第22話: エルフの里での生活4(クロの様子がおかしい)

屋敷へ戻ってきた俺は、グッタリとしていた。


「先生ってのも、案外疲れるもんだな⋯」


倦怠感でベッドの上でうつ伏せになって寝転んでいると、ユイが背中に乗って、マッサージをしてくれた。

「お兄ちゃん、おつかれさま」という言葉も忘れない。マッサージといっても、ただ足踏みしているだけなのだが、意外とそれが気持ち良かったりする。

こういう気遣いは嬉しい限りだ。


そして、いつしか俺は眠ってしまった。


朝日が眩しい⋯気が付いたら朝になっていた。

いつものように上に重みと温もりを感じる。

恐らくユイだろう。

しかし、右側にも温もりを感じていた。

誰かが、俺の右腕をガッチリとロックしている。

誰だろうか。

徐に目を開けると、案の定俺の上ので気持ちよさそうに寝ているユイの姿が見える。

ということは、隣にいるのは誰だ?

右腕のロックを振りほどき、大きく伸びをしてから、右側に目を向ける。


ん? 誰だ?


そこには、見知らぬ幼女が寝ていたのだ。

布団を被っているので、頭しか見えない。

しかし、全く見覚えが無い顔だった。


起こさないように上に乗っていたユイを左側にそっと降ろす。

そして俺はベッドから飛び出た。


布団をめくると、見知らぬ幼女は、一糸纏わぬ姿で気持ちよさそうに寝ていた。


慌てて布団を元に戻す。


「一体、何がどうなってるんだ?」


取り敢えずユイを起こす。


「ユイ、起きろ!」


しばらくして、眼を擦りながら、まだ寝足りないといった感じでユイが起きてきた。


「ふあぁー、うぅ、お兄ちゃん、おふぁよー」


大あくびをしている。


そして、布団をガバッと跳ね飛ばした。


「ちょ!まてユイ!」


再び、幼女のあられもない姿が露わとなった。

ユイをベッドから降ろし、再度布団を掛ける。


「この子が誰なのか知ってるか?」

「ううん、見たことないよ。もしかして⋯二人目の妹⋯?」

「妹は勝手に増えたりしないと思うけどな」


一体、この幼女は何者なのだろうか⋯


このユイとの一連のやり取りで、幼女が眼を覚ましてしまった。


ベッドから体を起こして、まるで自分の姿を初めて見るかのように、眺めていた。

布団がはだけているが、もう直すのも面倒だ。

それに相手はどうみても7~8歳だ。

俺はロリコンじゃないし、何の問題もないだろう。


「ユウおは⋯ヨ?」


ぎこちない感じだが、幼女が喋った。

そう、幼女が喋ったのだ。

ん?そういえば何処かで聞いたことがある声だった。


鑑定アナライズを使用する。


名前:クロ

レベル:37

種族:魔族

職種:なし

スキル:怪音波Lv1、速度増強Lv1


うそん⋯。


今俺たちの目の前にいるのは、昨日まで子犬の姿をしていたクロだったのだ。


「本当にクロ⋯なのか?」


幼女は頷いた。


「え、クロって、あの犬ちゃんのクロだよね?え、なんで?」


ユイが同様するのも無理はない。

俺でさえ今目の前で起こっている自体が飲めないでいるのだから。


「クロ成長⋯シタ。ユウ、ユイみたいに、人ノ姿⋯ナッタ?」


ユイが口をポカーンと開けて驚いている。

セリアが俺の中から出てきた。

そして、わざとらしくコホンと1回咳払いをし、説明し出した。


「本来魔族に形というものは決まっていません。人の姿をしていたり、山のように大きな怪物であったりと様々です。クロはまだ生まれたばかりの子供でしたので、恐らく親代わりをしているユウさんやユイさんに影響されて、人の姿になったのだと思われます」


な、なるほど⋯セリア解説ありがとう。

つまり簡単に言うと、魔族はとんでも生物だという事なのだろう。


取り敢えず、俺はユイに服を着せてあげるように言った。


ユイのサイズなので少しサイズが大きいが、我慢してもらおう。

改めて見ると、クロには子犬の時の名残を残しており、黒い犬耳と尻尾を生やしている。

姿だけを見るならば、どうみても犬人族シエンヌだろう。

なので、街中を歩いても怪しい目で見られることはないだろう。


ユイは、俺が悩んでいるというのに、呑気なものだ。

「妹が出来たよ!」と言って、はしゃいでいる。

まぁ、いいけどね。


取り敢えず、朝食だ。

クロを連れてリビングに降りてきた。

階段で転ばないようにユイが手を繋いでいた。

朝の挨拶をザンバドさんとルナさんにして、いつものように席に着いた。

当然の事ながら2人の表情が誰だろう?と言う反応をしていたので、正直にクロが成長しました。とだけ告げておいた。


人の姿となったクロが何を食べるのか気になったのだが、クロはテーブルの上に並べられた料理には見向きもしなかった。

席を立ち、俺の隣の膝の上に座る。


「ユウ、ご飯」


そう言って、俺の腕を甘噛みしてきたのだ。


「え、ご飯ってやっぱり魔力なのか?」

「クロご飯、昔から魔力」


やはり、子犬の時と同じで魔力が食料のようだ。

しかし、何故だか吸収量が大幅に減っていた。

昨日までは1食分で1/5位減っていた俺のMPだが、今は1/10も減っていない。人の姿になった事で取り敢えずの成長期は終わったのだろうか?


エレナも昨晩は、この屋敷に泊まっていたようだ。

そして、何やら豪華な装飾が施されたカードを手渡してきた。


「お父様にお願いしていた魔導具の売買をするための許可証ですよ」

「お、ありがとうエレナ!これで魔導具の購入が出来るよ」


このカードがあれば、魔導具の購入だけではなく、通行禁止場所に入れるだとかエルフの里内で規制されている事がほぼ全て可能になる特典付きだそうだ。


「無くさないようにお願いしますね」

「こんな貴重な代物、いいの?」

「ユウ様はこの里にとって、特別な存在ですから」


そう言い、エレナが微笑んでいる。


礼を言って、早速外へ繰り出す事にした。

エレナも一緒に来ると言っているので、みんなで行く事にする。


その際、クロの足取りが若干おぼつかない。どうやらまだ二足歩行に慣れていないようだ。

俺はクロのペースに合わせつつも、ユイに一つのアドバイスをした。


「ユイはクロのお姉ちゃんなんだから、ちゃんとクロの面倒を見てやるんだぞ」


ユイは、おでこに手を当てラジャーのポーズを取る。


後ろを振り返ってみるとユイがクロの手を引いている。

その様はまるで本当の姉妹のようだ。

ホッコリするその後継を俺とエレナも微笑ましい表情で眺めていた。


途中寄り道しながらもいつの間にか、お昼になっていたので昼食をサッと屋台で済ませ、俺達は猫店長の店の前までやってきていた。


そして中に入る。


「いらっしゃいませニャ」


いたいた。愛くるしい猫店長が。

客が俺達だと気が付くと、声を荒げる。


「ニャニャ!またおまえらかニャ!」


ユイの視線が一点に集中している。

クロの手を引いたまま、一直線に猫店長の元まで駆け寄る。


「猫ちゃん、なでなでなで」


もうやってるよ。


「やめるニャ!」


猫店長は必至に抵抗しようとする。

カウンターの上からの必殺の猫パンチである。

今回は前回と違いクロもいたので、2人で猫店長を捕まえて、なでなで、もといモフモフしまくっている。

俺も参加しようと一瞬思ったが、エレナと目が合ってしまったので自重する。


エレナがユイ達の元へ近寄る。


「ユイちゃん、クロちゃん、クラムさんを放してあげてね」


どうやら、猫店長の名前はクラムさんと言うらしい。

二人がコクリと頷くと、渋々といった感じで猫店長を解放した。


「助かったニャ、エレナ様」


ユイが耳を下に下げて、シュンとしている。

エレナが、そのユイの頭を優しく撫でる。

その姿を見た猫店長が、デレまがいな事を言っている。


「ま、まぁ、少しくらいなら撫でられて上げてもいいニャ」


猫店長は、優しいのだ。


さてと、事態も収まった事だし、本題に入るとする。

俺は猫店長にエレナから貰ったカードを見せる。

すると、無言でカウンターの奥から、先日リストで確認した1~4の魔導具の現物を持って来てくれた。

総額は金貨380枚だった。


金額を聞いて驚いていたのは、この中ではエレナだけだった。

勿論一括払いで金貨380枚を払い、現物を受け取った。


「毎度ありニャ」


店を出て、次なる目的地へ向かい歩いている。

以前立ち寄った際に、王の許可が必要と言われたお店がもう一つあったのだ。


それは、魔導書を取り扱っているお店。

俺に関していえば、読むだけで覚えられるので便利な魔術があったら、なるべく購入しておきたいと思っていた。


魔術屋の前までやってきた俺達は店の中へと入る。


「おや、お客さんかい?珍しい。って、エレナ様じゃないかい!」


店主の恰幅のいいおばちゃんエルフがエレナを見て驚いていた。


取り扱っている品物が品物な為、この店に立ち寄る客は、ほとんどおらず、多くても一日一人、二人なのだとか。

驚いているところ申し訳ないんだけど、おばちゃんエルフに頼み、商品のリストを見せて貰った。


1.妖精の羽フェアリーウィング:背中に妖精の羽が生えて、10秒間だけ空を飛ぶ事が出来る。

価格:金貨20枚

2.防御力増強ヴァイタリティアップ:対象者の耐久力を一時的に上げる事が出来る。

価格:金貨10枚

3.潜水ダイビング:水中で呼吸する事が出来る。

価格:金貨10枚

4.睡眠スリープ:相手を眠らせる事が出来る。

価格:金貨10枚


他にも色々とあるが、すでに覚えている魔術だったり、劣化版だった為、目ぼしいのはこの辺りだろう。

俺は4つを即購して、店を出た。


「ユウ様の財布は凄いですね、正直王族の私ですら、驚くほどですよ」

「あはは⋯」


笑って誤魔化すしかなかった。


気が付けば日も暮れ始めていた。丸一日近くブラブラしていたことになるのか。

偶然にも王宮の近くまで来ていた事もあり、折角なのでとエレナが夜は王宮でご馳走してくれると言う。

断る理由もないので、みんなでお邪魔することになった。


王様は外出しており、現在この里にいないようだ。

いつも家族で食べていると言う食堂に案内してくれた。


しばらくすると、エレナの母親ことミリハさんが食堂に入ってくる。


「あらまぁ、ユウさんじゃない」


俺の顔を見て、何故だかテンションの上がるミリハさん。

席は複数空いているのに何故俺の横に座る!


ミリハさんが来る前にエレナは「シェフの所に行ってくる」と言い、席を外していた。


「ところで、エレナとはその後どうなの~?」


ん?その後とは、一体どういう事だろうか。

言われている意味が分からず困惑していると、エレナが戻ってきた。


!?


「もぉ!お母様、そこは、私の席です!」

「エレナはユウさんといつも一緒なんだから、たまにはいいじゃない。お母さんだってベタベタしたいもの」


エレナの頬がプクッと膨らんでいる。

恐らく怒っているのだろうが、可愛らしい表情には変わりがなかった。


親子の微笑ましい光景なのだろうけど、単純にエレナが遊ばれているだけのような気もする。

結局、エレナに引っ張られて、ミリハさんは抵抗しつつも退かされてしまった。


料理も運ばれてきたので、少しゴタゴタしながらも、食事スタートだ。


食事が始まってからも、ミリハさんがエレナをナジっている。その度にエレナは時々頬を赤く染めていた。


その際、たまにこっちにまで火の粉が飛んで来るのは正直やめてもらいたい⋯。


「ねえ、ユウさん。エレナとは、どこまでやったの?」

「ぶほぉ⋯」


俺は食べていたものを吹き出しそうになってしまった。

エレナが真っ赤になり、反論する。


「ちょ、ちょっと、お母様!私たちはまだ、そんな⋯」


段々とエレナの声が小さくなっていた。

ヤバい、何かこのままだと誤解されてしまうんじゃないだろうか。

ハッキリと言わなければ。


「えっと、ミリハさん、僕らはそんな関係じゃないですから!」


ガチャンッ!


何の音かと思い隣のエレナを見ると、エレナが手に持っていた茶碗を床に落とした音だった。

エレナは呆然とした「えっ?」という驚いた顔をしている。


そして、眼に涙を浮かべ、ドタドタと外へと走り去ってしまった。

え、何が起こった?

なんかマズい事言った⋯?

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