第40話: 救出作戦
行商の街スーランに昨日の夜に到着した俺達は、道中で保護した2人の少女の親を見つけるべく朝一から、観光兼ねて街内を散策していた。
名前は、赤髪の少女がリーシャで茶髪の少女がシルと言う。
リーシャが17歳でシルが16歳だそうだ。
どちらも商人を親に持ち、生まれてから今まで街を転々としてきたそうだ。
今もこの街に住んでいるならば、家の場所まで行けばすぐに親に会えると思っていたのだが、話はそんなに単純ではなかった。
この街で住居を構えている人は全体の半分位なのだ。
残りの半分の人は、馬車の中で生活している。
しかし、馬車と言っても侮れない。
元の世界で言う、キャンピングカーのように住むにあたって何不自由ない環境が整えられているのだ。
馬車と言うだけあり、もちろん移動式なので、同じ場所に停滞せずに街の中を転々と移動している。
とは言っても、そんなに広い街ではないので、すぐに見つかるだろう。彼女達の両親がまだこの街にいればの話だが。。
と言うのも、彼女達が攫われたのは、なんと3ヶ月も前だった。
取り敢えず、記憶にある中のそれぞれが馬車を停泊していた場所に行っては見たものの、案の定どちらもその場所に探している馬車は見当たらなかった。
近くにいる人に聞き込みを入れるが、誰も彼女達を知る者はいなかった。
困ったな。
まだこの街にいるとも限らないが、大切な我が子が急に居なくなれば、普通だったら血眼になって探し回るだろう。
諦めずに聞き込みをしていると、ようやくリーシャの親を知っているという人物に出会う事が出来た。
彼もまた同じ商人仲間らしいのだが、彼が言うには1ヶ月前からパッタリと姿を見なくなったと言う。
娘が誘拐されたと知った時は、何日も何日も辺りを聞きまわったり、護衛を雇い周辺の調査もしていたそうだ。
その話を聞いてい最中に突如リーシャが泣き出してしまった。
恐らく、親の行動を思っての嬉し泣きだと思うが、慰めているシルも貰い泣きしている。
その後の聞き取り調査をしていて、幾つか分かった内容がある。
リーシャの親もシルの親も、ここ1ヶ月は誰も姿を見ていない。
直接盗賊の元へ娘を探しに行ったらしいのだ。
2人の両親は一緒に行動していたそうだ。
また、馬車自体は預け屋という所に1ヶ月の契約で預けていた事までは確認が出来ている。
1ヶ月の期日と言うのが明日までなのだが、状況から判断するに恐らく、娘達が盗賊に攫われた情報を掴んだ両親達は、盗賊を説得する為か、どちらにしても娘を取り戻す為に自ら盗賊の元へ向かった可能性が高い。
しかし、リーシャ達は投獄されていた盗賊団のアジトで両親を目撃していないと言うので、辿り着けていないか、もしくは別の盗賊団のアジトへ向かってしまった可能性がある。
調査中に、この辺りには複数の盗賊団のアジトが存在している事が分かったので、仮に間違えたとしても頷ける。
だが、困ったな⋯
街の外にいる場合、しらみ潰しに探すとしても見つかる可能性は限りなくゼロに近い。
せめて、両親が向かった方向だけでも分かれば、まだ探す手立てはあるんだけどな。
その時だった。
ノアが俺の中から出てくる。
イキナリだったので、危うく声を出しかけたが、グッとこらえる。
いつも思うが、何の前触れもなく出てくるのは、心臓に悪いんだけど。
「両親の手掛かりとなる物があれば、私の能力で探せると思うよ」
!?
「え、本当に?」
リーシャ達には見えていない為、俺は小声で会話を続ける。
「うん。私は地の精霊だから、この地上にある物なら、探せるのだよ!どう?見直した?」
なぜか、ドヤ顔をかましてくる。
しかしナイスだぞノア。
おれは、頭を撫でる。
(ノアだけずるい⋯)
念話で何か聞こえた気がしたが、今はスルーしておく。
「探す手段が見つかったよ」
「本当ですか!」
「本当?」
リーシャとシルが飛び上がって喜んでいる。
まず預け屋で両親の手掛かりになる物をなんでも良いので2人に選んで貰った。
「大丈夫。これで探せれると思うよ」
2人は危険なので留守番して貰うつもりだったのだが、絶対に着いて行くと聞かなかった。
俺はユイとクロに2人を最優先で守るように指示をし、先を進む事にした。
なぜ徒歩で移動しているのかと言うと、ノアが近いと言ったからなのだが、歩き始めて既に3時間以上が経過している。
俺達は全然平気なのだが、リーシャ達は流石に疲れている様子だ。
「ノア、まだなのか」
「んー。このペースで後1日くらいかな?」
「1日だって!?」
2人が驚いている。
それは恐らく距離ではなく、声にだと思う。
しまったな、ついつい大声を出してしまった。
いつものように走れば数時間なのだが、どうしたものか。
もしかしたら、両親も助けを待っている可能性だってある。
仕方がない。
「リーシャ、シル、悪いが先を急ぎたい。担いで移動したいけどいいか?」
リーシャとシルは驚いた顔をしていたが、少し頬を赤らめて、お姫様抱っこならばと了承してくれた。
お姫様抱っこの方が恥ずかしいんじゃないだろうかと俺は思うのだが、女心と言うのは分からない。
「シルはユイ頼めるか?」
「任してー」
その後は速かった。
2時間程度で、ノアが指し示した盗賊団のアジトに到着した。
この間制圧した盗賊団のアジトとは、比べ物にならない位大きかった。
「ノア、2人の両親は無事なんだよな」
「状態までは不明だけど、生命反応はあるよ」
勿論2人に聞こえないようにノアと確認した。
レベル帯も20〜40と、かなり高い。
「本当に盗賊団なのか⋯?」
俺が不安そうな表情をしていた為か、心配されてしまった。
「お兄ちゃん、どうかしたの?」
皆が、不安がって俺を見る。
「大丈夫だ。だけど、数が多いからな。慎重にやるぞ」
モンスターなら何の躊躇もなく行動出来るのだが、人族相手となるとなんとも面倒だ。
俺が思考を巡らせていると、セリアが「私にやらせて下さい」と言ってきた。
「ユウさん、私なら何のリスクもなく敵を無力化出来ます」
「だめだ。擬人化しているときのセリアは無防備なんだ。セリアにもしもの事があれば、俺は自分を攻める事になる。それに相手は盗賊だ。セリアが声を発する前に襲ってくる可能性だってあるんだぞ」
「確かに擬人化状態の私は攻撃されたらひとたまりもありません。けれども私もユウさん達の役に立ちたいのです」
俺にはセリアがこんな事を言い出す理由はなんとなく想像はついていた。
「やっぱりだめだ。気持ちは嬉しいけど、危険すぎる。セリアは自覚した方がいいよ。セリアは美人なんだ。男だったら誰だって放っておかない。ましてや盗賊のような無法者なら尚更だ」
セリアがゆっくりと至近距離まで近付いてくる。
俺の額に自分の額を合わせている。
そして俺だけに聞こえる声で囁くように話しかけてきた。
「やっぱりユウさんは優しいですね。私はユウさんのそういう所が好きですよ」
そしてゆっくりと額を離して、俺の目を見る。
「ありがとうございます。ユウさんのそのお気持ちだけで私は頑張れますから、大丈夫です。でも、もしもの時はすぐに助けてくれますよね?」
どうやらセリアの決意は固いようだ。
結局セリアに言い負けてしまった。
俺は念のためにユイに持たせていたブリックリングをセリアに渡しておく。
このリングは、一度だけ装備者の致命的な攻撃を身代わりに受けてくれるのだ。
俺とユイは透明化状態で、セリアのすぐ隣にスタンバイする。
作戦はこうだ。
まず、セリアにアジトの入り口にいる見張りを騙し、アジトの中からなるべく大勢を外へと連れ出す。
ある程度アジトから離れた場所まで誘い出した所で催眠を発動してもらうのだ。
何度か話すうちに、セリアは催眠術を自由自在に使いこなせるようになっていたのだ。
眠らせてからは、こっちの出番。
すぐにセリアには、精霊の姿に戻るように言ってある。
リーシャとシルは、木陰でクロと一緒に隠れてもらう算段だ。
さて、行動開始といこう。
セリアが擬人化モードになる。
久しぶりに見たけど、やはり超絶美人だな。薄っすらと後光すら見える気がする。
さて、油断せずに行こう。
ゆっくりとアジトの入り口へと近付いて行く。
門番の2人が、こちらに気が付いたようだ。
こちらを警戒している。
「すみません。私は商人をしているのですが、この近くで、私の馬車が穴にはまってしまいまして、身動きが取れなくなってしまいました。もし宜しかったら、お助け頂けないかと思いまして」
門番は、舐めるように下から上へとセリアに視線を向けていた。
「助けてやってもいいが、タダって訳にはいかねぇなぁ」
もう1人も下卑た笑いをしている。
「はい、もちろん、助けて頂いたらお礼として、馬車の中の品を何でも一つお持ち下さい」
門番は2人で相談し合っている。
「ちなみに馬車は全長10m程の大型ですので、たくさんの方のご協力が必要です」
その言葉を聞き、門番の1人がアジトの中へと入っていく。
中で何やら話し声が聞こえる。
俺の聞き耳スキルが発動した。
「お頭!今、入り口に上玉の女が来てますぜ」
「ああ?こんな所に、誰かの知り合いか?」
「いやそれがですね⋯」
門番は、セリアの言ったことをそのまま伝えていた。
「女はまだ襲うなよ。馬車まで案内させてからだ。そうだな、団員ナンバー20〜30の野郎共、行って来い。それと、女はもう一度ここへ連れて来い。抵抗したら腹に一発入れとけ。残った俺達で持て成しの準備をしておくからよ」
何とも聞くに耐えない内容だ。殺意すら芽生えてきそうだ。
俺はセリアに人数を告げた。
こいつら、団員ナンバーとかつけてるのね。
すぐに11人が出て来た。
最初に話し掛けた門番を担当している人物が、馬車まで案内するように告げた。
セリアは後ろを振り向き、岩陰まで盗賊共を連れて行く。
5分位歩いただろうか、盗賊達が騒ぎ立ってきたので、この辺りで行動を開始する事にしよう。
俺はセリアに合図として、肩にタップする。
「そういえば、皆さんに質問があります。私は二組の商人の夫婦を探しているのですが、ご存知の方はいらっしゃいますか?」
もちろん、催眠術をかけた言動だった。
いつも通り、質問に答える間もなくバタバタと倒れて行く。
相変わらず、すごい効力だな。
俺は慣れた手付きで催眠で眠ってしまった盗賊共を縛っていく。
「さて、残りもサクッとやってしまおう」
アジトまで戻り、芝居を継続する。
門番に、人数が足らないので、追加で増援の依頼をしたのだ。
さすがにバレることも考慮していたのだが、セリアの女優ばりの演技が良かったのか、不審がられる事なくついてきた。
そして、眠らせて、同様に縛っておく。
これで残りは、5人のはずだった。
アジトへ戻ると入り口に10人立っているじゃないか。
リーダー格と思われる男も一緒だ。
さすがにバレタようだ。
しかし、
「お前は何者だ」
セリアに向けて、単刀直入に質問してくる。
バレたからには、もう隠れる意味もないだろう。
俺とユイは姿を現した。
このまま隠れてやってしまっても良かったけど、聞きたいこともあったしね。
突然現れた俺達の姿を見て盗賊達が驚いていた。
「商人の夫婦を探している。知ってたら教えてくれ。そうすれば命までは取るつもりはない」
少し脅してみる。
返答する気はないようで、10人の内7人がこちらに向かって突進してくる。
セリアをすぐに俺の中に避難させ、盗賊の相手は、全てユイに任した。
ユイの強さにリーダー格の男が驚いている。
そして何やら呟いている。
「用心棒のアンタの出番だぜ」
用心棒だと?
アジトの中から1人の人物が出てきた。
全身を鎧で固めており、性別は不明だ。
名前:リン・シャーロット
レベル:52
職種:剣士
スキル:地雷撃Lv4、連撃斬Lv4、縮地Lv2、
すぐさま相手のステータスを確認し、レベルの高さに驚愕した。
仮面を被っていて容姿が不明だが、名前や体つきから察すると恐らく女性だ。
「ユイ、気を付けろよ。相手のレベルは52だ。油断すると負けるぞ」
俺はすぐにユイにブースト系の魔術を施していく。
「準備はいい?」
彼女は律儀にも俺達の準備が整うのを待っていたようだ。
そして、こちらの準備が完了したのを見届けると、物凄いスピードで眼前へと現れた。
そして油断している俺達に向かい、一太刀振るう。
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