第10話「何してるの?」
「えっと、これがここで……この形で……」
ルリアは黙々と作業を続けた。
ぐちゃぐちゃにされた商品を、ミヤに気づかれる前に元通りに修復する作業。持ち前の記憶力と精密な魔法技術を武器に、手に乗せた物体を次々と元の形へと戻していった。
「あとちょっと……」
ちょうど五分の四程度が終わったときのことだった。
背にしている入り口から、声がした。
「何……してるの……?」
ミヤの声だった。
びくっとなったルリアの背筋はピンと伸びる。
そっと振り向くルリアはあたふた。
ミヤが来る前に全部直しておく予定だったルリアにとって、見つかったときの対応なんて、一文字も考えていなかった。
「えっと……その……」
「ルリア……まさか……」
ミヤは足早に店内へと入ってきて、背にしていたルリアの手元をのぞき込んだ。
「あなたまさか……魔女だったのね……。しかもあなたが私の店にトドメを刺す張本人だったなんて」
今まで向けられたことのないミヤの冷酷な態度。
「ち、違います!! 私はめちゃくちゃにされた商品を直してて」
「仮にそうだとしても結局魔女じゃない!! よくも騙してくれたわね」
「でも私は」
「裏切り者!! 出てけ!!!」
聞く耳を全く持たないミヤの勢いにおされてとっさに「ごめんなさい」と一礼をすると、ルリアは恐怖のあまりその場から逃げ出した。
* * *
ぼんやりと朝を匂わす紫色の空の下、ルリアは無心で走っていた。
商店街を抜け、集落を抜け、草原を越え、森へと着いた。
こらえるように歯を食いしばって、ただ少し先の地面を見ながら一心不乱に突き進んだ。
* * *
そして地面を這うツタに足を引っかけて転んだ。
「う……うぅ……」
丸くうずくまる。
緊張感が一気に抜ける。
息は荒く、足はがくがくと震え、地面に勢いよく付いた腕は擦りむいていた。
そして、我慢していたものが一気に溢れ出す。
目からはぼろぼろと止めどない涙が落ち、それは土をまばらに湿らせた。
それから何時間も、ルリアはそこで泣き続けた。
* * *
その頃、ルリアが脱走した屋敷にも変化があった。
ムークは怒りを込めた笑みを浮かべ、呟く。
「あの女、今度捕まえたら厳重な檻に閉じ込めるからな……。まぁ俺から逃げられると思うなよ。探すための金ならここに腐るほどあるんだ。すぐ捕まえてやる」
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