第84話: クラウディル・イエイガー【後編】

俺はプラーク王国の宿屋にいた。


先程、メルシーの姉さんの意識が戻ったのだ。

メルシーは飛び付いて、泣いていた。

しかし、姉妹だと聞いていたのだが、何故だか妹に向かって姉の方が敬語なのには違和感を覚える。


「ご心配をお掛けしましたメルシー様」


メルシーの気持ちが落ち着いた所で、俺達は自己紹介をする。


「この度は、私などの命をお救い下さり、本当にありがとうございました。勇者殿」


メルシーの姉さんこと、フランさんは妹とは大違いで凄く礼儀正しい。姉妹とは思えないくらいにだ。


「今、アンタの考えてる事当ててみましょうか!」


おっと、何故だか思考が読まれてしまったようだ。


「あ、それとね、私達は、姉妹じゃないわよ」

「やっぱりか。こんな礼儀正しいお姉さんとメルシーが姉妹とは思えなかったからね」

「アンタも相当礼儀がなってないと思うけど・・」


二人は、本当の姉妹ではないようだが、メルシーは幼少の頃からフランさんと一緒に暮らしていたので、年上の彼女をいつしかお姉ちゃんと呼んでしまっていたらしい。


フランさんは敬語の理由は結局教えてくれなかった。

このまま話を続けていてもいいのだが、何時までもここに居る訳にもいかないので、二人に別れを告げ、俺達は別れた。


何故だか、メルシーとはまた会えるような気がした。

別れの際には、ノアも出て来て、手を握っていた。



俺が足早に空艦乗り場へと向かっていた時だった。

何かの気配を感じた。

エスナ先生に貰ったペンダントが淡い光を放ったのだ。そして、何処かを指し示していた。

この反応は、近くにエスナ先生がいるのだろうか?

俺は気になったので、ペンダントの指し示す方向へと全速力で向かった。


どうやら王国の中じゃないな。

バステト村の方角か?


暫く進むと、エスナ先生に会う事なくバステト村に到着してしまった。

思い当たる節があるとしたら、クラウさんの所かもしれない。


そのままバステト村から少し離れたクラウさんの小屋まで辿り着いた所で、小屋の前にいた二人の少女の姿が目に映った。

一人はエスナ先生で間違いない。もう一人は・・


「え、ノイズ・・様?」


思わず発してしまった声に二人がこちらを振り向いた。


「ユウ・・」

「あ、勇者!」


俺はこの場所に来るに至った経緯、ペンダントに導かれた事を話した。

よく見ると、クラウさんの小屋が荒らされている。


「これは、一体何があったんですか?」


俺は、エスナ先生から事情を聞き、一緒に同行する事になった。


「まぁ、お姉様が許可するなら妾に異存はありません」

「そりゃどーも」

「ユウ、顔バレせぬように仮面か何かを被っておれ」


今の言動からも自分達が危ない事に首を突っ込もうとしている事が頷ける。

別に顔バレしようが問題ないとは思ったが、これからの旅道中に一々ちょっかいを出されてもめんどうなので、言われたとおりにストレージから仮面を出し取り付ける。

エスナ先生も仮面を被っていた。


「妾は必要ないわ。仮面だろうが、魔術で顔を変えようが、この滲み出る神々しいオーラまでは消す事は誰にも出来・・」

「置いていくぞ」


!?


「あーいいわぁ・・お姉様ぁ素敵・・もっと私ぉ・・」


何か変な言葉が聞こえた気がしたが、気にしたら命が危うい気がする・・。


それにしても、僅か三人ながら蒼々たる面々ではないだろうか。

二人は、はっきり言って俺より強い。

相手が誰であろうが、苦戦するイメージが想像出来ない。


今俺達はエスナ先生が感じ取ったクラウさんの残留思念を追っていた。


それにしても、この二人について行くのがやっとなんだが・・速すぎるだろ。


暫く進むと、エスナ先生が右手を水平に挙げ、止まれのポーズをしている。


「近いぞ。各々、周囲の気配に注意するんじゃ」


直ぐに範囲探索エリアサーチで確認したが、辺りに反応は無かった。

そういえば、範囲探索エリアサーチの探知範囲がいつの間にか、100mから1kmに伸びていた。レベルが上がった関係だろうか?

まぁでも今は遠視もあるし、平地ならば範囲探索エリアサーチよりも使い勝手はいいのだ。


「この近くには誰もいませんね」


エスナ先生を先頭に前へと進んで行く。


明らかな戦闘の痕跡がこの辺り一帯に広がっていた。しかもまだ真新しい。

中央には何かの爆発の跡であろう、大きなクレーターが出来ていた。


その跡を二人が眺めている。


「お姉様、この跡はもしかして・・」

「ああ、スラブで間違いないようじゃ」


スラブとは、いわゆる爆弾の事だ。

自身の込めた魔力量に比例してその威力を増す。

その場合、年輪のような痕跡になるのだ。


エスナ先生は頻りにクレーターの周囲を探っている。


「痕跡は何も残っておらんが、この残留魔力は間違いなくクラウのものじゃ」

「一体ここで、何が・・」

「あの血の跡を追っていけば、何か分かるかもしれんな」


エスナ先生が指差す方向に地面に等間隔に血が滴り落ちた跡が続いていた。


「ユウよ、何かの気配を感じたらすぐに教えてくれ」

「分かりました」


再び俺達三人は進んで行く。血の主を追って。


既に夜は明けており、朝日が照らしていた。


血の跡を追い続ける事30分、次第に感覚が広くなり、

先程からは、血の痕跡が消えていた。

しかし、目印はもう必要なかった。

俺の範囲探索エリアサーチにしっかりと反応が一つだけあったのだ。

既に目と鼻の先にいる。


「いいか、二人共。油断は禁物じゃぞ。クラウが敗れた相手じゃ」


俺とノイズは静かに頷いた。


「ゆくぞ!」


ターゲットを遮る形で、正面にエスナ先生、左右に俺とノイズが、取り囲む形となった。



名前「シュラ」

レベル71

種族:ホムンクルス

弱点属性:聖

スキル:閃Lv5、自爆Lv5


なっ・・ホムンクルスって、確か造られた人間だったよな。この世界にもそんなのがいるのか・・。

俺は、すぐに知り得た情報を二人に告げた。

ノイズもビジョン系のスキルを持っていたので、説明は不要だったようだ。


「お前がクラウをやった奴で間違いないか」

「だったら何だというのだ。樹海の魔女よ」


!?


こちらの正体がバレている。


「お姉様、このままやっちゃう?」

「お前は・・・絶界の魔女か?男の方は・・・知らんな」

「あらあら妾をご存知とは。人形ちゃんにしては、中々優秀じゃないかしら」


その時だった。俺は凄まじい殺気を浴びて身体が一瞬固まってしまった。

ノイズも同様のリアクションをとっていた。

殺気の主はエスナ先生だ。


「ああぁ・・お姉様ぁ・・お姉様は、何でそんなにも妾の心をくすぐるのかしらぁ・・いいわぁ・・」


おいおいノイズが壊れたぞ。というか怖い。


「最後に何か言い残す事はあるか」


エスナ先生の目は、弟子が目の前にいるコイツにやられて、怒りを抑える事が出来ない感じになっていた。


「怒りで我を忘れたら駄目です!」


シュラはこのチャンスを好機と見てか、先に動いた。


「邪魔する者は全員排除する・・」


シュラは、凄まじい速度でエスナ先生の元まで進み、強烈なエルボをお見舞いしようとしていた。


しかし、シュラの攻撃がエスナ先生に届く事は無かった。

俺は攻撃が届く瞬間に捕縛を使用していた。

エスナ先生も繰り出された攻撃には反応していたので、捕縛は必要なかったかもしれない。

いつの間にか、ノイズがシュラの腕を2本共引きちぎり、灰にしていた。


「お姉様に触れて良いのは・・妾だけだと言うのに・・」


今度はノイズがおこなの?

ていうか、これだけ超ユニットが揃っていれば、相手に同情したくなるってもんだ。


その時だった。後方から、凄まじい速度で近付く反応が一つあった。


「二人とも!背後から何かが来るぞ!」


叫んでからその正体を視認するまで、数秒だった。

つまりは、1kmの距離を数秒で移動した計算になる。


視認出来たのは、体長15m程の竜だった。

竜の背に誰かが乗っている。

上空を高速で移動し、こちらの様子を伺っているようにグルグルと旋回していた。

シュラの仲間だろうか?


「少しやる気が出てきたから、あっちの飛んでるのは、妾が相手をするわ」


そう言うとノイズは自らの影であるエコーを召喚した。


召喚されたエコーは、高速で動くターゲットを人差し指で狙いを定めている。

その様は、まるで空中に文字でも書いているかのような光景だった。


「レーザービーム」


ターゲットとの距離は、100m近くはあるというのに、放たれたレーザーは、遥か彼方まで突き抜けていった。

しかし、僅かに逸れた為、次々とレーザービームを放っている。


エコーさん、容赦ないですね・・。


いつの間にか、辺りにノイズの姿がなかった。

俺がキョロキョロしていると、エスナ先生の声が聞こえた。


「敵討ちの連鎖は正直好きではないのだが、悪く思うな」


スパンッ


エスナ先生は、シュラの首を落とした。


しかし、血が噴き出す事は無く、むしろ人形の首が取れたようなイメージに近い。

シュラの身体が力なく地面へと倒れた。


近くで大きな爆発音が聞こえたと思ったら、巨大な何かが地面へと激突した音だった。


恐らく先程見た竜だろう。


エコーもいつの間にか居なくなってるし。

暫くすると、賊の一人を引きずってくるノイズの姿が見えた。


「お姉様、まだ息はありますが、さっきの奴の仲間ですよ」


レベルを確認すると68とかなり高い。


決して、こいつらは弱くない。この二人が強すぎるのだ。

命を奪うという行為に対して、正直俺は慣れていない。

いくら相手が重罪を犯している犯罪者集団だとしても命を奪う行為自体賛同出来なかった。


などと考えている時、誰もが油断しきった時にそれは起こった。


!?


一瞬だけ、シュラの身体が光り輝いたかと思えば、大爆発を起こしたのだ。

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