第105話: 白の魔女

(お兄ちゃん!街中にモンスターを発見したよ!)


城下町の偵察中のユイ達からの連絡だった。


(了解だ。二人で倒せそうか?)

(うーん、なんかね、モンスター同士が争ってるよ。片方は凄く強そう!)

(分かった!すぐにいく。絶対に手を出すなよ!)


会議の席を抜け出し、アリスと一緒にユイ達の場所へ行く。


「マスター、急いでるなら手を。本気を出します」


え・・


確かに急いではいるが、嫌な予感この上ない。


アリスの超特級空の旅で一瞬でユイ達の元へと辿り着いた。


「どうしたのお兄ちゃん、顔青いよ」

「少し空の旅に酔っただけだよ。それよりアイツか」

「うん!」


真下にはモンスターが数体と明らかな異形種のモンスターが1体いた。

異形種と言ったのは、鎧を見に纏っているだけならまだしも、明らかに知性のある動きをしていたからだ。


今もモンスター同士で会話している。

一方的にブツブツと独り言を言ってるだけなのだが。

あれ、モンスターって喋るっけ?

っていうかあれモンスターか?


(相当高位なモンスターは喋る事もあるようですよ)

(なるほど、さすが物知りセリアだね)

(セリア先生と呼んでもいいですよ〜)

(またの機会にしておくよ)


さて、上空で睨みを聞かせるのも飽きたな。


下へと降り立った途端モンスター数匹が襲ってきた。

悪いけど容赦はしない。

レベルも20前後だった為、魔術付与エンチャントした杖を振るい一撃で退場してもらった。


「ほぉ、お主中々やるようじゃの」


俺は一瞬誰に話しかけられたのか分からなかった。

しかし、消去法で確認していくと、あの怪しい鎧野郎しかいなかった。


やはり聞き間違いではなく、喋っている。


「あんたは一体何者だ」

「我が名は、シリウスとでも名乗っておこう」


名乗られたからにはこちらも名乗るしかない。

「俺は、冒険者のユウだ。喋るモンスターは初めて見たよ」

「妾はモンスターではない!モンスターに変身しているだけじゃ!」


訳が分からない。

取り敢えず鑑定アナライズを使用する。


鑑定アナライズ無効”


またしても無効ときたか。

という事は、目の前のコイツもただ者ではないってことだ。


「敵意満々じゃの」


俺の顔色を伺っているのだろうか。

少なくとも今言えるのは、コイツはモンスターの姿でありながらモンスターを狩っていた。

本人はモンスターに変身しているだけと言っている。


「なんじゃい、そんなに見つめて、妾に惚れたのか?」

「いやいやモンスター相手にそれはないから」

「失礼なやっちゃな、こう見えても中身はピチピチの300歳じゃというのに」


もはやツッコミを入れるのも面倒だ。


「冗談も通じんやっちゃな。まあよいわ。時に少年よ。そなたは勇者か?」


いきなりの核心をついた質問に一瞬だけ驚いた表情をしてしまった。


「ああ、そういえば、この姿のままじゃと誤解を与えそうじゃの」


シリウスは、何かを唱え始めた。

足元に赤色の魔法陣が現れたと思えば、それが真上に伸びていきシリウスを覆い隠してしまった。

魔法陣は眩いほどの輝きを放っている。


「ユイ、クロ、俺の後ろに」


未だ空中にいたクロとクロに抱き抱えられていたユイを地上へと降ろす。


そして魔法陣が輝きとともに消え去ったかと思いきや、そこから出てきたのは、先ほどの鎧を着た騎士のような姿では無く、露出度の高い白い水着に白いマントを羽織っただけの少女が現れた。


「どうじゃ、これで話し易くなったじゃろ?」


口調と見た目とのギャップはツッコマないぞ。

エスナ先生やノイズで俺には耐性がついているからだ。


「惚れたかの?」

「ああ、あと10年歳をとっていたらな」


ロリに興味はない。


「10年経っても姿形は変わらんと思うがの」

「冗談はそれくらいにして、貴女は魔女でしょ?」

「いかにも!白の魔女と呼ばれておる」


!?


俺はその呼び名を聞いた事がある。

あれは、まだ俺がエスナ先生の元で修行していた頃だ。


この世界を旅する上で脅威となるものをエスナ先生に教えてもらっていた時だった。


大多数は、モンスターや魔族、獣人族に関してだったが、唯一エスナ先生が人族で名を挙げた者がいた。

そう、エスナ先生と同じ魔女だ。白の魔女と呼ばれている。

それは単に見た目が白いからではない。

その名の本当の所以は、すべてを無に帰す力を要しているのだ。

すべてを無に。真っ白にする力を持っている。

もし出会っても絶対に戦うなと言われていた。

最強の魔女と言っても過言ではないそうだ。


「なんじゃ、動揺しておるのか?」


あまりの大物の登場に頼みのポーカーフェイスが発動しない。


相手のペースに惑わされたらだめだ。


「白の魔女が、一体こんな所で何をしているんだ」


「その口振りじゃとワシの事を知っとる感じじゃの。ある人物を探して、遥々寝床である大樹海バアムからここまで来たんじゃ」


大樹海バアムといえば、海を渡る前に通ってきた広範囲の樹海の事だ。


「ワシの大切なペットが少し目を離しているうちに逃げ出してしまっての。すぐに後を追ったんじゃが、どうやら殺されてしまったようなのじゃよ」


ゴクリと唾を飲み込む。


「このくらい大きくて、尻尾の長い可愛い奴なんじゃが、そなたらは知らんか?」


白の魔女は、手を大きく広げている。


思い当たる節がある。

いや、でもまさかね・・。


大樹海で暴れていたあのゴリラの事じゃないよな。


後ろのユイがクイクイと袖を引っ張る。


「お兄ちゃん、私達が倒したあの怪物の事じゃないの?」


ユイ!空気を読もうか!

今正直に話すのはヤバいだろう。

これ、もしかして死亡フラグなんじゃ・・。


「へ〜お前達がワシの可愛いペットを倒してくれちゃった奴らなのか?」


まさか、いきなり戦闘が始まったりしないよな。

アリスが何かを感じたのか俺の前に出てくる。


「やっと見つけた・・」


その時だった。

白の魔女を中心にして何かが広がっていく。


風が通り過ぎたのかと思ったが、薄い白い壁が一緒で目の前から遥か彼方へと通り過ぎていった。

この島全土を覆いそうなほど広範囲に薄い膜の壁のようなものが広がっていく。


「な、なにを?」

「じゃから見つけたって言うておるじゃろ。この島に巣食う魔の目を排除したんじゃ」


はい?


話が分からない。

逆上して襲ってくるかと思っていたんだが・・。


白の魔女は右手を挙げ、人差し指を天に伸ばし、何かを操っているかのように右に左に動かしている。


「マスター、何かが来ます!」


俺の範囲探索エリアサーチには反応はない。


突如、俺達の目の前に押し潰された卵のような物が天から降ってきた。


「これじゃ」


白の魔女が卵に向かって指指している。


「これは、魔の種じゃ」


なにそれ怖い。


その後白の魔女に詳しく説明してもらった。


まず、白の魔女はペットを殺した俺達を恨んでいる訳ではなく、むしろ感謝の言葉を言う為に探していたそうだ。

というか、ペットですらないらしい。

白の魔女は神と呼ばれる存在から大樹海バアムの監察役の任を受けているのだという。

大樹海バアムで発生した揉め事の鎮火が主な役目なのだが、暴れていた巨大ゴリラを俺達が倒したので、そのお礼という事だ。


今目の前にあるグシャグシャになっている卵は、人々の憎悪と悲しみと怒りだけを喰らい成長する卵だ。


吸収したそれぞれの量により、生まれてくる個体差が生じる。

つまり、最悪の場合は、魔王に匹敵するあるいは凌駕する化け物が生まれてくる事もある。

しかし、この魔の種は、本来禁忌とされ遥か昔に失われた秘術を使わねば作る事が出来ない。


「誰かが、この島全員の命を媒介にしてこの種を孵化させようとしたんじゃな」


一体だれがそんな事を・・いや、答えはもう出ている。

あの黒ローブの去り際の言葉だ。


時は動き出した。今更貴様には止められんとかなんとかだったか。


「心当たりはある。しかし、正体も居場所も分からない」

「そうか、まあいい。こんな代物そうそう作り出す事は出来んじゃろうて。知っておるか?こいつの材料を」

「いや・・」

「1000個の生き物の魂じゃ」


つまり、1000人の人々を犠牲にして作られたって事か。


「さてと、ではワシは住処に帰るぞ」

「なぜ、この国を助けてくれたんですか?」


聞かずにはいられなかった。

エスナ先生から聞いていたイメージと異なっていたからだ。


「本来、ワシは大樹海バアム外で起こった事には関与せん、今回だけは特別じゃ。討伐のお礼じゃな」


それだけ告げると白の魔女は、その場から消えた。


「これって、もしかして凄く助かったんじゃないか・・」


魔の種は、ストレージに回収しておく。


先程の白い膜のような力には浄化の力があったのか、島に残っていたモンスターも根こそぎ消滅していた。

恐るべし白の魔女。


俺達は皆の待つ城へと戻った。


白の魔女の出来事を話しても恐らく信じてもらえないだろう。

それに危険は去ったんだ。

わざわざぶり返して怯えさせる必要もないだろう。


国王も無事に意識を取り戻したそうだ。

やはりというか、定番というか、ここ最近の記憶がサッパリ無くなっていた。

黒ローブの事も知らないらしい。



「本当にユウさん方には、感謝をしてもしきれません。この国が滅びなかったのは、ユウさん達が居てくれたからです」

ジークさんが大げさ過ぎるほど感謝の意を表してくれる。

「ジークさん、おおげさですよ。それに俺一人の力では何も出来ませんでしたし、親衛隊のチームワークが良かったので、スムーズに事態を収拾する事が出来ました」


話している途中に二人の女性が現れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る