第92話: 魔界【前編】

そこは悲鳴と恐怖に包まれていた。


恐怖のあまり、気を失う者。果敢に悪へと挑み無惨にも床に横たわる者。


ここは、さっきまでいたガゼッタ王国ではない。


夕焼けを彷彿とさせる程に、世界が空が赤一色で覆われていた。

地面は、マグマが通り固まったような形状をしている。高低差のある岩肌がもろに露出している。


「刃向かう奴らは全員殺す。死にたくなければそこで大人しくしていろ」


声の主は、背中に真っ黒な羽を頭に2本の角生やした2m近い長身の人物だった。


そう、魔族である。


先程まで、ガゼッタ王国主催の3年に1回の周期で開催される、晩餐会とは名ばかりの各国の王女と未来の王子との交流会が催されていた。


何故このような局面に陥ったのだろうか・・・



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

3時間程前に遡る。


初の開催国という事もあり、いつもとは違い城内が慌ただしく活気付いていた。


「そろそろ各国の方々が来られるわ」


俺は参加者を迎えるべく、シャロンと共に城門で待機している。

シャロンは、華やかなドレスに身を包んでいた。

見慣れたいつもの姿ではない為、正直最初に見た時に、ドキッとしたのは内緒だ。


俺はというと、シャロンの手作りのタキシードを着ていた。

手作りと言っても、プロの仕立屋から取り寄せた物と遜色ない程の出来栄えだ。

シャロンは手先が非常に器用なのだ。

ジラと話が合いそうだな。


「なんだか緊張してきたよ・・」

「私のパートナーなんですから、シャキッとしてて下さいね」

「あまり人前に出るのは慣れてないんだよね」

「晩餐会自体の参加人数は私達含めて24人だから、そんなに多くはないわよ」

「うーん」


全員王族ってだけで、変に緊張感してしまう。

早く終わってくれ・・。


あくまでも今日の主役は王女達なので、基本的に会話をするのは、シャロンだ。

俺は話しかけられでもしない限りは適当に相槌を打つなり、シャロンの会話に合わせていればいいようだ。

得意のポーカーフェイスで今日1日は過ごすしかない。


そんな事を考えていると続々と本日の参加者達が会場入りしてきた。

皆、空艦でのご登場らしい。

王国の中には、自前の空艦を所有している所もあるだとか。

自家用ジェット機のようなニュアンスだろう。


俺の主観を交えた説明で、会場入りしてきた王女達を順番に紹介していこう。


未来の王子の紹介?興味がないから割愛する。


1.南の島国、グラキール王国

ミラ・グラキール

10代後半の茶髪のショートヘアー美少女だ。

人見知りが激しそうな内気な感じで、絶えずモジモジしていた。


2.グリニッジ三大王国の一つ、グラン王国

シャル・シュタット・リリー

最年長だろう、20前半の何処か妖艶な空気を醸し出している美女だ。

ドレスよりも鞭が似合いそうだと思うのは俺だけだろうか。


3.海の向こう側にある共和国、アルゴート共和国に属している交易国家ユラン

ミリオーネ・ササ

10代後半の眼鏡をかけた黒髪美少女だ。

交易国家という名前からか、とても理的な感じに見て取れる。


4.同じくアルゴート共和国、リーデルトン王国

メイ・スン

10代後半の美少女なのだが、頭にケモミミが見える。

恐らく飾りなのだろうが、リーデルトン王国で流行っているのだろうか。後で聞けるチャンスがあれば是非とも聞いてみたい。


5.水上都市アクアリウム

サナ・ユウグリッド

彼女も俺と同じ精霊の宿主をしている。元は一市民だったのを王様に気に入られ養子となり、王女となった経歴を持つ。数少ない友人だ。


6.グリニッジ三大王国の一つ、プラーク王国

ルルアーナ・リジー

アナライズで情報を見る時に、一瞬ノイズのようなものが走った気がしたが、気のせいだろうか?

年齢は・・・んっと、どうみても、10歳そこらにしか見えない。

小学生か!と一人ツッコミをかましてみた。

しかし驚いたのは、小学生のくせして魔術師のレベルが30もあったのだ。


前に王様に会いに王宮に行った時には会う事はなかったな。

隠し子か?


7.アルゴート共和国最大の都市、バーン帝国

ムー・フラム

10代後半の一言で例えるならば魔女だ。

というのも称号が水の魔女となっているからだ。

レベルに至っては43と他を抜いて圧倒的に高い。

魔女には近付かないに越したことはない。


そしてシャロンを入れて計8人の王女達だった。

当初は12人と聞いていたのだが、相次いで急遽出席をキャンセルしたようだ。


腹痛か?風邪か?

王女達は身体が弱いとかね。


それにしても予想はしていたが王女達のルックスの高さは、何処かのアイドルユニットを見ているようだ。デビューすれば、バカ売れ間違いなしだろう。

プロデューサーは俺がやってもいい。

目指せ世界制覇!勿論違う意味でだけどね。


一応、パートナーである将来の王子候補にも少し触れておく。

聞いていた通り、王女達は一人の付き人と一緒に来ていた。

同世代もいれば、あきらかな、年配の方も混じっている。

中にはどう見ても女性にしか見えない美形も混じっている。

性別偽ってないか?犯罪レベルだろうあれは・・

それと、年齢の割には全体的にレベルが高い。

俺とシャロンの設定のように、王子候補は騎士が多いようだ。


晩餐会が始まるまでは、挨拶以上の会話は特になかった。


一人を除いては。


「お久しぶりです、ユウさん」


聞き覚えのある声は、水上都市アクアリウムのサナだった。


「お、久しぶりサナ。じゃなかった、サナ様」

「あははっ、なんで言い直すんですか」


予め、シャロンに釘を刺されていたのだが、参加者全員には、様を付けなければならないようだ。

勿論、シャロンも含めて。

仮にも未来の王女達だしね。


サナは、シャロンと文通友達で仲が良かった。

今回俺がこの晩餐会に参加する事も既に話していたようだ。

勿論、恋人同士でない事も。

俺もサナのパートナーは気になっていたのだが、意外にも俺がよく知る人物だった。


そう、サナの使用人であるクラウゼルさんだったのだ。

年の差カップルにも程があるだろう。

でも、クラウゼルさんは執事の中の執事で、ダンディーなお爺様と言った感じだ。ないことはないかもしれない。

絶対に若い頃はイケメンだったろうし。


アウェイ感漂う中で見知った顔があるというのも、なんだかホッとする。


晩餐会会場は、城内の中庭だった。

本日に限っては、部外者は例え王族であろうと城内に入る事は許されない。そういう仕来りなのだが、

料理に関しては、宮廷料理人の数名のみが配置され、配膳を任されていた。

城内も関係者しかおらず、城門も堅く閉ざされていた。


そうして、次々と運び込まれる料理の豪華さに只々驚くばかりだった。

ユイに知られたらきっと悔しがるだろうな。


時折席を立ち、各国の王女達と会話していくスタイルらしい。


席順から、最初はリーデルトン王国のメイ王女だ。


「お久しぶりです。メイ王女」

「久しぶりだな、シャロン王女」


シャロンは、この晩餐会は2回目の参加なので、ほぼ面識があるそうだ。

やはりケモミミはやはり偽物らしい。

すれ違いざまに一瞬睨まれた気がしたんだけど、気のせいだよね。


リーデルトン王国では、獣人族と共存している国だという。

非常に興味があるので近くを通れば、是非行ってみたいものだ。


「ガゼッタ王国は初めて訪問したが、市民の活気もあり、豊かで平和な良い国だな」

「ありがとうございます。私も以前、リーデルトン王国を訪れた際に、まずその大きさと、要塞のような強固な風貌に驚きました」

「過去に一度、モンスターの軍勢に攻め滅ぼされた苦い経験があるからな。どの国よりも防衛には力を入れておるんよ」


こんな感じで、たわいもない会話をしていく。

それにしても、会話が固すぎて肩が凝りそうだ。

もう少し砕けて話ができないものだろうか。

まぁ、無理だろうけど。


そして、お次は一番近寄りがたいバーン帝国のムー王だった。


「ご機嫌麗しゅう、お初にお目にかかります。シャロン王女。妾はバーン帝国のムーです。今後とも宜しくお願いしますね」

「初めまして、ムー王女。こちらこそ、宜しくお願い致しますね」


二人は握手している。


少し談笑した後、シャロンが次の席に移動しようとした時だった。


「待つんじゃ」

「時に其方、不思議な魔力の流れを感じるの」


やば。

ムー王女は、俺の方を指差している。

直ぐにシャロンがフォローに入る。


「彼は我が王国の近衛隊隊長です。勿論私の大事な人でもあります」


嫌な感じだ。ただ見られているだけだというのに、なんだか全てを見透かされているような気になる。

魔女の称号は伊達ではないようだ。


「膨大な魔力じゃの。この国の騎士は、魔術の才もあるのか?」


どういう訳か、俺の中の潜在魔力がバレたらしいが、良い意味で誤解してくれたようだ。


「其方とは、また何処かで会うような気がするの」


俺は一礼してその場を離れた。


次は、プラーク王国のルルアーナ王女だ。

シャロンも会うのは初めてだと言う。


「初めまして、ガゼッタ王国のシャロンと言います。近隣諸国同士、これからもどうぞ宜しくお願いしますね」

「ヨロシク」

「その若さで王女なんて、何かと大変な事もありますでしょう?何か分からない事がありましたら、何でも聞いて下さいね」

「分からない事ナイ」


やけに口数が少なく、ぎこちない王女だな。

まだ年端もいかない為、緊張しているのだろうか?



一通り挨拶周りが終わると、再び席につき、ご馳走の続きを堪能する。



なんだ?


今一瞬、妙な胸騒ぎを感じた。


周りに特に変わった様子はない。

気のせいだったか?


!?


突如、足元全体に魔法陣が現れた。


「何これ!」


皆が慌てふためいている。

ただ事では無い。


その時、俺の範囲探索エリアサーチに赤い点の反応が現れた。

しかもかなり近い。どうやらこの広場の中のようだ。

目で探していると、ルルアーナがいた席に魔族が立っていた。

いつの間に現れたのか。

そしてルルアーナ王女の姿が無い。


俺が席を立つよりも、周りの人が悲鳴を上げるよりも早く、事は起こった。


”強制次元転移が発動しました”


視界の端にメッセージが流れた。

そして、一瞬のうちに景色が暗転する。



どうやらメッセージ通りの出来事が起こったようだ。


魔法陣内にいた人が次元転移に巻き込まれたようだ。

つまり、8つの国の王女とそのパートナーが飛ばされたようだ。


「一体、何が起きたのだ」

「ここはどこ!」

「キャー!!そこに魔族がいるわ」


俺達に混じって、魔族が紛れ込んでいた。

皆が怯える中、一人の勇敢な若者が魔族に向かい飛びかかっていた。

グラン王国のシャル王女のパートナーだった。


「あっ・・・」


しかし、大きな鎌を持った魔族に、呆気なく腹部をバッサリと切り裂かれてしまった。


名前「ベルーガ・ライ」

レベル:62

種族:魔族

弱点属性:なし

スキル:時限転移、擬態、サンダーレイLv3、レールガンLv3、魔球まだんLv3


「刃向かうな人族。大人しくしていれば、今暫くは生かしておいてやる」


状況整理に時間が掛かり、俺は直ぐに動く事が出来なかった。

これ以上暴れようものなら、撃って出るつもりだったが、魔族はそのまま彼方へと飛び去ってしまった。


俺達は、一体どこに飛ばされてしまったのか・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る