メイク×メイズ
津々浦 麗良
Q-✕-1
Opening Round
第1話 Opening Round (1)
オレは、マンガがキライだ。
マンガだけでなく、ドラマやアニメや映画や小説やおよそ「これはフィクションです」とつく、ありとあらゆる作り物がキライだ。
もっと言うなら、たとえ主人公にどんな困難が起ころうとも、なぜか運よく助かったり、突然隠された力が発現したり、ヒーローがタイミングよくあらわれたり敵が都合よく帰ったり意味もなく異性にモテたり、ご都合主義全開なストーリーが全部キライだ。
なぜならこの世は、世界は、現実は、そんな自分に都合のいい話など用意してくれていないからだ。
困難が起こっても助からない。隠された力なんてない。ヒーローが現れることも敵が許してくれることもモテることもオレにはない。
だから。
こうして学校に遅刻しそうなときに、曲がり角で偶然美少女とぶつかって、ナイフで刺されて死にそうになっているなんて、そんなことが起こるなんてありえないんだ……。
Opening Round Start
――――……ねえ。
――……きて。
――をさまして。
「ねえ。生きてるでしょ? 目を覚ましてったら!」
「…………――うわッ!?」
気が付くと、目の前に女の子の顔があった。
びっくりして、思わずのけぞってしまい、後頭部を思いっきり床に打ち付けてしまった。
「いたたたた〜〜〜……」
「ちょっと、大丈夫?」
どうやら彼女が倒れていたところを介抱してくれていたようだ。お礼を言おうと顔をよくよく見ると、
「あっ、さっきのナイフ女!?」
「誰がナイフ女よッ!」
と、いきなり右ストレートが飛んできた。とっさによけて床を転がる。
「いきなり何すんだ! こんな怪我人に対して乱暴すぎんだろ!」
「頭を床にぶつけたくらいで、怪我人なんて大袈裟なやつね」
呆れた顔で彼女が言うので、
「何言ってんだ、こっちはナイフで腹を刺されてっ、て……」
見るとナイフどころか、腹にはかすり傷一つついていない。せいぜいさっき転がったときシャツについた汚れくらいなものだ。
「あれ、確かに刺されたと思ったんだけどなあ……」
「まあいいわ、そんなこと。それよりも……」
「おい、そんなことってなんだよ、そんなことって」
「い、い、か、ら。それより、ここがどこか知らない?」
「へ、何言って……」
と、言われてからあたりを見回してみると、確かに全然知らない場所にいる。
記憶が確かであれば学校の通学路であるはずなのに、天井があり壁があり窓があり、床も木目で押せばギシギシとなる。何より日が暮れてしまったのかあたりは薄暗く、蛍光灯がポツンポツンとわずかばかり照らしていた。
少なくとも、自分が知っている範囲では見覚えのない場所だ。
「……どこだここ?」
「だからそれを聞いてるんでしょ」
彼女はため息をついてそう答えた。
「まったく、起きて一番最初に身近にいた人間が、何の情報もないモブキャラとはね。いくらなんでも設定がハードすぎるでしょ」
「なんだ、そのキャラとか設定とかってのは?」
「よくあるでしょ? マンガとかだとたいていこういうシチュエーションって、仲間と協力して謎を解いて、影の黒幕を倒して脱出するって話じゃない。ちょうど今の展開がそれに似た感じよ」
「お前さ〜、危機感がなさすぎるだろ? 普通はむしろ誰かに誘拐とかされて、監禁されているって思うのが一般的じゃないのか? よくそんな都合よく考えられるなぁ」
「なによ。だいたい、誘拐されるような覚えも、犯罪に巻き込まれるような経験も、一つもありはしないわ。それこそ、あなたがその誘拐をした犯人なんじゃないの?」
「お前が言うなよ! むしろ、こっちのほうがお前を怪しんでるんだからな!」
「アリスよ」
唐突に、彼女が言い放った。
「へ?」
「だから! 私の名前はお前じゃなくてアリス! そう呼びなさい」
と、彼女、アリスはそう言った。
「で、あなたの名前は?」
「……ユウキ」
「ふ〜ん。じゃあユウキ、あなた、ここで倒れる前のことを覚えてる?」
「えーっと、そうだなあ……」
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