第36話 正体

「これで分かったか!あの女は死んだんだ!死んでる人間が生きてるだよ!」


拓也は何かを察しているように興奮していた。


二人のやりとりを不可思議そうに見つめる風香。どうやら彼女は話の全てを理解するのには時間がかかるようだ。


「私はそんな大層なものじゃ・・・・」


おっとりとしていた風香は空気も読まずに遠慮がちに言うが拓也には知ったことではなかった。


「黙れ!死人が口をひらくなぁ!」


もはや1つの興奮状態に陥っていた拓也は懐からピストルを取り出す。素早くトリガーに指をかける。照準は風香に向いている。


「バカ!何しようと・・・・」


隆が静止に入ろうとするが、


バァン!銃声は森に響きわたる。


拓也の狙いは正確だった。風香は避ける暇もなく腹の部分に見事に一撃狙いすましていた。お腹の部分に不自然な穴が開いていた。


「お前!お前!何をしてやがるんだ!」


隆は拓也の胸ぐらを掴み、殴りにかかろうとする。


「よくみろ!あれを!」


拓也は殴りかかろうとする隆を風香の方へと視線を向けさせる。


「なんだってんだよ・・・・。」


隆の見た光景はそれは意味の分からない光景だった。


「血が出ていない・・・・?」


そう、風香の撃たれた箇所からは血が出ていなかったのだ。


銃口と同じ直径の丸が風香の腹を貫通したがそこから血は流れなかった。黒い影のような物があるだけで血は流れていなかった。


「なんで?どうして?」


隆は分からなかった。ただ今のこの状況を飲み込めない。今にも頭が爆発しそうであった。


「これで分かったか!あいつはもう死んだんだ!今いるアイツは化け物か幽霊かなにかだ!」


さらに銃を何発も撃ち込む拓也。やはり撃たれた部分からは血が出ない。ただただ虚空が開いていくだけであった。


隆は銃を取り上げようと拓也の手首を掴む。


「やめろおおおおおおおお!」


隆は拓也を押し倒し、またがるようになった。


「怪物だからなんだ!幽霊だからなんだ!彼女は生きているんだ!今ここで!」


腕を振り回し、取っ組み合いを始める。そんな隆の決死の行動もあってか、銃は振り払われ明後日の方向へと飛んでいった。


「バカ野郎!何しやがる!」


拓也は隆の行動が許せなかった。


「彼女は生きている!お前が否定できるのか!生きてるんだぞ!お前が殺す必要があるのかよ!」


これは隆なりの「正論」だった。だが拓也はそんなことはどうでもいい。真実だ嘘だというものが様々重なりあっており、カオスな感情が2人の空間を渦巻いていた。


「こいつは死んだんだ!血も出ない化物だ!誰かが処理しなくちゃいけないんだ!」


拓也は銃を取りに行こうとし体勢を変える。


「銃を誰かに向けるお前の方がよっぽど化物だ!」


両者パニックにでもなっていたのかもしれない。死んだと思っていた姉が生きていたという事実と何もしらず銃口を向ける人間が許せないという正義感。


「逃げて!風香さん!あなたは生きているんだ!」


この隆の言葉は少し遅かった。


「うわぁ!ああああああああ!」


風香は突然頭を抱えだし、呻きはじめる。


「風香さん・・・・?」


隆の心配そうな声ももう手遅れだった。


風香の影は大きくなる。後ろの木々の全長を超えていく。


その影から異形の怪物が姿を表す。


影の中から飛び出た怪物は恐竜のティラノサウルスのようであった。


「UB・・・・!」


隆が驚く間もなくUBは咆哮し、2人に襲いかかる。


前かがみで二足歩行するUBは火を吐き、2人を襲う。木々が焼けていく。


「だから言ったんだ!あれは化け物だと!殺さなくてはいけないと!」


拓也の言葉は隆には聞こえていない。


「風香さん!これは一体どういう事なんだ!なんで!なんで!」


隆の声も風香には届かない。その代わりに目をルビーのように真っ赤になっているのに気づく。


「赤い目・・・・。」


ゆらりゆらりと揺れる赤い瞳は何か怨念のようなものを全身にまとわせているようだった。


UBはその間も炎で森を焼いていた。


「これが風香さんの意思なのか・・・・。いや、違うはずだ!あの人は優しかった。こんなことをする様な人ではない!絶対そうだ!」


隆は今の現実を受け入れることは出来なかった。先ほどまで惚れていた人物がこんなになるわけがない。嘘だ。嘘に決まっているのだ。


「バカ野郎!何寝ぼけたこと言ってやがる!目の前には俺たちを殺そうとしているやつがこっちきてんだぞ!」


拓也にぶん殴られ、地につく隆。


「あれは俺の姉でも!お前の恋人でもないんだ!ただの化け物!わかれ!」


隆を引き上げ木の陰に隠れる。


UBが2人の存在をまた感知し、丸呑みにしようと口を大きくあける。


やられる!2人が覚悟をして目を閉じた瞬間、


ドカっ!鈍い音が鳴り響く。


目を開くとUBは横転しており、うめき声をあげている。


「淳・・・・。」


ふと目をむけた先には青い巨人が立っていた。先ほどの音は巨人が蹴りあげた音なのだったのだろう。


巨人は構わず横転しているUBの腹を蹴りあげ、宙に飛ばす。


すかさず巨人は腕をクロスさせて光線技を放った。


光線技を受けたUBは跡形も無く消えていった。


「よし!そのまま俺の目の前にいる女を握り潰せ!」


拓也は淳に指示を出す。


「やめてくれ!淳!その人は生きているんだ!」


隆は木々の影から大声を出す。殺させる訳にはいかない!


「もうUBは居なくなった!もういいだろ!」


隆は大声で叫ぶ。


「だめだ!あの女を殺せ!あいつはUBだ!俺たち人間の敵なんだ!」


だが、巨人は拓也の言葉に従うかのように大きな拳を風香に振り下ろそうとする。


「やめろおおおおおおおおお!」


隆の悲痛な叫びが森にこだまする。その願いは届くのか・・・・。

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