第2話 -希望を求めて絶望、そして再び-

 次の日になった。この安宿は向こう一週間は部屋を取ってある。一階の食堂で恰幅の良い女将さんから朝食を受け取りすませた。今日はもっと恥ずかしくない仕事を探してみようと思う。街に繰り出した。


「ウチは料理ができないと雇えないね」


「そんなヒョロッこい体じゃあとてもとても」


「上の階で夜の仕事してくれるってんなら…」


 ウエイトレスなどの仕事はなかなか見つからない。エルフの強み、魔法を使うことは出来るのだが、俺は回復魔法と補助魔法しか使えない。冒険者としてやっていく事も可能だが、それはパーティー内でサポート役兼性奴隷として生きていく事に等しい。そうギルドの受付嬢に諭された。

 そうやって、思考に没頭しながら歩いていたのがいけなかったのかもしれない。


『ッガ』


 後頭部に衝撃を覚えたと思ったら、知らない場所だった。どこかの地下牢の様に見える。


「起きたか、お前は今日から奴隷として生きていく事になった。自殺しようとするなよ」


 デブで禿げたニタニタといやらしい顔をした男が俺にそう言った。俺は全裸で両手に枷を嵌められてバンザイさせられている。首に何かが嵌っているのがわかる。周りからは悲鳴と嗚咽と叫び声が響いている。ほとんどが女の物だ。子供の声も聞こえる。最悪だ。


「その首輪は奴隷の首輪だ。喋る事ができなくなる。お前、エルフか?」


 答えようとして声が出なかった。首を縦に振る。


「処女か?」


 処女だが、これは処女でなくても処女と答えないとダメなパターンだろうと思われる。少し間を置いて首を縦に振る。


「こっちにこい」


 白い布を被せられてどこかに引っ張られる。大人しく従う。そのまま連れて行かれると、どうやら奴隷市場に来た様だ。俺のセリが始まった。


「皆さま、いよいよ今日の目玉商品でございます。処女のエルフです!どうぞご覧ください!」


「「おぉーーー!」」


 奴隷商人も買い手も一気に沸き立って俺に視線を突き刺す。顔が真っ赤になっているのが分かる。しかし頭は真っ白だ。いっそ一人で冒険者でもやって死んだ方が良かったとさえ思う。言葉も喋れないまま、俺はキモオヤジの慰み者として生きていかなくてはならないのか――

 酒場のマスターを見つけた。他の客の様に興奮して無かったのですぐにわかった。探しに来てくれたのだろうか。俺は最後の望みをかけて、必死に目で合図を送る。俺だと分かってくれたようだ。


「お客様、何かパフォーマンスのご要望はございますでしょうか?」


「脱がせ―!」「ケツに突っ込め―!」「泣かせろ―!」


「小便を飲ませろー!」


 マスターが汚いシュプレヒコールの合間をついて叫んだ。こ、こんな時に何を考えているんだ!? 脱がせる前の余興として気に入ったのか、ステージの脇から男が尿瓶を持って来た。そして俺の服を捲ってあてがう。


「「おぉーーーー!!」」


 俺の股間を見て観客が叫ぶ。死にたい。男が俺の下腹部を押し込んだ。


『ぴゅっ、ジョロロロローー』


 頼む。もう殺してくれ。こんなのはあんまりだ。男が採りたてのそれを観客にふるまっている。


「旨い!」「これは性奴隷にするには惜しい味だな」「俺専用サーバーにしよう」「馬鹿め、俺が絶対にセリ落とす。そこで見ていろ」「あれ、この味、どこかで…確か近くの酒場で飲んだような…」「なに言ってんだ。性奴隷由来のは味が悪いから酒場にあるわけないだろ」「いや、俺もこれ飲んだことあるぞっ」「…ホントだ。これ、あそこの酒場で出してる味だぞ!特段に高い奴だ!」「おい、奴隷商!」「良く見たらあのエルフ、深夜に酒場に居る娘じゃないか!」「俺も見たことあるぞ」「まさか攫ったのか!」――


 大きな騒ぎになって、俺が人さらいにあったことが証明されたようだ。俺はあっさりと解放された。

 その後にマスターから聞いた話では、あの奴隷商人は人攫いを使っていた事が判明して一族郎党ひっ捕らえられたのだとか…。自業自得であろう。


「ありがとうマスター、やっぱり俺、暫くここで働くよ」


「職を探し回っている娘と言うのは田舎からやって来る者が多い。今回は人攫いに付けられていたんだろう」「何かあったら俺に相談してくれよ」


 マスターが渋くてダンディーな変態紳士の顔でそう言った。

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