第91話: 12カ国合同晩餐会

長らく滞在していたガゼッタ王国を出発する日が訪れた。


出発前にこの国の王女でもあるシャロンに挨拶だけはしておこうと、俺は城を訪れていた。


「ユウさん丁度良い所に」


シャロンは、何故だか上目遣いでモジモジしていた。

何だろうか、熱でもあるのだろうか?


「私の恋人になって下さい!」


はい??


イキナリ何を言うかと思えば、話を聞くに条件付きで1日だけ、恋人のフリをして欲しいのだそうだ。


勿論そんな面倒くさい事は即時お断りだ。

ユイに何を言われるか分からないしね。


「お願いします!私にはユウさんにしか頼める人がいないんです・・」


なんで俺なのか疑問なのだが、取り敢えず引いてくれそうもないので、話だけは聞く事にした。


各国の王女が一箇所に集まり、晩餐会が開催されるそうだ。

3年に1度の恒例の行事なのだが、今回はとある条件が追加されたようだ。


”殿方即ち、恋人同伴である事”


つまりは、各国の王女が未来の王となる者をいわゆるライバルと呼べる他国の王女達に自慢する会らしい。


王族とは関わり合いたくない為、やはり断固拒否するしかない。


「そこを何とか!」

「無理です」

「絶対ダメですか?」

「絶対ダメです」


若干潤んだ瞳で尚且つ上目遣いで懇願してくる。


申し訳ないが、毎日のハーレム生活で耐性がついている俺はその程度で簡単に屈したりはしない。

可愛いのは認めるけどね。

でも可愛さだけならエレナの方が上だしね。


「これだけ頼んでも?」

「ダメなものはダメです」

「うぅぅ・・・」


本当に泣きそうな顔になってしまった。

涙は女性の武器だとか、泣き落としだとか、色々と言葉はあるが、男性は女性の涙に弱い生物だとこの身をもって改めて痛感した。


だがしかし今日の俺の意思は固い。

泣いたぐらいで決意が変わると思ったら大間違いだ。


部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「シャロン、入るわよ」


中に入ってきたのは、この国の王妃でシャロンの母でもあるシュガーさんだった。


「あらあら、その様子だと口説くのに失敗したようね」

「えっと・・お久しぶりです、シュガー様」

「今更、様はよして頂戴。それに貴方には感謝しきれない程の恩があるわ。本当にありがとう」


シュガーさんは深々と頭を下げていた。

既に何度もお礼の言葉は貰っていた。


以前シュガーさんは絶界の魔女であるノイズに催眠の呪いを掛けられた事がある。

その呪いを解くのに一躍買ったのが俺なのだ。


「もうお身体の具合は宜しいのですか?」

「ええ、おかげさまで良好よ。何なら確かめてみる?」


シュガーさんは、その豊満なバストを俺の身体に押し当ててくる。


実にエロい。けしからん!


「ユウさん、私からもお願いするわ。一時的と言わず、ユウさんでしたら本当にその子を貰っても良くてよ」

「ちょ、ちょっとお母様!」


シャロンは赤面していた。


このままでは本当に押し切られそうなので、少し話題を変えよう。


「えっと、シャロン様には意中の相手とか許嫁とかいないのですか?」

「それがね、この子は昔から奥手で、異性の手を握るだけで赤面してたのよ」

「勘違いしないでね!む、昔の話よ」

「だからね、そういう相手はいないのよ。勿論あっちの方も、まだ・・ね」


シャロンは、カァーーっと頭から蒸気でも発しそうなほど赤面している。

釣られて俺まで赤面してしまう・・


この状況を楽しんでいるかのように笑っているシュガーさん。


性格悪いですよ・・


「それに各国の王女とお近付きになるチャンスよ。貴方の知っているアクアリウムのサナちゃんも来るし、今後旅を続けていくうえで、損にはならないと思うわよ」


サナか、確かに久しぶりに会ってはみたいとは思うけど・・。

亡国の騎士の連中に誘拐されたのを救って以来だな。


考えを変えようか。

どうせ関わらないようにしていても関わる運命な気がするし。

もしかしたら、これも神の策略か陰謀か?


”違うから!”


と言っている神メルウェル様の姿が思い浮かぶ。

ま、プラス思考で考える事にしようと思う。

これから新天地へと向かうんだし、その地の王族とコネがあった方が何かと良い事もあるだろう。うん。


「負けましたよ・・。分かりました。シャロン王女の一日限りの恋人役を受けさせて頂きます」


俺の言葉に二人が喜んでいた。


はぁ・・。

皆をどうやって説得しようか。



その後晩餐会の詳細を聞いた。

晩餐会に参加するのは、グリニッジの三大王国である、プラーク王国、ここガゼッタ王国、グラン王国を始め、地方の都市を含めると全部で12の町や都市だった。

勿論、水上都市アクアリウムのサナも参加との事なのだが、サナに男っ気あったっけ?


最後に大事な事を確認しておく必要がある。

この回答次第では、俺に待っているのは悲惨な未来だけだ。


「えっと、エルフとかは来ませんよね?」

「エルフって、あのエルフ?来るわけないじゃない。ユウさんは、会えるのが普通かもしれないですけど、エルフなんて、滅多に会えるものじゃないわよ。テュナの件は別にしてね」


良かった。ならば、大丈夫だろう。

もしもこんな会に参加するなんてバレたらとんでもない事になるかもしれない。


宿屋へと戻った俺は、皆に晩餐会の説明をして、この王国の出発が数日延びた事を告げた。

晩餐会は、ここガゼッタ王国の城内で開かれるようだ。


「美味しい料理をいっぱいお土産だよ!お兄ちゃん!約束だよ!」

「分かった分かった」



次の日、晩餐会用の衣裳合わせをするとの事で、再度城を訪れていた。

流石に普通の服装じゃダメだったようだ。

一般客ならまだしも、王族だけのパーティに下々の服装はマズいのだろう。


試着部屋に案内された俺は、試着地獄を予想していたのだが、準備されていたのはたったの1着だった。


「ちょっとこれを着てみて」

「あ、はい」


二人きりなのが、なんとも気まずい。


「えっと、ここで着ればいい?」

「ちょ、ちょっと!そこに試着室があるから!」


シャロンは、大げさに手で顔を隠して赤面していた。


実に可愛らしい仕草だ。


試着室で改めて服を確認すると、なんというかシルバーのタキシードのようなイメージに近いだろうか。

シルバーのベストに蝶ネクタイまで完備ときている。


「どう、かな?」


試着が終わり、試着室から出た俺はシャロンに感想を求めた。

シャロンは凝視しているだけで一向に返事が返ってこない。


「シャロン?」


「ふぇ?あ、えと、、に、似合ってますね、驚きました」

「ありがとう、何だかサイズもぴったりフィットしている感じなんだよね」

「それはそうよ。だってシャロンが毎晩徹夜で手作りで製作したんですもの」


どこから入ったのか、いつの間にかシュガーさんが後ろにいた。


え、手作り?


「ちょっと、お母様!それは言わない約束・・」

「いいじゃない、手作りだって聞いたら、彼も喜ぶわ」


親子のじゃれ合いに俺を巻き込まないでくれ・・。

そりゃ、手作りなんて言われれば、貰った方は嬉しさ倍増だろう。

シャロンが夜な夜な俺の為に作ってくれているのを想像すると・・悪くないな。


「ユウさんに合うのがなくて、仕方無しに作っただけですからね!」

「それにしては、毎晩楽しそうに作っていたように見えたけど」

「ああーもう!お母様は、外に出てて!!」


半ば強引に部屋の外に追い出されてしまったシュガーさんだった。

まぁ、気持ちは分かるよ・・


「ありがとう。こんな凄いの作るのに時間掛かったんじゃないのか?」

「そうでも無いわよ。無理言って私に付き合って貰ってるんだもん、せめてこれくらいはやらなきゃって思っただけなんだからね!」


あれ、最初の理由と違っている気がするが、触れないでおこう。


ちなみに恋人役である俺は、この王国の近衛隊に勤めている隊長という肩書きらしい。

身分の偽装にも程があるが、いいのだろうか・・。


「そこのベルトに、このレイピアを刺すのよ」

「ああ、気にはなっていたんだけど、そういう事だったのか。でも武器を持参して晩餐会に出てもいいのか?」

「いいのよ。ただのお飾りなんだから」

シャロンから受け取ったレイピアは、良く劇団とかで使われる刀身がゴムのようにしなるタイプだった。


見た目が大事という事らしい。

その後は、晩餐会での作法などを学んだ。

とても1日で覚えられるような感じではないので、残り2日間かけて、みっちりと特訓らしい。


はぁ、勘弁して下さい・・。

そりゃ、お貴族様のテーブルマナーとか知らない俺が悪いんだろうけどさ。




そんなこんなで、晩餐会当日まで、シャロン先生の厳しいマナー特訓が続き、当日を迎えた。


今俺は、ガゼッタ王国の国王と二人っきりで謁見の間で会話をしている。


「この度は、巻き込んでしまい、すまなんだな」

「いえいえ、私なんかには勿体無い役柄です。光栄です」

これっぽっちもそんな事は思っていなかったが、実の親に、ましてや国王に対して、嫌々です。なんて言える訳がないだろう。


「警備は万全なので、万が一の出来事も起きぬとは思うが、もしもの時はシャロンを頼むぞ。娘の騎士であってくれ」

「分かりました。この命に代えても、シャロン様をお守りします」

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