第7話「あくまで仮定の話として」

「あれ、普通……」

 ルリアはエプロンを着け、落ち着いた雑貨に囲まれた店の真ん中にいた。


 ミヤは隣で書類を整理しながら言う。

「雑貨には値札が付いてるから大丈夫だと思うけど、分からないことあったらいつでも聞いてね」

「はい」(さっきの陰口は何だったんだろう……)


 二十分後、客が一人。皿を数枚購入。

 それからさらに三十分後、新たに人が来るも何も買わずに店外へ。


「あの……思ったより……人来ませんね」とルリア。

「正直だね……。うん、今は人が来ないんだぁ」と遠い目のミヤ。

「今は?」

「前はね、結構たくさん来たんだよ。私一人じゃさばききれないくらい。でもね、すぐ隣に大きな雑貨店ができちゃったの……。しかもここよりも安い価格で売ってて……。品質じゃ負けないんだけどね……」

「そうなんですか……」


 そしてミヤの表情から笑みが消える。

「それだけなら……、こっちに実力がないから仕方ないって思えるんだけど」

「え……?」

「私ね、見ちゃったの。夜、あの店がゴミの山を搬入して中で魔女を使って商品に変形させてるとこを……」

「……」

「こっちは職人さんが汗水垂らして作った雑貨をお金を払って仕入れて売ってるのに、あっちはガラクタよ? それも数秒の作業で簡単に一見それっぽいものを作っちゃう……」

「ひどい……ですね……」

 そう相づちを打つほかに思いつかなかった。


「それでね、私納得できなくて、直接あっちの店主に文句言ったわけ。そしたらそれからが悪夢の始まり。私の店に対して根も葉もない悪評をばらまいたり、わざとうちの商品に似せた偽物を安く売ったり。……私には、この店しかないのに……」

「…………」


 ミヤはうつむき、怒りを込めて呟いた。

「本当に……魔女なんて、消えてしまえばいいのに……」


 恨みが凝縮されたその言葉を聞き、ルリアは目を細めた。


 そして、数秒沈黙のあと。

「あの!」切り出すルリア。

「ん?」


「えっと……もし……こっちにも魔女がいたら、ミヤさんはどうしますか?」

「え……?」


 一瞬その場の空気が固まった。


「た……たとえばの話ですよ? もし魔女がいたら商品ももっとラクに手に入れられるし、あっちの店に互角に張り合えるし、それに」

「仮にいたとしても、私はそれに頼らない。両親の代からお世話になってる職人さんにも申し訳ないし、……それになんだかズルしてる気がして、許せないから……」

「……」

「でもなんでそんな質問するの? 周りに魔女がいたことでもあるの?」

「いえ! 別にそんなんじゃ……」

「実はルリアちゃんが魔女だったりして……」と冗談笑いのミヤ。

「はは、悪い冗談を……。でも、あくまで仮定の話として……、そうだったらどうします?」


 ミヤは再び表情を曇らせる。

「そうだな……、幻滅……するかな……」

「ですよね……」


 店の扉が開き鈴が鳴った。

 ルリアは気持ちを切り替え笑顔で接客しようとしたが、一方ミヤは黙り込む。


 ミヤはルリアの耳元でささやく。

「あれ、客じゃない……。例の隣の店の……」


 店にずかずか入って来たその中年女性は、体中にちりばめた装飾品をきらきらと光らせつつ白々しく見下す態度で言った。

「ここの店、繁盛してるのねぇ! 店番が二人もいるなんて!」

 開口一番の皮肉。


「何しに来たんですか?」とミヤ。

「何しに来たか……知りたい?」

 不気味な笑みを浮かべていた。

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