第23話「映像を投写するかのように」
翌日も、ルリアがレヴェカたちのいる宿屋に帰ってくる様子はなかった。
「レヴェカ!」とラチッタメンバーの女。
「ん?」
「ルリアは今日もいないの?」
「……うん」
「そっか。もう一つ道具を用意してほしかったんだけどな」
「……まったくどこ行ったんだろう……」
そのとき、トントンと扉が外からノックされた。
「あ……」即座に立ち上がるレヴェカ。
「噂をすれば……じゃない?」
そしてレヴェカはドアノブに手を掛けて、勢いよく扉を押し開けた。
「もう、心配したよぉ、ん……」
だが正面にルリアの顔はなかった。
あるのはスーツを着た人物の胴体部分。
「え……」
「よう、久しぶりだな」と、ドスの利いた聞き覚えのある声。
レヴェカは顔を引きつらせながらおそるおそる首を上に向けた。
(わ……)
そして、嫌な予感は的中する。
レヴェカを見下ろすのは、奇妙な笑みを浮かべる長身の男。
ムークであった。
* * *
夜空の下、背を丸め、両手をぶらんとさせ、ルリアはぼうっと草原を歩いていた。
そして、石ころにつまずく。
「っつ……」
もうろうとしていた意識が我に返ったルリア。
その場に小さくぺたん座りして、星の見えない単色の空を眺めた。
まるでそこに映像を投写するかのように、ミヤとのことを思い出す。
おいしい朝食をごちそうしてくれたこと、店で客と談笑する姿、ミヤ自身の夢を明かしてくれたときの横顔……。
ミヤはいつも気さくな笑顔を振りまいていた。
そして、レヴェカたちとの思い出も続く。
最初は手荒なマネもされたけれど、自分に手を差し伸べてくれたときのレヴェカの笑顔……。
彼女の面倒見の良さには助けられたと感じる。
こうしてルリアは次々に回想を巡らせた。
そして空を見るのをやめた。
唇を噛みしめてから呟く。
「あんなにみんな優しくしてくれたのに……、あんなに優しくされたの……、私初めてなのに……、忘れたくない……、裏切りたくないよ……」
気づけば涙はぼろぼろと止めどなく流れていた。
* * *
数時間後、少し気分を落ち着かせたルリアには、一つの結論が出ていた。
現状のまま急にいなくなってしまっては、ラチッタのメンバーはみな心配するだろう。そのためいったん戻り、ラチッタのメンバーにはしっかりと事情を話すことを決心した。
ルリアは月が照らされる澄んだ池で顔を洗う。
「冷たい!」
そして、ぺしっと両手で頬を叩き、気合いを入れた。
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