第73話: 絶界の魔女
王妃であるシュガーさんの呪いを解く為にシャロンさんと共に、絶界の魔女が示した場所へと急ぎ馬車を走らせていた。
貰った地図の尺度が今一分からないが、通常の馬車で6日の距離なので、グリムのスピードならば、恐らく半分の3日程度だろう。
「ユウさん、今回の件、巻き込んでしまい本当に申し訳ありません。でもユウさん以外、他に頼る人がいなくて⋯」
「気にしないで下さい。困った時はお互い様です。俺達に出来る事ならば、最大限協力しますよ」
とは言っても、相手が魔女であり俺よりもレベルが高い可能性がある。今回に限っては全く余裕が無いのも事実だった。最悪戦闘になった場合を想定して、幾つかの作戦を考えていた。
皆のコンディションを整える為、食事、睡眠にまで気を遣う。
夜中の見張りも、全て俺が行っている。勿論、その代償として日中に仮眠をとるようにしている。
ここまで徹底するのには理由がある。それは、本当に強者が相手の場合、俺一人では到底相手に出来ないのは言うまでもない。必然的にその時は皆に頼る事になる。ならば、皆が最大限の力が発揮出来るようにしなければならない。
仲間達にはベストコンディションでいて欲しい。俺にはチート性能があるので多少の無茶は効く。
全てが最悪の状況を考えての行動だった。
ガゼッタ王国を出発してから早3日が経過していた。
そして当初の予定通り、絶界の魔女が指し示した目的地へと到着した。
眼前には古めかしい廃城がポツリと聳え立っている。
周りにその他の建造物はない。明らかにあの城だけが浮いてしまっている。まるで、城毎何処かから転移してきたかのようだ。
遠くから見ている分には気が付かなかったが、近付くと、かなりの大きさがあった。魔女というよりもお化けでも住んでいそうな雰囲気を醸し出している。お化け屋敷と言っても過言ではない。なんとも不気味だ。
「ここであってるよな?」
「ええ、恐らく」
リンが地図を見ながら再確認してくれた。
そのまま敷地内に入ると、正面に閉まっている大扉が確認できる。
恐らく正面入り口で間違いないだろう。
扉の前まで進むと、それを見計らったかのように5メートルを超える大扉がひとりでに開いたのだ。
人感センサーでもついているなら驚きだが、そういう魔術が施されているのだろう。
恐る恐る中を確認するが、開かれた先には誰もいない。勿論近くには
グリムは流石に連れて行けない為、馬車と一緒に扉前に待機させておく。
「グリム、すぐに戻ってくるから悪いけどここで待機していてくれ」
洞察力に優れているユイが先頭で、真ん中にシャロンを挟む形で俺達は城の中へと進んでいく。
少し進むと、正面に2階へと登る階段が見える。
取り敢えず、定石に従い上層を目指そうと、階段を登ろうとした、その時だった。
いきなり、階段の前に人影が現れたのだ。
地面から生えてきたように見えたんだけど⋯
人影は、2メートルを超すであろう全身フルプレートアーマーを身に纏っている。古めかしい甲冑の為か、動く度にキシキシと鈍い音を立てていた。
皆が武器を持ち、臨戦態勢に入っていた。
すると何処からともなく若い女性の声が辺りに響き渡る。
「よくぞ参ったな。シャロン王女よ。そして、
はい?
勇者と呼ばれた事にも驚いたけど、本質はそこじゃない。
何故、俺の名前がバレてるんだ?
これは、マジで気を引き締めて掛からないと危ない。
「歓迎の意を込めて、この城内に4人の刺客を放っている。全てを倒して私の元に辿り着いて見せるがいい」
そっちから呼んでおいて、この待遇はないだろう。
「取り敢えず、この城内の何処かにいる4人の刺客を倒さなければ、魔女まで辿り着かないってことか。ならば、言われるまでもない。倒すまでだ」
「ご主人様、目の前の相手は身なりからして騎士のようです。私に相手をさせて下さい」
「分かった。無理はするなよ。あと、油断は禁物だからな」
というのも俺の
推測するに、恐らく生物じゃない。人形とか
リンは強い。だから心配はしていない。だけど、何が起こるか分からないから油断は禁物だ。
リンは長刀を抜刀し、相手に向けて構えを取った。
少しの間両者に沈黙が流れる。
どうやら相手の出方を伺っているようだ。
先に仕掛けたのはリンだ。
「行きます!」
動いたと把握した時には既に相手の目の前に移動していた。
リンがスキル《縮地》を発動したのだ。
その勢いを殺さぬまま、長刀を甲冑目掛けて薙ぎ払う。
互いがぶつかり合い甲高い音が辺りに鳴り響く。
なんと、俊速のリンの一撃を相手は剣で防いだのだ。
皆が予期していなかった展開に、俺を始め皆が目を見開いた。
リンは躊躇する事なく、2撃、3撃と高速の斬撃を繰り出す。
しかし、その全てを相手は防いでいる。
やはり、相手も相応の強さらしい。
リンは速さで相手を翻弄し、様々な角度から無数の剣撃、数歩離れて斬撃を放っていく。
「驚きましたね。リンさんの攻撃についていけるなんて⋯」
ジラは以前リンと真剣勝負した事があり、リンの実力を知っているが故の発言なのだろう。リンもさすがに相手にただの一太刀すら浴びせられないとは思っていなかったのか、その表情は険しかった。
それにしても、相手は防ぐ一方で全く動く気配がない。それどころか、その場を一歩足りとも動いていなかった。
リンもその様を不思議に思い、地面に強力な斬撃を放ち、絶対動かなければならない状況を作り出した。
しかし、甲冑の騎士は、受け止める姿勢を取るだけで相変わらず動く素振りがない。
結果、地面を甲冑の騎士諸共削り取った。
斬撃の余波で、甲冑が無残にも粉砕される。
しかし、甲冑の中に人影は見えなかった。
予想通りみたいだね。
他の皆は、中身がない事に驚いていた。
どういった訳かいまいち不明だが、防御に特化した人形だったのだろう。
守ってるだけじゃ、勝つ事は出来ない。
しかし、相手に攻撃が通じず諦めて負けを認める何て事もあるのかもしれない。
どちらにしても、リンの勝ちだ。
刺客の1人を倒すのに成功した。
「反撃してこなかったのが不気味でした。実力は相当高かったので、反撃してきていたら、こうは簡単にいかなかったでしょう」
「さすがリンだな」
戻ってきたリンとハイタッチをしておく。
勿論そんな文化、こっちの世界にはないのだが、仲間内には俺が仕込んでおいた。こういう儀式みたいなのって大事だと思うんだよね。
こんな手強い奴らが後3人もいるのかと思うとゾッとする。
階段を守護していた刺客を排除したので、俺達は2階へと上がる。
それにしても、城内はどこも廃墟となってから何十年も放置されていたような有様で、
荒廃が進み、壁なんかも腐食が目立ち、少し押しただけで崩れそうになっている。
とても人が住んでいるとは思えない。
周りの景色を確認しながら慎重に進んでいると
「中に誰かいるみたいだな。いいか、開けるぞ?」
俺がドアを開け、中を確認した。
かなり広い部屋だった。不思議と中はキレイに片付けられており、外とはまた違った雰囲気を醸し出していた。
奥に正座して座っている人物が見える。
こっちの世界で正座している人を見たのは実は初めてだったりする。
「来たか⋯」
正座していた人物は、そう呟くと立ち上がった。
よく見ると、何処となく忍者のような出で立ちをしている気がする。
「
一瞬笑いそうになったのをグッとこらえる。
まさか、吾輩と来るとは思っていなかった。見た目とのギャップに笑いそうになってしまった。俺の脳内で吾輩忍者と命名しておく。
右手に何か感じると思ったら、クロが俺の袖をクイクイと引っ張っていた。
「次、私」
「分かった。だけど、無理したらダメだからな。危ないと思ったらすぐに下がるんだぞ」
クロはコクリと頷き、自身の鉤爪を構えて前へと出る。
「嬢ちゃんが吾輩の相手か。悪いが吾輩は相手が誰で、うぬのような
クロが先手必勝で吾輩忍者へと攻撃を繰り出した。相手の言動など無視と言わんばかりに。
しかし、吾輩忍者もギリギリでクロの攻撃を受け止めていた。
「容赦のない一撃。まだ話の途中だと言うのに、せっかちな小童だ」
「何を喋っているのか分からないから」
どうやらクロには吾輩忍者の独特な口調はハードルが高いらしい。
吾輩忍者の武器は二刀短剣だった。先程から互いが技を繰り出し、ぶつけ合っていた。
「やるな、小童!」
互いに実力は拮抗しているようだ。好敵手相手に、クロもどこか楽しそうにしている気がする。クロは基本無表情だからね。顔色だけじゃ判断出来ないので、あくまでも、そんな気がする。なのだ。
一瞬のクロの隙をつき、吾輩忍者が煙幕を使い、クロの視界を奪った。
「悪いな小童、決めさせてもらう!」
どうやら吾輩忍者には、煙幕の中でも視認出来る術を持っているようだ。
しかし、残念だね。
魔族であるクロに目くらましは効かないよ。
相手が見えないと思い油断していた吾輩忍者は、アッサリと後ろを取られ、両短剣をクロに弾かれた。
そしてクロが吾輩忍者に鉤爪を突き出している。
「グッ⋯吾輩の負けだ⋯」
文句無しでクロの勝ちだ。
俺は、戻ってきたクロの頭を労いも込めて撫でる。いつも以上にその犬耳をモフモフする。クロが喜ぶからしているんであって、俺が堪能したいからでは断じてない。
「よく頑張ったな」
「さすがクロだね!」
ユイも嬉しそうだった。
ともあれ、刺客の2人倒した事になる。
気が付くと吾輩忍者の姿は無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます