第74話: 刺客達との激昂
ガゼッタ王国の王妃であるシュガーさんにかけられてしまった永眠の呪いを解く為、絶界の魔女の棲む廃墟された古城を訪れていた。
あっちから呼んでおいて絶界の魔女に会う為には、条件を提示してきやがった。
腹立たしさこの上ないが、文句は直接会って言う事にする。
その条件とは、古城内に放たれた4人の刺客を倒すというものだった。
何処かで聞いたようなシュチュエーションだが、倒せと言われたら倒してやるよ。あー倒してやるとも。
俺には優秀な仲間達がいる!
さぁ、何処からでもかかって来いや!
優秀な仲間達が相手だ!
リン、クロの活躍により、既に2人の刺客を倒す事に成功していた。
「どうやら、各階層毎に1人の刺客がいるようだね」
「ご主人様、残りの刺客も、かなりの手練れと推測します」
「ああ、手は抜けない。絶対に油断するなよ」
「お兄ちゃん!次は、私がやるからね!」
「相手を見てからな」
2階にはこれといって何も無かった為、3階へと進んで行く。
階段を上がって早々、宙に浮いた水晶球の上に座っている妙齢の女性が視界に入ってきた。
何とも余裕そうな表情をしている。
どうやら、あれが3人目の刺客みたいだね。
魔女の姿をしている事から、一瞬彼女が絶界の魔女かと思ったが、違ったようだ。
絶界の魔女の本名を知っている訳では無かったが、
「どうやら相手は魔女のようですね、ユイちゃん、悪いですけど先に行かせて貰いますよ」
ジラは、ユイの肩をポンポンと軽くタップして刺客の前へと歩いて行く。
「あら、貴女が私の相手かしら?」
「ええ、そうよ。私では不足?」
爆炎の魔女見習いは、ジラを睨みつけている。
「どうやら貴女も魔術師のようね。まあ、いいわ、格の違いというものをみせてあげるわ」
ジラがこちらを振り返った。
「マスター。少々本気を出したいので、許可を頂けますか?」
ヤバい何か怖いぞ。
表情は笑顔なのだが、何処か怖い。
「き、許可する・・」
取り敢えず、顔色を変えずに堂々と?返事をしておく。
すぐに二人の勝負が始まった。
爆炎の魔女見習いは、先手必勝で巨大な火の球をジラに向かい落としてきた。しかも何発もだ。
着弾時の衝撃と爆風がジラだけではなく、観戦していた俺達をも襲った。
衝撃が届く前に障壁を展開し、遣り過す。
「あら?少し強くやりすぎちゃったかしら?」
爆炎の魔女見習いは、勝ち誇った気になっているようだ。
モクモクと立ち込める煙で、ジラの様子が伺えないのだろう。
勿論、俺は見えているんだけどね。
「この程度の熱気じゃ、濡れた髪も乾かせないわね」
「なっ!?」
ジラが
ジラの平然とした姿を見た爆炎の魔女見習いは、余裕を見せていた表情から一転し、顔を赤くし、怒りの形相をしていた。
「私がお手本を見せてあげる」
ジラが杖をかざし、フレアを使用した。
その火球の大きさは、先程爆炎の魔女見習いが使用した火球の3倍くらいはあるだろう。
もはや、巨大というか、部屋の天井に到達しそうなサイズだった。
「ちょ、ちょっと・・そんなサイズ反則じゃない?」
ジラは火球をチラつかせながら、ゆっくりと相手に近付いていく。
まるで、相手を脅すように不敵な笑みを浮かべている。
ジラさん、怖いです・・
「ひ、ひぃ・・止め・・」
爆炎の魔女見習いは、水晶から飛び降り抵抗とばかりに
かなりの速度で連射している。
威力も中々のものだ。
魔術を使用する度に水晶から光が爆炎の魔女見習いに向かい伸びている。
恐らく、水晶には魔力が込められており、無尽蔵かどうかは分からないが補給しているのだろう。
しかし、いくら連射してもジラは
「なんで効かないのよ!」
ジラと相手との距離は5mもなかった。
相手は、フレアから伝わる熱に気圧されている。
「あつっ、ちょっと!こっちへ来ないでよっ!熱いでしょ!」
一応あんた爆炎の魔女見習いなんだろ・・・熱耐性くらい真っ先に取るだろ普通。師匠の顔が見てみたいな。
「さてと、そろそろ飽きたから、終わりにしましょうか」
ここからだと良く見えないが、爆炎の魔女見習いの顔がどんどん引き攣っていっている気がする。
ジラが直径5m程に膨れ上がったフレアを相手に向かい投げ放つ。
「や、やめ・・」
微かに聞こえたその声を最後に、爆炎の魔女は口から泡を吹いて気絶してしまった。
放たれたはずのフレアも一瞬のうちに消えていた。
どうやら、幻影の類だったようだ。
してやったりという顔でジラはこちらへと戻って来た。
取り敢えず、ハイタッチしておく。
爆炎の魔女見習いの哀れな姿が目に映る。
「ジラ、少しやり過ぎじゃないか・・」
「そうですか?」
やっぱりジラを怒らすのは、危険だな・・
ともあれ、これで3人の刺客を倒した事になる。
残りは1人だ。
隣を歩いていたユイが次は絶対私がやる!と物凄い闘志をみなぎらせていた。
4階へ上がる階段を見つけ、俺達が階段の前へ移動した時だった。
「まさか3人があっさり倒されるとはね」
何処からともなく声が聞こえてくる。
その声は、この城の中に入った時に聞こえてきた声と同じ、絶界の魔女本人だった。
「でも、最後の1人は、すんごく強いよ?」
なんだか子供っぽい発言に聞こえるが、気にせず進む。
4階は、一部屋しかないようだ。
上がったすぐ先に大扉があったが、既に開かれており、その中に人影が見える。
次第にその姿が露わになる。
頭の上に生えた青く凛々しい耳。フサフサの尻尾が軽快に動いている。
俺は
名前「クク・セイユーン」
レベル68
種族:獣人族(
職種:盗賊
スキル:????
驚いたのは、スキルが閲覧出来なかった事ではない。
レベルは確かに高いが、ジラ程ではない。
ユイには、少し厳しいかもしれないが、今はそんな事はどうでもいい。
俺には見覚えのある名前だった。
クク・セイユーン。
俺が初めてこの世界に降り立った時に初めて出会った
彼女の名前は、ミリー・セイユーン。
ある時ミリーに聞いた話がある。
自分には、生き別れになった妹がいると・・
確か、歳はミリーの3つ下で、名前はククと言うそうだ。
同じ
姿も何処となく似ている気がしないでもない。
果たしてありえるのだろうか?
ミリーの生き別れた妹である可能性は高い。
俺が動きを止めて、物思いに耽っていた為、ユイが心配して下から顔を覗き込んできた。
「お兄ちゃん?」
「あ、ああ悪い。ちょっと考え事をね」
全員で部屋の中に入った。
「ユイ、気を付けろよ。相手はユイよりレベルが10は上だぞ」
「ふふーん、相手に取って不足はないよ!」
何やらカッコイイ事を言っている。
と言うのも、時々ふざけて俺のいた世界で使われている言葉を皆に教えている。
「へ~私の相手は、あなた?」
「そうだよ!」
「ふ~ん。まあ、楽しい勝負にしようね」
「うん!」
はたから見ると、子供同士の勝負にしか見えないだろうが、この二人の前では普通の大人では全く相手にすらならないだろう。
「じゃあね、この石が地面に落ちたら開始ね」
ユイが頷く。
ククが石を振り上げ、やがて地面へと落ちた。
落ちたのを見計らって先に動きを仕掛けたのはユイだった。
電光石火の如く真っ直ぐにククの元へと突進したユイだったが、急にその足が止まっていた。
ククが居ないのだ。
ユイが周りをキョロキョロと探している。
ユイは種族の特性もあり察知能力に凄く優れている。
気配を頼りに相手を探しているようだ。
「そこっ!」
ユイ得意の短剣の投擲だ。
キンッ!と高い音が鳴り響く。
ユイの投擲した短剣をククが弾いた音だった。
「私の隠を見破るなんて、やるじゃん!」
姿を見せたククに一瞬にして詰め寄るユイ。
ユイが二刀短剣で連撃を浴びせる。
対するククは、短剣と盾を持つスタイルだ。
華麗にユイの攻撃を盾でいなしている。
ユイも負けじとスキルを使い、重い攻撃を繰り出していた。
ここまでの戦況を見ていると、若干ククの方が余裕がありそうだ。
「予想より早いね」
ここへ来て防御一択だったククが攻撃に転じてきた。
速さこそは、ユイの方が上だが、盾を上手く使い、ユイの短剣を弾いた隙間を狙い攻撃を繰り出していく。
ククが繰り出したスキルでユイは後方へと飛ばされ、壁に激突する。
しかし、上手く受け身をとり、すぐに戦闘に復帰する。
その時一瞬見えたユイの表情は、笑顔だった。
クロもそうだったが、2人は本当にバトルが好きなようだ。
俺には、あんまし理解は出来ないんだけどね。
出来ることならば戦いたくない気持ちは今でも変わらない。
対するククの表情も緩んでいた。
当初こそは、ククは喋る余裕を見せていたが、今は真剣に勝負をしているように見える。
余裕がなくなった訳ではなさそうだが、なんと言うか楽しんでいる感じにさえ見える。
2人が出し惜しみもなく、奥義級の派手なスキルを使用する。
斬撃の余波が、観戦しているこっちまで及んで来る為、常時障壁を展開していないと、ダメージを負いかねない。
爆音と共に地面には大穴が空き、壁には剣撃の跡が走り、外の光が差し込んでいた。
ユイが、圧倒的な手数でククを追い込んでいる。
しかし、ことごとく盾に阻まれてククには届かない。
その時だった。
ククの盾からミシッと言う鈍い音がしたのをユイは聞き逃さなかった。
「無双連撃!」
ユイの最も威力のあるスキルだった。
最終放たれた連撃の数は24にも昇る。
その高速で放たれる剣撃全てを受け切ったククも見事だ。
そうして最後の一撃を盾が受け切ったその時・・・
パキンッ
何かが砕け散る音が聞こえた。
ククの盾だ。
ユイは、これを狙っていたのだろう。
しかし、最後の一撃を放った瞬間、ユイは全ての力を使い果たしたのかククに向かってそのまま倒れ込んだ。
ククは、砕け散って盾を手放して空いている左手で、倒れ込むユイを受け止める。
一瞬俺はヒヤッとしたが、それ以上ククが何もしないと直ぐに分かり、互いの名勝負に拍手で応えた。
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