第87話: 神メルウェル
俺達は、古代兵器を追い求めて、ガゼッタ王国一のハーミル大聖堂へ足を運んでいた。
成り行きで参拝する事になってしまった。
前儀を終え、高位聖職者が来るのを待っていた。
1時間程待たされただろうか。俺は眠気と格闘しながら、なんとか意識を保っていた。
クロ、ユイのコンビは、かなり早い段階で睡魔との戦いに敗北していた。
リンは、目を瞑り瞑想まがいな事をしている。
本当に時間があれば自身の鍛錬を怠らない。
見習うべき姿勢だとは思うが・・。いや、もしかしたら瞑想にかこつけて寝ているとか?
ジラに至っては、大聖堂に興味があるのか、興味深々に何処かへ行ってしまった。勿論許可は取っている。
「お待たせ致しました」
ハルオーネさんに連れられて、高位聖職者が祭壇の前に現れた。
てっきり高位聖職者と言えば、太った大神官をイメージしていたのだが、むしろ良い意味で全く違った。
祭壇の前に立っていたのは、思わず目を奪われてしまいそうな程の美しい妙齢の女性だった。
純白の修道服に身を包み、ミトラを被っている。
誰が見ても聖職者と疑わない姿と言えるだろう。
彼女は、一瞬俺の方を見てニコッと微笑んでいた気がした。
「お待たせしてしまい申し訳ありません。今日は午後まで参拝の方は来られないものと思っておりましたので、少し離席をしておりました」
社交辞令的なものだろうが、一応返事をしておく。むしろ、アポなしで訪れたこちらに非がある気がするしね。
「いえいえ、そんな事はありません。急に押し掛けたこちらが悪いですので」
いつの間にやら、隣にいたユイとクロも起きていた。
そして、耳元で小声で何か喋っている。
「お兄ちゃん、浮気はダメだよ?」
何処から起きていたのか知らないが、どうやら見つめていた事を言ってるのだろうか?
それにしてもユイは一体どこでそんな言葉を覚えたんだ!
「では、これより参拝の儀を執り行います」
あ、はい。
名前:レミリア・シュランザ
レベル:52
種族:人族(神格者)
職種:聖職者
スキル:
高位聖職者を名乗るだけあり、中々にレベルが高いようだ。
「レミリア様は、神様からの神託が降りたのです。神託が降りると、その神様の名前を名乗る事が出来ます」
なるほどね。つまり、選ばれし存在って事なのだろう。
今の話を聞いて、一つ思い出した事があった。
魔術の師であるエスナ先生は、神から神託が降り、神の名を名乗っていると言っていた。
名前は確か・・メルウェル。そうだ。神メルウェルだ。
「それでは、順番に名前を言いますので、呼ばれた方は、それぞれが信じる神に対して、何でも良いですので。会話をして下さい」
大聖堂に仕える高位聖職者であるレミリアさんは、神と対話する能力を授かっているようだ。
彼女が能力を使っている最中ならば、神に直に信者の声を聞いてもらう事が出来ると言う。
ごく稀にだが、神の方からレミリアさんを通して返事をくれる事もあるのだそうだ。
俺は、どの神と会話をすれば良いのだろうか。
俺をこの世界に呼んだのが、最近になってもしかすると神自身が俺をこっちの世界に呼んだのではないだろうかと思ったりもしていた。
他の神の名も分からないので、エスナ先生の神にしよう。
「では、最初は信者ユウ。貴方は無神でしたね」
「あ、すみません。神様を選びたいのですが、間に合いますか?」
レミリアさんは、優しく微笑んだ。
「はい、大丈夫ですよ」
「えっと、神メルウェルでお願いします」
俺が神の名を告げた時、ほんの一瞬だけ、レミリアさんが驚いた素振り《そぶり》を見せた気がした。
「分かりました。それでは始めます」
レミリアさんは、目を閉じ小さな声で何やら呟いていた。
釣られるように俺も目を閉じる。
「・・・・・・・・やっと・・・会えましたね」
何かが俺に語りかけてきた。
女性の声?レミリアさんの声とは違う。
空耳かとも思ったが、何処か懐かしい声の気がする。
それでいて、柔らかく聞いているだけで心が和むようだった。
「目を開けて下さい」
声の主を確認するべく、俺は目を開けた。
!?
なんてことだ、周りの景色が一変しているではないか。
先程までいた大聖堂ではなく、周りが雲で覆われた浮島のような場所だった。
ここは何処だ!
「ここは、神の住まう社です」
あれ、今声に出してなかったよな?
俺は声のする方に顔を向けた。
そこには椅子に腰掛ける幼い少女がいた。
「初めまして、私の名前はメルウェル。五大神が一人、時を司る神です」
あまりの出来事に頭が混乱していた。
目を開けた先は見知らぬ場所で、自分は神と名乗る少女が現れたのだ。
にわかに信じ難い話なのだが、きっと、いや、恐らく本当の事なのだろう。
今更何が起きても驚く事はないと思っていたのだが、この事態にはさすがに驚いた。
「やっと会えましたね。ユウ」
まただ、何処かで聞いた事のある声なのだが、何故だか思い出す事が出来ない。
「何処かでお会いした事がありましたでしょうか?」
「こうやって面と向かってお話するのは初めてですね。でも、私はいつでも貴方をこの場所から見ておりました。その責任が私にはあるのです」
その発言は、正直怖いのだが、神様は何でもお見通しなのだと、良いように解釈した。
「ユウには、まず謝らなければなりません。本当にごめんなさい」
そう言い、神メルウェルは俺に向かって頭を下げている。
この光景って、ヤバいんじゃないか?
ただの信者でもない俺にいやいや、この世界の頂点に立つ神様が一人の人族である俺に頭を下げているのだ。
「そのような真似はしないで下さい。どうか頭を上げて下さい」
すると、とんでもない事実を神様が語りだした。
「ユウをこの世界に呼んだのは、私です」
「・・・・・・・なっ・・・・・・え?」
「本当にごめんなさい。ユウには、私を責める権利があります。今この場で私を殴っても、私は文句を言いません」
彼女は目を瞑った。
俺はこの世界に連れて来られた理由と帰る方法をずっと探していた。
しかし、今日まで、とうとう手掛かり一つ見つけ出す事は出来なかった。
しかし、今目の前に神と名乗る存在がいて、その神が俺をこの世界に呼んだと言う。
だめだ、全く頭の整理が出来ない。
目の前の神は、依然として目を閉じたままだ。
目を強く瞑っている事から、恐らく俺に殴られると思っているのだろう。
俺をこの世界に勝手に連れて来て、俺の人生を無茶苦茶にした張本人が今目の前にいる。
こっちの世界に来てから考える時間は山程あった。
もしも原因を作った張本人を見つけたら、一発殴ってやろうと思った事も確かにある。
それは否定しない。
だが、実際に今その局面に立った時、込み上げてきた一番の想いは・・・・・・・・・安堵だった。
ホッとしたのだ。
こっちの世界に来てから2年以上の歳月が過ぎていた。正直元の世界に帰る事を半ば諦めかけていた。
最近に至っては、こっちの世界で暮らすのも悪くはないと思い始めてすらいた。
どれくらい悩み考えていたのか。一瞬なのか数分なのか数時間なのか定かではない。
前を見ると依然として頭を下げている神の姿がある。
「ああああああ!もう!お願いしますから頭を上げて目を開けて下さい!!」
神は、ゆっくりと目を開けた。
「ユウは優しいですね・・。神々の選択によって選ばれたのが、貴方で本当に良かった」
俺は詳しい説明を神に求めた。
神メルウェルは、この世界に俺を呼んだ理由とこの世界に迫っている危機について説明してくれた。
そして最後に一つだけ質問をした。
正直答えを聞くのは怖い。
もし、だめだった場合を考えると足が震えた。
しかし、確認しない訳にはいかなかった。
「俺は、元の世界に帰れるんですか?」
神メルウェルは、真剣な眼差しでこちらをみている。
「帰れます。すぐにでも。元の世界に戻すだけの
「あははっ・・」
俺は小さく笑った。
別に面白かったとか、頭が可笑しくなったとか、そういう話ではない。
あれだけ元の世界に帰る方法を、それこそ血眼になって探したというのに、こんなにあっけなく見つかるなんて。なんだか拍子抜けしてしまった。
「神様は、やはりズルい人だ。貴女は俺の心が読める。それにどうやら俺の性格を知り尽くしているようだし、だから俺が次にどんな発言をするのか分かった上で発言している」
神メルウェルは、ニコッと微笑んだ。
「神は、非常に
考えるまでもない。
答えなんて決まっている。
俺の生まれた世界は、ここじゃない。
「俺は、元の世界に帰りたい。だから元の世界に帰して貰いますよ。でもそれは今じゃない!やってやろうじゃないか。俺に何処まで出来るか分からないが、この世界の危機とやらを解決してやる!帰るならその後だ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます