第62話: 大規模遠征【前編】
エレナとのデートから、3日が経過していた。
今、俺達は長蛇の列に並んでいる。
彼此1時間以上が経過していた。
「お兄ちゃん、まだ〜?」
さすがにユイの我慢も限界か。
しかし、呑気な事も言ってられない。
これから俺達は、空艦オリンポスに乗るのだ。
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時は少し遡る。
ガゼッタ王国全土に突如として、緊急警報が流れた。
「王国の者達よ。私は第12代ガゼッタ王国国王ジョセフである。今しがた入った情報によると、グリニッジ三大王国の一つである、我が王国とも信仰の深いグラン王国に数多のモンスターが押し寄せているという情報が入った。そこで、冒険者諸君、並びに腕に覚えのある者は、グラン遠征討伐の任に参加して貰いたい⋯」
モンスターは本来群れをなして襲ったりしない。
あるとすれば、誰かが先導している可能性だった。
「お兄ちゃん、困ってる人が大勢いるなら、私達で助けにいこ?」
「助ける」
「ご主人様、行きましょう」
「マスター、モンスターの群れが気になります。原因調査も必要ですね」
相談するまでも無かったようだ。
グラン王国とは空路で結ばれている。
その為、遠征討伐に参加する者は、特別に空艦オリンポスへの搭乗が許された。
と言う訳で、空艦に乗る為の長蛇の列に並んでいるのだが、整備不良があったらしく、1時間以上待たされていた。
「搭乗が再開されたようですよ」
ジラが列の先の方を指差している。
お、どうやらメンテナンスが終わったようだな。
改めて空艦を間近で見ると、凄まじい大きさだった。
昔TVで特集をしていた時に見た、かのヒンデンブルク号を見ているようだった。
こっちは、飛行船ではなく、鉄製なんだけどね。
全長もざっと見た感じ500mはあるだろうか。
搭乗が近付くにつれ、ユイがソワソワし出している。
うん、気持ちは分かるよ。
俺も人目が無ければ、はしゃいでいたかもしれない。
人の振り見て我が身を直せってね。
空艦へと乗り込んだ俺達は、個室へと案内された。
普通の個室は、2人部屋なのだが、俺達は、いや正確には俺以外は、武道大会上位入賞者という事もあり、10人は泊まれそうな大部屋へと案内された。
目的地であるグラン王国までは、2日掛かるという。
2日間は、のんびり空旅だ。
こっちの世界に来て、自分で空を飛んだ事はあったが、こうして空飛ぶ乗り物に乗るのは初めてだった。
動力は魔導具によるものらしいが、解明する事が出来れば、実用化に持って行けるかもしれない。
結局の所、浮力を産む原動力となっているのは、大量の魔力なので、後は魔力を帯びたら動く物はこの世界には五万とある為、それらを応用すれば、そんなに難しい技術ではないはずだ。
そんな感じで1人妄想を膨らましていると、いつの間にか空艦は浮上していた。
ユイが俺の袖を引っ張っている。
部屋にも小さな丸い小窓がついているが、どうせなら、広く大きく見たい。
「よし、ユイ!探検に行くか!」
どうやら俺もまだまだ子供らしい。
艦内は、まるで迷路のようだったが、ちゃんと展望デッキまでの経路が所々に明記してあった為、迷わず到着する事が出来た。
「わぁーすごぉーいー!!」
ユイが叫んでいる。
クロも目を大きく見開いていた。
あの大きかったガゼッタ王国を真上から見下ろしている。かなり高度を上げており、片手で覆えば、王国が隠れてしまった。
「確かに絶景だ」
カメラがあれば、是非とも写真に収めたいけど、そんな物はないので、心のカメラで撮影しておく。
道中の2日間、暇にならないだろうかと心配していたけど、艦内にはギャンブルの出来る娯楽施設、飲食街、販売店など、様々な施設が用意されていた。
もう一つの街と言ってもいいかもしれない。
後で聞いた話だが、ガゼッタ王国から今回グラン遠征討伐に参加した人数は、約200人だった。
この数字か多いのか少ないのかは、さて置き、皆命を賭けてこの場に赴いている。
この中の何人が生きて帰ってこれるのか。
勿論、俺だってどうなるかは分からない。
守れるものならば、全員を守りたい。
しかし、自分の実力などたかが知れている。
優先すべきは、仲間達だ。
今回に限っては、念入りに準備をした方が良いだろう。
俺には、こういう時の為に作り溜めしておいたポーションがある。
何本かをストレージから取り出し、みんなに配っておく。
「戦闘中、俺と逸れる可能性だってある。体力と魔力が減ったらこのポーションを飲むんだぞ」
みんなには、予め買っておいたポーチを手渡してある。なるべく戦闘の邪魔にならないよう、小型サイズだが、HP/MP回復ポーション(大)がそれぞれ3本ずつ入る丁度良いサイズになっていた。
現地の情報が何も分からない以上、作戦を立てようがないが、一つ言えるのは「俺から離れるな!」だ。
後は、到着してから考える事にしよう。
目的地が近付いてきた。
既にグラン領に入っている。
上空から見降ろすと、黒い塊が
その数は、1000や2000では収まらないかもしれない。
こんなに大量のモンスターを見たのは、俺を含め、皆初めてだった。
今の進軍速度と王国までの距離を考えると、王国到着まで、約2日と言った所だろう。
その後、俺達は予定通りグラン王国へと到着した。
上空から見た感じだと、国全体が強固な石垣で覆われており、ちょっとやそっとの侵攻では全く問題ないだろうと思われた。
到着するな否やすぐに大広間に全員集められる。
その場所には、各国から集まった討伐隊が既に何百人もの人達でごった返していた。
その広間の席で、今回の討伐戦の指揮官を名乗る男が壇上へと上がる。
彼は、グラン王国の騎士団団長で、この王国で3本指に入る程の屈強な戦士だった。
彼の作戦は、まずそれぞれの職種に分かれて隊を結成する。剣士隊、魔術隊、弓隊、補助隊、精霊術師隊、モンスターテイマー隊、召喚師隊の全部で7隊だ。
盗賊職や槍職などは、剣士隊に含まれた。
圧倒的に補助隊である聖職者の数が足らないようだ。各職種から1人ずつ計7人のチームとなるように班分けしていく。
抗議したが、結局ユイたちとは、別々の班にさせられてしまった。
みんなは俺と違い、武道大会の結果を買われ前線部隊へと配属されてしまう。
俺は、抗議したのが気に食わなかったのか、何故だか後方の部隊へ配属された。
まぁ、大会に参加してなかったから仕方がない。
いざとなれば、パッと抜けてみんなの元に駆けつければいいだけだ。
「いいかみんな。念押しするけどら絶対に無茶はしないこと。油断や慢心もダメだからな」
「大丈夫だよ。お兄ちゃんも気を付けてね」
今から、それぞれ別行動となる。
どうやらこの王国で、敵を迎え撃つ訳ではないらしい。
此処から20km程進んだ先に小高い丘があるので、その丘の上から狙い撃ちするという。
最終的に集まった討伐隊の総数は約2000人となった。
これだけ大規模な討伐は俺も初めてだった。
人に酔いそうなどと弱音を吐いている場合じゃないな。
「全軍進軍開始っ!!」
拡声魔術によって超絶ボリュームとなった指揮官の声が響き渡る。
これだけの大部隊の移動だった為、朝一に出発したにも関わらず、小高い丘に到着した時には既に夜になっていた。
先行している偵察部隊の情報だと、このままのペースで進軍された場合、夜が明ける明日の朝に遭遇するそうだ。
俺達の討伐隊は、陣形を整え、短い仮眠を取った。
何故だか寝付けなかった。
明日は、大規模なモンスター戦だというのに良く皆呑気に寝られるよな。
そんな時だった。
何かの胸騒ぎを感じ取った。
(セリア、ノア!何か感じないか?)
(何も感じませんよ?)
(私も別にー)
そうか、気のせいならいいんだけど。
モンスターとの遭遇までまだ5時間以上はあるはずだ。
いや、違う⋯上だ!
今俺達は、高台にいるという優越感から、下は見てもまさか上から来るなんて思わない。
しかも今は、真っ暗だ。
俺は暗視と遠視の能力があるので見えるが、他の者にはまず見えないだろう。
透明化で姿を隠し、部隊から少し離れ、人目に付かない場所まで移動した。
ざっと確認出来るだけで、数は凡そ50弱。
レベルは、30前後か。
ワイバーンにスカイフィッシュにメギドトという見た目エイのようなモンスターの集団だった。
いわゆる敵側の空挺部隊だろう。
暗闇に紛れての奇襲だろうけど、悪いけど排除させてもらう。
奴らの正面まで高度を上げた所で、
その状態で
俺とのレベル差もあった為、モンスター達は、跡形もなく消え去った。
その時だった。
ユイから連絡が来る。
(今のって、お兄ちゃん?)
ユイは気が付いたらしい。
流石だな。一応、下からは見えにくいように煙幕を張ったんだけどね。
(上空から近付いてくる反応があったからね、駆除しといたよ)
(さすがお兄ちゃん!こっちも不穏な気配を感じてたんだ。まさかお空の上だとは思わなかったけどね)
(上は片付いたから、ユイももう寝るんだ。明日に備えて万全の状態にしておくんだぞ)
その後、こっそりと自分の部隊まで戻った。
夜が明ける少し前、モンスターとの接触2時間前には、全員戦闘態勢に入っていた。
昨夜の俺の奇襲迎撃に何人かは気付いていたようだ。
気付いたと言っても、雷が数本走った程度だとか。
不吉な前兆かもしれないと片付けられてしまったようだ。
少し侵害だな。
さて、何処からでも来るがいい。
前線部隊のユイ達が、全て蹴散らしてくれる!
もしかしたら、後方部隊まで回らないかもしれない。
この時の俺は、この後起こる悲惨な出来事など知る由も無かった。
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