

その声を聞き皆が武器を構えた。


「見つかっちゃったかぁ」


聞いたことのない声だ。

なんて愛嬌のある声なのだろうか。

もちろん、ここにいる誰の声でもない。


すると、目の前の何もなかった空間から1匹のモンスターが現れた。すぐに鑑定アナライズする。


名前「リトル・ミミグランデ」

レベル60

種族:狐

弱点属性:火

スキル:怪音波Lv2、突進Lv1、治癒ヒールLv3、自己再生Lv2、結界Lv3、迷彩化インビシブル


なかなかにレベルは高いようだが、コイツが凶悪なモンスターには到底思えない。


短い4本の足、細長いクリーム色の身体、狐のような長い耳、そのフォルムは・・・・オコジョ?に近いだろうか。


どうみても凶悪には見えない。


「キミ達もボクを殺しに来たのかなぁ?」

「キャー可愛いー!!」


俺が制止する前にユイが既にオコジョをガッチリと抱きしめていた。


そういえばユイは、可愛いもの好きだったっけね。

いつだかの猫店長の時もこんな感じだったっけ。


「ん、ん、苦しい!苦しいよ!」


慌ててユイが手を離す。


「あ、ごめんね」


その愛嬌のある見た目に自然と全員武装を解除をしていた。

俺と同じで、目の前のコイツがユーリ達の捜していた凶悪なモンスターとは思えなかったのだろう。

レベルは確かに高いけど、それが見えているのは俺だけだしね。


「カワイイお嬢さん、ボクを愛でるのはいいけど、結構デリケートなんだから優しくお願いだよ」

「アナタは、一体何者なのですか・・」


ユーリが不思議生物を眺めるような眼差しで問うている。


(これは珍しいですね)

(知ってるのか?セリア)

(種族としてはモンスター扱いなんですけど、この子は何百年も生きてる英魔えいまと呼ばれている存在です。この世界には数体しか存在しない希少種で、特別な力を持っているとか)


ゴオォォォッ・・。


!?


なんだ?


突如として地響きが起こった。


途端、地面がヒビ割れ下から何かが飛び出てくる。

皆、反射神経は悪くはない。すぐに対応して後ろへと飛び退く。


「な、何!」

「下から何か出たよ!」


現れたのは蜥蜴のような出で立ちのモンスターだった。


俺は納得した。

範囲探索エリアサーチに映っていた反応は、この不思議生物ではなく、その下にいた蜥蜴だったのだ。

重なっていたから気が付かなかった。

そして、恐らくユーリ達の捜している凶悪なモンスターというのもこの蜥蜴だろう。


レベル55の地蜥蜴アースリザードのようだ。


レベルだけならは、このオコジョの方が上だが、スキルを見る限りオコジョは戦闘向きではない。

どうやってレベルを上げたのだろうかと疑問を覚えるが、この際どうでも良いので思考を切り替える。


「コイツ、ボクを付け狙っているんだ。変な噂があってね、モンスターが英魔を狩ると一段階上位種に進化する事が出来ると」


それが本当ならば、確かに美味しい話しかもしれないが。

人族も進化するのか?


レベル55は確かに驚異的な数値だ。

普通の冒険者の場合はだけど。


俺が手を出すまでも無く、ユーリさんを加えた5人で攻撃の雨を降らせ、いとも簡単に倒してしまった。


戦いが終わった戦場となった舞台は、家々が破壊され、見るも無残な光景となっていた。

しかし、元々廃墟同然の建物が建ち並ぶ区画であった為、当然の事ながら被害者はいなかった。


「キミ達は強いんだね!助かったよ」


少し上からの物言いにいい気はしないが、隣のユイにまるでペットのような感じで頭を撫でられているオコジョに、その威厳は少し陰っていた。


「どうやら、ユーリさん達が捜していたモンスターは、さっきの蜥蜴でしょうね」

「ええ、そうだと思います。皆さんがお強いので、そこまで苦戦さを感じませんでしたが、体感的にはレベル50オーバーの強敵だったと推定します」


大凡当たっているのは流石は勇者一行のメンバーなのだろう。

長く戦いに身を置くものは相手の強さで自ずとレベルは計り知れると言うが、俺自身|鑑定(アナライズ)に頼りきっている為、そのあたりの感覚に乏しいのを自覚している。


仲間達と冒険者組合に報告があるというので、ユーリさんとはここで別れた。

もちろん、俺達が数日はまだこの町に滞在するという情報は渡している。


そんな事よりもさっきから潤んだ目でユイがこちらを見つめてくる。

こういう時は大概何かをねだる時なのだが、そんな事内容を聞くまでもない。


「お兄ちゃん、この子飼ってもいい?」


ほらきた。


「この不思議生物の名前は、リトルミミグランデ。レベル60の英魔と呼ばれるモンスターだ」

「え、この子レベル60もあるのですね」


ジラが驚く。


当然だ、レベルだけならば、ユイやクロよりも高いのだ。


「へーお兄さん英魔を知ってるんだね」


うん、さっきセリアから聞いたんだけどね。


「聞いた事があります。モンスターの中でも長生きしたものが稀に進化する事があると」


リンも知っているようだ。


「ちゃんと毎日面倒見るから!毎日餌もやるし!ね、お兄ちゃん!」


ユイにとっては、相手が自分よりもレベルが高いモンスターという事は関係がないようだ。

そこらの猫を飼うような物言いだ。

大事なのは可愛いかどうかであって、それ以外はそれほど重要じゃない。


まぁ、確かに可愛いは大事だよね。


英魔が掴まれているユイの手を強引に引き離した。


「えっと、なんだがボクをペットにするだとか言ってるようだけど、ボクは誰にも媚びたりしないよ。ましてや他種族なんかにはね」


確かに俺の仲間には色々な種族がいるが、モンスターは、どうなんだろうか・・。言葉は話せるので意思疎通は可能だが、レベルも高いし、隙を見せたところを背後からグサリなんてやめて欲しい。


グリムのようにモンスターテイマースキルの調教テイミングならば、そんな心配はないんだろうけど、少なくとも相手側にその意思がないと調教テイミングは成立しない。

圧倒的な力の差で相手をひれ伏せる方法もあるが、人語を使うような知識のあるモンスターだとそれは難しいだろう。


「でもお礼は言っておくよ。ありがとう。さっきの蜥蜴にはつけ狙われていたんだ」

「助けられたらお返し普通」


今まで黙りを決め込んでいたクロがイキナリ口を挟んだ。


「そうですね、他の誰でもない、ましてや英魔ともなる高貴な種族なんですから、こちらの頼みを聞くくらいの心の広さはあるのでしょう?」


ジラ、お前もコイツをペットにしたいのか・・


でもそれはちょっと強引じゃないか?

頼みってのが、ペットになれじゃね。


英魔がたじろいでいる。


「騎士道にもあります!命を助けられたらその相手を主君と崇めると!」


リン何そのデタラメな騎士道!


英魔が、ぐぬぬ・・と心の中で唸っているのが聞こえてくる気がする。


「ボクの負けだよ。分かった。このお嬢ちゃんのペットになるよ!少しの間だけだけどね」


え、心変わりしちゃったよコイツ。

いいのかよそんな単純で!


(ユウさん、調教テイミングしておいた方が良いです。本当は、隷拝塔で主従契約まで結んだ方が良いですが、相手が合意しているので、調教テイミングだけでも大丈夫でしょう)


「一つ、条件がある。同行するならば調教テイミングさせてもらうよ」


「なにそれ?」


どうやら英魔は調教テイミングを知らないようだ。


「簡単に言うと、約束の契約を交わす事かな。絶対に俺達を傷付けないとね」


本当はこちらの命令には絶対服従になってしまう。

敗ろうとすれば身体中が痺れるという特典までついている。

まぁ細かい説明はめんどいので省略っと。


「なーんだ。その程度なら約束してあげてもいいよ」


俺は調教テイミングを発動し、すんなりと成功した。

グリムの時と違い、相手が合意の元だと簡単だった。


何故かモンスターテイマーのレベルが一気に25から43になったのだが、レベル上げるの簡単過ぎないか?



そのまま宿を探し、例のごとく一番大きな部屋を借りた。

ユイが広い方が羽根が伸ばせると無駄に10人部屋を借りたのだ。

ベッドが10個、もしくはダブルで5個は並んでいるのかと思いきや、ベッドは部屋に一つしかなかった。

しかし、ベッド10個分以上はある特大サイズなんだけどね。

ユイが部屋に入るなり、得意のゴロゴロをしている。

今回は長さがあるので、なかなかやり甲斐がありそうな表情をしていた。

今は、クロも混ざって二人でゴロゴロとしていた。

誰もいなかったら俺もしていたかもしれない。

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