第77話: 姉妹の再開
ガゼッタ王国の王妃であるシュガーさんにかけられた呪いを解く為、呪いをかけた張本人とガゼッタ王国の王宮を訪れていた。
その際、王宮の中庭で2人が乗ってきたドラゴンの番をしていたククに、ミリーの事を話した。
やはり、ククは5年前に生き別れたミリーの妹で間違いなかった。
俺はククからミリーと離れ離れになってから今ここに至るまでの経緯を話してもらった。
奴隷商人に連れ去られ、闇オークションでガゼッタ王国のとある貴族に買われたククは、約半年間もの間、檻の中に押し込められ、ペット同然の生活を送っていたそうだ。
しかし、不幸中の幸いとも言えるのが、暴力を振るわれるわけでもなく、少ないながら食事もちゃんと与えられていた事だろう。
ある夜、その貴族邸に族が侵入した。いつもと違い外が騒がしいなと思いつつも自分には関係ない事だとククは横になり、ただ時が過ぎるのを待っていた。
それはいつもと変わらない事。
そんな折、ふと檻の前に視線を送ると、そこには見目麗しい見知らぬ少女が佇んでジッとこちらに視線を送っていた。
見た目は少女にしか見えないが、一つ違うところがあるとすれば、それは彼女が発している気配というか雰囲気だろうか。
気温が上がったわけでも無いのに、ツンと肌を刺すような冷気をククは感じ取っていた。
それがノイズとの初めての出会いだった。
「お前、奴隷か?」
戸惑いながらもククは肯定の意味で頷いた。
「奴隷にしては身体がキレイだな。余程良い扱いをされていたのだろう。お前は運がいい」
「?」
「名はあるのか? 家族は?」
奴隷にされて運がいい? そんなの全然よくないよ!
大事な家族は殺されちゃったし、お姉ちゃんとははぐれちゃったし⋯。
「なんだ、不機嫌そうな顔して。名はないのか?」
「⋯ククです。家族は殺されました。一緒に奴隷にされた姉がいるはずですが、何処にいるのかまでは分かりませんが、きっと無事でいると信じています」
「奴隷にされて無事な奴はまずおらんだろう。お前が特別なだけだ。下手な希望など持たず、姉はもう死んだものと思え。そうすれば、今は辛いだろうが、後々気が楽になるものだ」
年端もそう私と変わらないのに突然現れたかと思えば、偉そうに。お姉ちゃんは絶対まだ生きてるよ!
「やけに反抗的な目をしておるな。妾は誰もが恐怖する絶界の魔女ノイズだ。お前は妾が怖くないのか?」
ククは首を横に振る。
勿論ククは、絶界の魔女の事など知る由もなかったがこの半年間、必死に恐怖に耐え孤独と戦ってきたのだ。今更目の前に魔女が現れたとて、今のククには恐怖の対象には成り得なかった。
「ふむ、そうか。つまらん」
ノイズはククの前から去ろう背を向ける。
「あ、あの⋯お願いがありますノイズさん」
「何だ、妾は忙しい身なのだぞ。それに様を付けぬか」
「ノイズ様、私をここから出してくれませんか?」
「ふん、お前のようなちみっ子がここから出てどうするつもりなのだ」
「今の私は⋯家族も、大好きだった姉も行方知れずで何処にも帰るところがありません」
「ならば、尚の事何処に行くつもりなのだ。さしずめ自分をこんな目に合わせた者たちへの復讐でもするか? それならば協力するのはやぶさかでもない」
ククは再び首を横に振った。
「違います。強くなって私のように困ってる人を救いたいです」
ノイズはククの顔を覗き込む。その時一瞬だけノイズの目が光った。
ノイズには真実と嘘を見分ける能力を持っている。
「嘘ではない⋯か。いい根性だな。いいだろう。お前がどんな道を歩むのか見届けてやろう」
その後、ククはノイズの元で厳しい訓練をし、僅か5年の歳月で今の強さを手に入れたらしい。
恐るべき才能だ。 いや、ノイズの教育方針が確かだって事か?
ククの話では、ノイズは噂ほど怖い人ではないように思える。昔の性格は捻くれていたようだが。
俺からしたら今でも十分捻くれているような気がするが、まだまだ付き合いが浅い俺には判断がつかないのだろう。
「ユウさん。私、お姉ちゃんに会いたい」
俺が喋ろうとした時だった。
「あらあら、妾が居ないうちに大事な家来を誘惑かしら?」
ノイズがシュガーさんの呪いを解き、戻って来たようだ。ちゃんと約束を守ってくれたようで、取り敢えず安堵する。
「ノイズ様、ありがとうございました」
「ふん。次はないわよ。そんな事より、さっきの話は本当なんでしょうね?」
さっきの話?
どうやら、ククを通して話は全てノイズに筒抜けだったようだ。油断も隙もないとはこの事だろう。便利なスキルもあったもんだ。
「クク、貴女はどうしたいの?」
ククは申し訳なさそうにノイズの顔色を伺いながら答える。
「私は⋯⋯お姉ちゃんに会いたいです。だけど、私が今居るべきはノイズ様の所だから、私は無事だよ。生きてるよって言うのを直接伝えれたら今は、それで満足です。だから、ノイズ様お願いがあります。一時だけお暇を頂けませんか?」
ノイズは表情を一切変えなかったが、何処か安堵したように俺は感じた。
「ふん。昔から何も望まず、逆らわずの貴女がね。それに私の家来の中では一番成長したのもまた貴女」
ノイズは続ける。
「いいわ。でもすぐに戻ってきなさいよね。貴女がいないと、誰が妾の身の回りの世話をするのよ!」
うわ、ツンデレが発動したぞ。魔女っ子幼女のツンデレの威力ぱねぇ。
「ありがとうございますノイズ様」
ククは、可愛らしくペコっと頭を下げた。
まぁ、確かに悪い奴じゃないのかもな。
ノイズには、ククの姉のミリーは、俺の師でもあるエスナ先生の所にいる事は言っていない。
確か、隠れて住んでるって言っていたしね。
ノイズはククを残してドラゴンに乗って古城へと帰っていった。
城の中からジラが戻って来る。どうやら、シュガーさんが目を覚ましたようだ。
俺たちも挨拶に行こうとも思ったが、家族の時間を邪魔しちゃ悪いので後日伺う事にして、王宮を去った。勿論、ククと一緒だ。
足早に宿屋へと向かう。
リンが俺のお使いから戻って来た。相変わらずリンは、何をするにも早いな。
リンには、プラーク王国までの空艦の搭乗チケットを2枚分買って来てもらっていたのだ。
勿論、道案内約の俺とククの分だ。
ユイたちに連れて行ってとせがまれたが、場所が場所なだけに今回は留守番してもらう事になった。申し訳ないので何かお土産を持って帰るから許して欲しい。ちなみに出発は明日の朝だ。
ククは気にしていなかったが、流石にいつものように全員同じ部屋にする訳にはいかないので、別にもう一部屋借りる事になったのだが、ククを気遣って二部屋にしたと言うのに、部屋メンバー決めは、結局くじ引きになっていた。
当然俺には、引く権利はない。ま、ククも楽しそうなので、良しとしておこう。
特に何のイベントも発生する事なく、朝を迎えていた。何事も起きないのは、いい事だ。
「じゃ、みんな悪いけど留守番を頼むよ」
「はい、行ってらっしゃい!」
ククと一緒に飛行場へと向かう。
まさかこんなに早く二度目のフライトが出来るとは思っていなかったな。
空艦乗り場にて改めて見て驚いたのだが、プラーク王国までの往復チケットの値段が銀貨10枚だった。銀貨10枚と言えば、一般的な宿屋だったら20日間は泊まれる。どうやら、余程裕福な人しか乗れない乗り物らしい。
「ククは、空艦に乗った事はあるかい?」
「ありますよ。ノイズ様と一緒に何回かですけど」
ククはともかく、あの魔女は堂々と公の場に出て来ても平気なのだろうか⋯。
「勿論、ノイズ様は変装してますけどね」
「な、なるほど」
だろうね。じゃないとパニックになってしまうだろう。
俺たちは空艦へと乗り込み個室へと移動する。
しまった!
何も考えていなかった。個室に2人っきりは流石にマズい。
「あ、俺は外にいるから、何かあったら呼んでくれ」
そう言い、出て行こうした俺の腕をククは掴んだ。
「別に気にしないですから、ここに居て下さい」
今思えばククは、恐らく10歳そこそこのまだ子供だ。異性として気にする俺の方がどうかしている。
ククが年齢とは不相応に大人びていて、受け答えや言葉遣いもしっかりしているので、ついつい勘違いしてしまった。
それもこれも、こっちの世界では、外見年齢から年齢を判断するという事が出来ないのも要因の一つとなっている。ククよりも外見年齢の若い、ノイズに至っては、人族の身でありながら、齢100歳を超えている。今更ながら恐ろしい世界だと改めて実感していた。
空艦が浮上し、見る見るうちに王国が小さくなっていく。目的地であるプラーク王国までは、4日の距離だった。1年近く旅をして来たのに、最初の地点までたったの4日とは、何だか物悲しくなってしまう。
ミリーやエスナ先生は、元気にしているだろうか。
まさか、こんな形であの場所に帰ってくるとは思っても見なかった。それにしても空艦に乗ってから、ククが大人しい。一切声を発しようとしない。ボーッと何かを考えているようだ。
「クク?」
あれ、反応がないな。聞こえなかったのだろうか。
「クク?」
「は、はい! 何ですか?」
「あ、いや、ボーッとしてたから、何か考え事かい?」
「はい、久し振りの再会なので、何を喋ればいいのか、思い付かなくて⋯」
なるほど。気持ちは分からなくもない。死んだと思い込んでいた姉が生きていたのだ。
「無理に今考える必要はないさ。その時が来れば、自然と思い浮かんでくるはずだよ」
「はい⋯」
人生経験の乏しい俺には、この程度の事しか言えない。明確なアドバイスが出来なくてごめんな。
せめてこの空の旅の4日間、なるべくククが楽しく過ごせるよう最大限努力した。人間1人でいると弱気になったり、不安な気持ちになったりする。極力一緒に居るようにし、時には俺の悩みを聞いてもらい、ククの気を紛らわせるようにした。
そんなこんなであっという間に4日間が過ぎてしまった。ククとは、かなり仲良く慣れた気がする。
今も、空艦から降りるのに手を引っ張られている。基本年齢とは不釣合いな大人びた感じが前面に出ているククだが、時々あどけない仕草を見せてくれるので、それを見るたびにホッと一人和んでいた。
「ユウ、早く行こう!」
「おう」
久し振りのプラーク王国に降り立った。久し振りと言っても1年足らずなので、街中の雰囲気は特に変化は見受けられない。知り合いに挨拶したいのは山々だが、今はククの案件の方が先決だし、それは仲間と一緒に訪れた時にしよう。
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