ライブギア・ジェネクス

嵩宮 シド

Carrier Maria-Ⅰ

Episode-1 夜業‐Worker:ワーカー

 これは夢か、と、体全体で感じる夢遊感を感じながらもその高台に立ち竦んでいた。高台の下に広がるのは静かな森。キィキィと言う鳥の鳴き声があたりから聞こえるものの、その鳥がどこにいるのか分からない。空はまるで炎に照らされているかのように赤く染まっており、その辺りに不気味さを漂わせていた。

 姫野麻里亜ひめのまりあは、自分の脇にある石に手を当てて辺りを見回した。見渡す限り、どこも高い木々が生い茂る森だ。何も無い。

 引き返そうかと思って石から手を離して溜め息をついたとき、ふと目に映るものがあった。それは、遺跡のようなもの。何かの雑誌か何かで見た事があるものと良く似ている形をしている。

「……?」

 麻里亜は首をかしげながら、その遺跡をじっと見る。その遺跡から何かを感じる。人がよく、パワースポットか何かに行った時に感じる、〝気〟のような、ただの思い込みのものとは全く違う。

 禍々しさと、神々しさ。その両方が、今麻里亜の目に映っている遺跡からあふれ出てきている。目に見えなくともプレッシャーとも呼ぶべきものが肌に突き刺さるほどに感じられる。だが、何かひきつけられる。例えるならば、自分の意識がどんどんその遺跡のほうに吸い寄せられていくように――――。

「……ッ!?」

 その時、ぐおっと言う耳鳴りと共に少女の体が遺跡の前にまで飛び越えた。空間移動。そう呼ぶべきなのかもしれない。

「…………」

 遺跡を呆然と見上げる麻里亜は少し怖気づきかけた。あれだけ遠くにいても感じ取ったものがいま身近にある。肌を貫くほどの感覚が、少女に選択を迫ってきている。

 遺跡に入るか、否か。

 簡単な選択肢だ。それこそ、小学生やそれ以下の子供でも判断できるようなレベルである。イエスか、ノー。そのどちらかしかないのだ。即答すればそれで済む。

 だが、麻里亜は判断が付けられなかった。

入れば、もう引き返せない。今まで持っていたもの全てを捨てなくてはいけない。そして捨てたものは、もう二度と戻ってくる事はない。

反対に、入らなければもう二度とこの遺跡に出会うことは出来ない。何か、大切な何かがこの中にある。ここで引き返してしまったら、もうそれは二度と手に入れることは出来なくなる。

「私は……」

 答えが見つからずつい声を出す。


『――――――――』


「ッ!誰だ……!?」

 その時、麻里亜の耳に何かがささやいた。少女の警戒心が高まり、息をころしながら、静寂に包まれたその場所を見渡す。


『―――――――』


「ッ……!」

 また聞こえた。その聞こえた方向にバッと振り向く少女。暗闇がどこまでも続く遺跡の中から、ささやきが聞こえた。

 息を呑んで、遺跡のほうに一歩踏み込む。

「私を……呼んでいるとでも言うの……?」

 遺跡の中の暗闇に語りかける麻里亜。だが、答えは帰ってくることはない。ただ向こうに、無限に暗闇が広がっているだけだった。

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