第104話: モンスター化

黒ローブとの戦いを終え、俺は皆の元へと戻った。


飛ばされた先は、グラキール城から少しだけ離れた荒野だった。

見覚えがあると思ったら、侵入する時にも通った場所か。

皆に心配されたが、身に起きた事をありのままに説明した。


事の顛末を知る存在の一人だった黒ローブを取り逃がしてしまったのは失態だった。


「国王様が見つかったみたいですよ」

「お、朗報だな。ちなみに何処にいたんだ?」

「地下の一室に中から施錠され捉えられていたようです」


なんでまた地下に。

国王は意識不明で眠っているようだ。


洗脳されているのか確認する必要があった為、事情を説明して国王様の元へと向かう。


「ユウさん、どうでしょうか・・」


心配そうに話しかけるのは、親衛隊隊長補佐のジークさんだ。


「洗脳はされていないようですね」

「そうですか・・」


黒ローブが洗脳を解除したのか、または元々洗脳などされていなかったのか。結局分からない。

国王自体に聞いてみないと分からない。


海賊達の姿が見えないと思えば、全員城地下の牢屋に収監したようだ。


俺は黒ローブの最後に告げた言葉がずっと気になっていた。


戻ってみれば分かると言っていたが、どういう意味だったのか。


「キャーーー!!」


女性の悲鳴と思われる叫び声と同時にまたしても、何処かで爆発音が聞こえた。


「おいおい、またかよ」


城の地下の方で何かがあったようだ。

海賊達が逃げ出したのだろうか。


すぐに皆で城の地下へと向かう。


「逃げろー!!モンスターだ!!」


地下へと続く廊下の先から必死の叫び声が聞こえた。


「こんな場所にモンスターだと!」



ジークさんを先頭に牢屋のある階層へと辿り着いた。


「こ、これは何だ・・」


ジークさんの顔が青ざめている。


俺もその光景を目の当たりにした。

牢屋のある階層は、50mプール程の広さがあった。

その内、牢屋として区切られた牢となっているエリアは半分程だろうか。


目の前の光景は、ざっと100匹近いモンスターが暴れまわっている惨状だった。


檻の中に閉じ込められている奴や檻の外で互いに殺しあっている奴等までいる。

一体、何処からこんなに大量のモンスターが沸いたのか。


そういえば、牢に閉じ込めたという海賊達の姿が見えない。


モンスターが俺達に気が付き、一目散に列になって襲って来る。


ざっと確認した限りでは、そこまで強い奴はいないので、この場は親衛隊に任せる事にする。


何とも嫌な予感がするな。


「ユイ、いるか?」

「なーにお兄ちゃん?」

「クロと一緒に城下町の偵察に行ってくれ。上空からなら見やすいだろう」

「他の場所にモンスターが沸いていないか確認するんだね!」

「ああ、頼む。もし居たら倒す前にまず連絡してくれ」

「おっけー」


何もない場所から、いきなりモンスターが現れるなんてありえるのだろうか。


状況から考えると、海賊達がモンスターに変身したならば辻褄が合うが、人族がモンスターになったなんて話しは、聞いた事がない。


いや、そういえば以前エルフの里で魔族になった者をこの目で見てたな・・。

しかし、今回とは全く状況が異なる。


そういえば、海賊達といえば作戦会議室に棟梁のブルギスを放置したままだったのを思い出した。


すぐに階段を駆け上がり、作戦会議室へと戻った。


やられた。


作戦会議室は既に惨劇の血の海になっていた。


「いきなり・・ブルギスがモンスターに・・。暴れまわって・・皆を噛み殺して・・」


そう話すのは、生き残った親衛隊の兵士だった。

ガクガクと震えている。


「そいつは何処に行った!」

「グリモアの侍が何処かへ連れて行ってくれたよ・・。彼がいなかったら僕は間違いなくやられてた・・」


あの侍の刀は俺が持っている。

侍が丸腰じゃ戦えない、すぐに追った方がいいか。


「リン、この場は任せる」

「はい!」

「アリス、ついて来てくれ!」

「了解、マスター」


ジラは、牢屋の方を見てもらっている。

余程の強敵じゃない限りは、仲間達がいれば安心だ。


モンスターが通ったと思われる血の跡を追っていると、塔の最上階、屋上へと辿り着いた。


侍が必死に逃げまわっている。

相手は1匹で、リザードマンのような龍人姿のモンスターだ。

俺が状況観察していると、侍から嘆きが聞こえる。


「ちょっと、見てないで助けてくれっす!」


ああ、そうだった。悪いね。

ストレージから侍の刀を取り出し、投げ渡す。


防戦一方だった侍が、水を得た魚のように一方的な蹂躙を開始する。


「今までの借りを返させてもらうっすよ!」

「俺達の出番はなさそうだな」


ボソッと呟いた俺の言葉に隣のアリスがどこか寂しそうな表情に見えたが、恐らく気のせいだろう。


よく見るとあのモンスターはレベルが50もある。

それを単独で相手を悠々凌駕しているので、この侍大概ヤバい。


アリスともいい勝負してたしね。

敵に回したくはない。


侍がトドメをさし、此方へと歩み寄る。

刀を差し出してきたので、不要と告げた。


「信用してるから持ってていいよ。それに何が起こるかも分からないからね。頼りにしてるよ」


侍の肩をポンポンと叩く。


作戦会議室は、悲惨な惨状となっていたので、場所を変える事になった。


次の場所は、恐らく食堂と思われる広いスペースだった。


会議の席で、まず議題に挙がったのは、あのモンスター達が何処から現れたのかという事だ。


少し待つと、海賊の残党の意識が戻ったというので、食堂兼会議本部へと連行されてきた。


他の海賊達同様に地下の牢屋へと収監されていたのだが、彼ら二人以外は忽然と消え、変わりにモンスターの山と化していた。


最初は、こちらの問い掛けに対して黙りを決め込んでいたが、海賊の一人が、重たい口を開く。


「急に苦しみ出したかと思えば、見る見るうちにモンスターになりやがったんだ・・」


その言葉につられるようにもう一人も口を開く。


「俺は知ってるぜ・・なぜ、グオル達がモンスターになってしまったのか。そして、なぜ俺達二人はモンスターにならなかったのか・・」


グオルというのは、海賊の仲間の事だろう。

しかし、誰もが知りたがっているその答えを彼は本当に知っているのだろうか?


「な、なぜなんだ」


親衛隊の一人が恐る恐る聞いていた。


「教えてもいいが、条件がある」

「なんだと!ふざけるな!」

「俺達はあんたらの敵だ。敵に情報を送るんだ。それなりの要求をしたっていいだろ」

「コイツ!自分の置かれている立場って奴が分かっていないようだな!」


今にも一触即発な感じだ。

正直、いがみ合ってても前へは進めない。

あまり会議には参加していなかったのだが、俺が声を発しようとした時だった。


「条件をいいたまえ」

「ちょっと、ジークさん!海賊相手に交渉など、舐められます!」


ジークさんが机を強く叩いた。


「今の我々の相手は誰だ? 海賊か? モンスターか? 」


強い口調で発せられた言葉に皆が黙ってしまった。


「断じて違う!我々は未知の脅威と戦っている!何処から来るかも、何人いるのかも何も分からない!たまたま居合わせてくれたユウさん達がいなければ、この国は終わっていたんだぞ!それが今更、威厳だとか舐められるだとか・・そんなものでこの国が守れるか!」


なんとも熱い主張だ。

皆に異議がない事を確認したうえで話を続ける。


「さあ、条件はなんだね」


先程のジークさんの威圧で、調子付いていた海賊も完全に萎縮してしまっていた。


「今回の、グラキール王国襲撃の罪をチャラにして欲しい・・」


一瞬声を発しようとなっていた親衛隊が数人したが、皆ジークさんの顔色を伺い、下を向いてグッと堪えていた。


「いいだろう。君達二人は今回の襲撃の件は不問にする」


本来、親衛隊隊長の補佐でしかないジークさんにそんな事を決める決定権などないのだが、今この場にいる者の中では、一番地位が高いのだろう。


ミラ王女と王妃は、この場にはいないしね。

ちなみに二人には、護衛としてリンについてもらっている。

また何処から襲撃があるか分からないからね。


海賊の男は、俺達を睨みつけるように話し始めた。


「今回の話を持ち掛けてきた黒ローブ野郎が、俺達海賊全員に薬を飲むように言ってきたのさ。何でも、力が湧き出てくる丸薬だと言っていたな」


その言葉を聞いてもう一人の海賊が驚いた表情をしていた。


「そうか、あの薬だったのか!」

「ああ、お前も飲んでないんだろ?」

「飲む前に誤って海に落としちまってな」

「そりゃ、運が良かったな。だがこれでハッキリしたぜ。モンスターにならなかった俺達二人は、この丸薬を飲んでいないとな」


海賊の男は、丸薬を懐から出して見せた。


「なんでお前は飲まなかったんだ」

「胡散臭いのは信じないたちなんでな。というのは建前で、そんな凄い代物ならば、後で高値で売れると思ったんだよ」


海賊らしい考えだな。

それにしても飲むとモンスター化してしまう丸薬か。

是非とも分析してみたいな。


「それ、売ってくれないか。分析して研究に役立てたい」

「なんだ兄ちゃん、何処かの武人かと思えば、学者さんか何かだったのか」

「いや、少しだけ錬金術をかじってるだけさ。その丸薬の効能に興味があってね」


「いいぜ、そうだな・・今なら特別に金貨10枚で売ってやるよ」


周りがざわつく。


「足元みるのも大概にしろ!お前はそれをタダで手に入れたんだろ!」


揉め事はいいから、お金で解決するならそれでいい。それに金貨10枚程度なら何の問題もないしね。


「それでいいよ」


バレないようにストレージから金貨を取り出した。


「いいのですかユウ殿、そんな大金を海賊なんかに・・」

「自分の探求心の為には出し惜しみはしないんです」


俺は受け取った丸薬を鑑定アナライズで鑑定してみる。


名前:魔の丸薬

説明:身体能力を大幅に向上させる事が出来る。心の弱き者が服用した場合、一定の時間が経過すると悪しき者へと変化する事がある。


うん、やはりヤバい代物のようだ。

後で詳しく調べてみよう。

誤って飲み込まないようにストレージの奥底にしまっておく。

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