第86話: 宝の地図
エスナ先生達と別れて皆の所に戻った俺は、数日振りに皆との団欒(だんらん)な日常を送っていた。
宿屋に戻り、早速プラーク王国で買った土産を皆に披露した。
ユイには最高級霜降り肉セットと、アクセサリーだ。
クロにもアクセサリーを購入していた。
少し前から、どこで影響を受けたのか最年少コンビの二人はキラキラものに目がないのだ。
ジラには裁縫セットに、リンには戦乙女の鎧をプレゼントした。
みんなにリンだけ鎧ズルいと言われてしまった。
「分かった、分かった。今度皆の分も買うから」
早速、リンに鎧を試着してもらう。
勿論着替える時は、俺は部屋の外で待機していたのは言うまでもない。
気にしませんのでとリンに言われたときは、少しだけ心の中で葛藤があったが、結局外で待機していた。
「おおー」
そこに居たのは、まさに俺の脳内ジャンヌその人だった。
リンが着ると、実に良く映える。
「うわぁ、お姉ちゃん!かっこいい!」
「キレイです」
「中々様になってますね」
皆が思い思いの感想を述べている。
戦闘鎧でキレイって感想も何か変だけどね。
「ご主人様、このような貴重な品を頂きありがとうございます」
「リンはもう少し柔らかくなった方がいいね。何ていうか、硬いんだよな。俺達は仲間であると同時に家族だと思っている。家族にいちいち遠慮はしないだろ?」
「そうですよ。新参者の私が言うのも変ですが、マスターは尊敬に値する方です。マスターの命令は絶対です」
「ちょっと待てジラ。俺は今まで命令なんてした覚えもないし、そもそも今の話を聞いて、どうしてそういう話になるんだよ・・」
「もう、みんなお兄ちゃんを困らせないでね!仲良くだよ?」
お互いが顔を見合って笑っている。
「ユイには勝てないな」
次の日の朝、俺達の泊まっている部屋に訪問客が訪れた。
鑑定屋のシュルトさんだった。
「おはようございます。朝早くにすみません」
「おはようございます、もしかして、もう解読出来たのですか?」
というのも、依頼したのは昨日の夕方頃なので、まだ半日も経過していない。
どうやら解読に熱中してしまい、気が付いたら朝になってしまったようだ。
目の下にクマのような物が見える。
「つまり、地図の正体が分かったんですか?」
「はい、そうなんです!居ても立っても居られなくて、こんな時間になっちゃいました!」
部屋に上がってもらい詳細説明を聞こうと思い、部屋の方を振り返る。
まだ何人か寝ているうえに、皆パジャマにネグリジェ姿だ。俺は耐性が出来ているので問題ないのだが、いや、違うな。俺以外の誰にもこの光景を見せたくないというのが本音だろうか。
どちらにしてもだめだ、こんなの見せられない。
すぐさま振り返ると、
「あ、えっと、ロビーでお話を伺いますね」
俺が部屋を出ようとすると、ジラもついてきた。
1階のロビーは、早朝という事もあり、誰一人居なかった。他の人に聞かれても面倒なので逆に好都合だ。
「まず最初に・・・」
シュルトさんは、徹夜で解読した内容を掻い摘んで説明してくれた。
その内容によると、この地図は予想通り古代兵器の隠し場所の在り処が示されていた。
「1000年以上前に封印された
一瞬、ジラの顔に力が入る。
王立図書館に残っている最古の古文書によると、あまりの強大な力の為制御する事が出来ず、止む無く封印された代物と記載されていた。
「約1000年前の兵器が今更動くとは思えないですが、何だか怖い話ですね」
ジラからしてみれば、対魔族用兵器など、恐怖の対象でしかない。
「それがそうとも言えないんですよ。この兵器を製作した帝国の技術は、当時他の国を圧倒していたようです。もしかすれば、今の技術をも凌ぐかもしれないと言われているんです」
シュルトさんは続ける。
「色々と調べて分かった事なんですが、その帝国の名前は、ツグール帝国と言います。当時圧倒的な技術力で、世界の中心とも言われていました。しかし、何故だか、1200年程前に突如として滅んでしまっているんですよね。その理由は諸説諸々ありますが、今は置いておきます」
シュルトさんの目が先程から輝いていた。
無邪気な探究心に胸躍る子供のようだった。
しかし、ツグール帝国って何処かで聞いた名だな。
(私の故郷よ)
そういえば、俺達はツグール帝国に行った事があったね。そこで精霊のノアと出会ったんだ。
(という事はノアは、この古代兵器の事を知ってるのか?)
(兵器と聞いてピンと来るものは無いわね。私も全てを把握していた訳ではないので)
シュルトさんの話の続きでは、この地図自体は、ツグール帝国の地図ではなく、当時の大孔洞と呼ばれた場所の地図だと言う。
(ノア知ってるか?)
(名前は聞いた事あるけど流石に今の場所までは・・)
「この地図には、緯度と経度が記されていたんだ」
当時の緯度と経度は、算出方法が今とは違うらしい。
シュルトさんは、それを今のこの世界の法則に置き換えた所、なんとこのガゼッタ王国が存在しているまさにこの場所を示したそうだ。
何だか話が出来すぎている気がしないでもないが、疑っても仕方がない。
このガゼッタ王国は、確か建国800年だと聞いた事があったので、時間軸としては、間違っていない。
しかし、だとするならば大孔洞は何処にあるのだろうか。
そんな俺の疑問はすぐにシュルトさんが解決してくれた。
「1000年前と今とは、約100m程大地の標高差があったらしいんだ。だから、当時の大地は今よりも100m下になるんだよ」
なるほどね。
何だか、シュルトさんに感化されて段々と俺も心が熱くなってきた気がする。
やっぱり男子って、冒険とか宝探しって言葉に弱い生き物だよね。
しかしこれだけの情報を短期間でよく集められたものだ。是非、今後ともご
依頼料の金貨10枚を渡し、シュルトさんと別れた。
もし、古代兵器が見つかった暁には一目拝見させて欲しいと言われたので、快く承諾した。
部屋に戻り、皆に今の内容を説明した所、すぐに探しに行こうという事で話がまとまった。
と言っても、さて何処から探せばいいのだろうか。
ガゼッタ王国全土となると、広大な面積なのだが、
一応、シュルトさんには大まかな座標を聞き、それがガゼッタ王国の東側にあるハーミル大聖堂の真下である事だけは、分かった。
「取り敢えず、大聖堂に行ってみようか」
俺達は遠足にでも向う気分で、道中で食料などを仕入れて大聖堂までの道のりを楽しんでいた。
「お兄ちゃん、おやつは300銅貨まで?」
何処かで聞いた事のある台詞だが、300銅貨という事は、単純計算30,000円なので、おやつどころか、全員で高級料亭で食事してもお釣りがくるかもしれない。
だから、答えは簡単だ。
「おやつは、3銅貨までだよ」
「えー!お兄ちゃんのけち!」
スキンシップは大事な事なので、時間がある時は心掛けるようにしている。
さて、目の前に大聖堂が見えて来たのだが、穴を掘らせて下さいと言うわけにはいかない為、取り敢えず皆が大聖堂は初めてだと言うので、中に入る事になった。
俺も修道院には入った事があったのだが、大聖堂となると初体験だ。
ここは、ガゼッタ王国一の大聖堂、ハーミル大聖堂。
外観は聖堂というよりは、城の方が近い気がするのだが、ツッコミは入れないでおく。
まず、中に入ると巨大な空間が広がっていた。
高さも軽く15mはあるだろう。
脳内イメージと大体は同じだ。
大量の長椅子が左右に並べられており、中央が通路となっていた。
奥には棺(ひつぎ)らしき物が見える。
棺のさらに向こうには、天井にも届きそうな程の背中に羽の生えた人物の像がそびえ立っていた。
イメージは天使に近いのだが、この世界にも天使がいるのだろうか?
「リン、あの奥の像は誰なのか知ってるか?」
普通に疑問を投げ掛けたつもりだったのだが、みんなが一斉に俺の方を振り返った。
「ご主人様は、神様をご存知ないですか?」
「私でも知ってるよ!この世界で一番偉い人だよ!」
へぇ、あれ神様の姿をモチーフにしてるのか。
まさに天使のような出で立ちをしている。
旅を続けていれば、いつかは神様に会う事があるのだろうか。
神様に頼めば、もしかしたら元の世界に戻れたりしないだろうか。まさかね・・。
参拝に来ていた団体さんと丁度入れ替わりで俺達が中へと入った為、中に人影は見えなかった。
用があるのは大聖堂でも神様でもない、ここの地下だ。地下へと続く階段でもあればいいのだが、そんな都合良く見つかる訳もない。そもそも存在しているのかすら分からない。
前方の方にある神様を模した巨像の元まで向かい、下から巨像を眺めていた。
イメージとは不思議なもので、神様だと言われると、途端に神々しく思えてくるのだから不思議なものだ。
何かに魅入られたように、俺は巨像に視線を奪われていた為、第三者が近付いてくる反応に気が付かなかった。
「あ、参拝の方ですか?」
話しかけて来たのは、絵に描いたような修道士の出で立ちをした若い女性だった。
「はい、そうです。冒険者をしてるのですが、大聖堂が初めてで、勝手が分からないもので」
地下通路を探してますなんて言えないだろう。
ここは、別の角度から探りを入れるしかない。
修道士の彼女の名前は、ハルオーネさんと言うらしい。
懇切丁寧に参拝方法を教えてくれた。
まず、参拝の前に身を浄める必要があるようだ。
中央にある泉から水を尺で
俗に言う、聖水と呼ばれる液体なのだが、飲む事により、身体の中から清める効果があるらしい。
聖水は、魔除けの為に降りかける物だと思っていたのだが、 こっちの世界では普通に飲んだりするようだ。
勿論、降りかければ一部のモンスターの魔除け効果はあるようだが。
身を清め終わると、いよいよ参拝の開始だ。
参拝と言っても、単に拝むだけではなく、高位聖職者による神との対話を行なって貰えるのだそうだ。
「えっと、ユウさんは、どちらのクラークの信者でしょうか?」
え、クラーク?信者?
動揺している俺にセリアが救いの手を差し伸べてくれた。
(ユウさん、クラークと言うのは神様の総称です。普通、聖堂に行くような人は、何かしらのクラークの信者なのです)
ありがとう!さすが物知りセリアだ。
というか、この世界では常識らしいのだけど。
宗教で言うと、どこの宗派ですか?って事なのだろう。
生憎俺は、この世界の神様とは今の所縁が無いので、推しメンもとい推し神はいないのだ。
「何処のクラークの信者でもありません」
「これは、大変失礼しました。では今回は無神での参拝となります。後ろの方々も無神でよろしいでしょうか?」
俺は振り返り、皆を見渡したが、頷いているだけだったので、一緒という事にしてもらった。
「はい、それでお願いします」
祭壇の前には、開いた状態の本が設置してある。
ここに参拝者は、名前を書く必要があるようだ。
俺達は、言われるがままに名前を書き、指定された席に座り、高位聖職者が来るのを待っていた。
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