第18話「でもじゃない」

 両手首を縛られ、即席の檻に捕らわれたルリアとミヤ姉弟。

 どうにか脱出する突破口がないか考えていた。


 ミヤがルリアに尋ねる。

「魔法で何とかできないかな」

「手を縛られてると魔法使えないんです。でもほどけたところでこの檻の中じゃ……。鍵の形が分からないと合い鍵も作れないし……」

 ルリアは肩を落とす。


「そっか。正面突破がダメだとしたら……」

「?」

「やむを得ない! 下だ!」

 ミヤは地面を指さしていた。


「下? 下をどうす……」


「掘る!!」

 そう言うと急に格子付近の地面をつま先で蹴り出す。


「おお……原始的……」


 それでもわずかに地面は削れ、重いだけで地中に埋まってはいない格子と地面に隙間ができた。


「じゃあ私も……!」

 ルリアも加勢。


* * *


 そして一時間四十分ほどが経過。

 ミヤとルリアは息切れしながらも、何とか通れそうな隙間に目を合わせてにっこりと笑う。


 しかし、ルリアの顔が曇った。


「ん? どうしたの?」

「私、逃げていいのかな……。ミヤさんは私のせいで捕まったから逃げるべきだと思うんですけど……」

「何言ってるの? あなただって捕まってここに来たんじゃない」

「私、なんかここの五人組の人たちがどうしても悪人に見えないんです」


 ルリアのその言葉にミヤは天を仰ぐ。

「あのさ、どこの世界に手縛られて檻に入れられてる状態で、そんな台詞吐く人がいるのよ。お人好しも限度考えないと本気で命落とすよ」

「でも……」

「でもじゃない! 行くよ! ほらレイも起きて」

 ミヤは疲れきって眠っている弟のレイに軽く肘を当てて起こした。


* * *


 三人は檻からの脱出にあっさりと成功し、真っ暗な道をなるべく足音を立てずに進む。

 檻から出てしまえばどの方向にも逃げられるだろうとミヤは考えていたが、両手を使えない状態で暗い獣道を進むのは決して容易ではなく、何とか歩ける方向を探しては闇雲に歩いて行く。


* * *


 口論が聞こえた。


 突然の人の声に三人は足を止め息も殺す。

 その声はすぐ目の前の洞窟の中から響いていた。


 暗がりからのぞき込むと、焚き火を囲んだお頭たちメンバー五人の姿。


 大男に若い青年が楯突いている最中だった。

「たしかに今回のマジックショーは好評だったがあれは俺たちの実力じゃない! あんな客寄せはもう辞めるべきだ」


 大男が反論する。

「そうは言ってもこうするしかないだろ。俺たちにはもう後がないんだ。次の仕事もらえるかどうかの瀬戸際なんだぞ」

「かといって、一時的に預かってる魔女の能力に収入を頼るなんて……。数日後いるかどうかも分からないのに」


 お頭が口を挟む。

「お前はどうしたいんだ? 代案はあるんか?」


 青年は答える。

「俺は、さっさと魔女はあの屋敷に引き渡すべきだと思います。そうでしょ? また仕事の依頼が来て魔女が使えればそれでいいかもしれないけど、使えなければまた生活するのがやっとの状態だ。こんなんじゃいつまで経っても俺たちは有名にはなれない。ただ年を重ねるだけだ。それならいっそ本来の目的通り魔女を引き渡して、大金を得ましょうよ。そうすれば新たなマジックの道具だって確実に揃えられる!」


 大男はそれに沈黙。


 お頭は言う。

「異論は……ないようだな」


「アタイは反対だね」

 そうはっきり発言したのは、このメンバーの中でいちばんルリアのそばにいた『アタイ』ことレヴェカだった。


 大男はからかうように言う。

「どうしたレヴェカ、お前あの魔女に情でも移っちゃったのか?」

 

 それとは対照的にレヴェカは表情を崩さずに答える。

「そりゃ……移るよ。だってあんなに手荒なマネをしたのにマジックに協力してくれたんだよ!」


「でもそれは脅されてたから」

「違うね。私覚えてるんだ、彼女に花に変えてって無茶振りしたときのこと」

「どうだったんだよ」

「私は最初無理な本数を依頼したの、絶対力を抜くと思ってたから。でも彼女は真剣に頷いて、本当にそれを成し遂げてしまった。しかもあの量を、本物そっくりのラスベリアスの花に変えてしまった。あんなに責任感強い子なかなかいないよ」


「責任感は分かったけど、じゃあ結局お前はあの魔女をどうしたいんだ……?」

「分かんない! でも……」

「……でも?」

「でも屋敷に売り払うのだけは……絶対にダメ……」

 レヴェカの力を込めてそう呟いた。


 そのとき、ものかげのルリアは、唇を噛みしめて洞窟の中へと走っていった。


 ミヤが思わず声をあげる。

「ちょっと!! ルリア!!」


 ルリアは既に焚き火を囲う五人のすぐ近くに仁王立ち。

 その空間にいる全員が、急に現れたルリアの姿に目を丸くした。

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