第21話 代わりの命

UBが街に現れそろそろ2週間が経とうとしていた。それでも人の心は癒えず、悲しみがこの街を包んでいた。


「街に怪物が現れ、そろそろ2週間が経ちます。ですがこの学校に残した傷跡はあまりにも大きすぎ、そして亡くなっていった友人も多くいることでしょう。ですが、我々はその気持ちも汲み取り、彼らの分まで精一杯生きねばなりません。」


淳の目の前で、全校生徒の前で喋る校長先生の姿は大きいものだった。マイク越しから悲しみを押し殺すような声が聞こえる。今いる中学校の校舎もまだ完全に修復されたわけではないが普通に座学を学べる程度には復活していた。


それでも周りのみんなは2週間の出来事を思い出し、嗚咽、涙を流すものがあまりにも多かった。校舎前の運動場の茶色い土が涙に濡れて少し黒くなっている部分があった。


政府や色々な企業が支援に協力的であったのも理由だろうか。当初はもっとかかると思われた撤去作業も大幅に短縮されているらしい。


この運動場にきちんとみんなで集まってるのも久しぶりだ。






校長先生からのありがたい話をおえると剣道部の面々から声が淳の元にかかる。


先輩が3人。こんな時に一体何の用なんだろうか。


「1階のトイレで待ってるからよ」


先輩からの命令は絶対であった。運動部特有のものであった。


1階のトイレの裏側に呼び出される淳。すぐにそこへ向かうことにした。


周りが校舎の角に挟まれており、周りからは誰も見えない。そこには呼び出した3人の先輩がいた。


「何の用ですか?」


淳は少し声を上ずりながらも声をかける。もう分かってはいた。イジメという制裁をうけるのだ。その場にいたというだけのそれだけの簡単な理由だ。


「なんでお前如きが生きてるんだよ!」


先輩からの第一声はあまりにも辛辣なものだった。


「お前が生きて怪獣のせいで裕太は死んだ!裕太のがいいやつなのに!なんでお前みたいなやつが生き残る!」


その言葉に呼応するようにして先輩二人が淳を羽交い締めにし、目の前のもう一人の先輩に殴られる。


バキッ!重く鈍い音が何回も炸裂する。頬に、頭に、口に。


へへへっ。先輩たちの気持ちの悪い笑い声が淳の鼓膜に届く。彼らはこの状況、狩りにも近いこの状況を大いに楽しんでいたのだ。ここまでくれば誰が死に、誰が生きたかなんて関係無かったのかもしれない。


許せない・・・・。淳の怒りがふつふつと募る。


「僕はこんな奴らを守るために今日まで戦ってきたのか・・・・。」そう思い、そしてふとあの子供の言葉が思い出される


「あの巨人を許さない!」


僕は間違ったことはしてない筈なのに誰かにまた疎まれる。


許せない!またこの言葉が募る。怒りのパラメータは上昇していく。


そして淳の青い影が揺らめく。淳の怒りを代わりに表現するように。


青い影は淳をいじめる先輩たちを見つめる。


淳は気づかないうちに青い影の気に飲まれた。






近所の中学校は今日から本格的に授業を再開するらしい。今までは壊れていた理科教室なんかでは授業は行えなかったが、今はキチンと使えるらしい。


俺は横の窓から空を見る。大久保隆と書かれた社員証は机の上にポイっと捨てられるように置かれていた。そして空はあいも変わらず青く、少しの雲がアクセントになっていた。


「コラ!さっさと仕事しろ!」


俺が物思いにふけっていると後ろにいた先輩の声が一喝してきた。さっさと今書いてる記事を完成させることにしよう。



パソコンにまた向かおうとした時何か爆発音が鳴った。


「な、なんだぁ?」


俺は慌てて横の窓から外を見る。空を見上げる。


大空をはためく大きな鳥、いやプテラノドンという恐竜のような物体が現れていた。


「UBかよ!」


プテラノドンのようなUBは上空から火の玉を放つ。


口から放たれた炎は着弾すると同時に無慈悲に地面を、建物を、命を焼いていった。


横に生えている大きな羽が地上にいる人間を嘲笑うように見えた。


「はやくなんとかしねえと!」


燃え盛る街に何もできない自分を恨んだ。


俺は携帯を取り出し淳に電話をかける。


着信音が鳴り響く。


「おかけになった・・・・」


淡々とした留守番電話特有の音声が流れた。淳は電話に出なかったのだ。


「くそっ!またアイツは戦わないとか言い出さないだろうな!」


階段をかけおり、外に出る。


大空を見上げるとプテラノドンは炎を放ち、また街を焼いて行く。爆発音なのか恐怖の雄叫びなのかここまでくるとわからなかった。


その時、ビームのようなものがプテラノドンのUBの羽に命中した。命中した羽が爆発し、UBは痛みを表現するかのように叫んだ。


ビームが放たれた方向を見ると、


「淳・・・・」


青い巨人が現れていた。先ほどのビームは巨人の指先から放たれていた衝撃波みたいなものだろう。



ビームが命中したUBはキィィィ!と奇声を放ちながら地上に落下していく。


巨人はすかさずUBの方へと走っていく。


逃げるように飛び立とうとするUBを逃さぬように足を掴み、ハンマー投げのように思い切り回す。


3回転したところで手から離し、吹き飛ばされるUB。


ビルを貫通し、また地上に叩きつけられるのを確認するとひた走る。


UBは抵抗するように炎を吐き、巨人の体を焼く。


だが、巨人には効かなかった。


巨人は自分の目の前に膜のようなもの発生させた。それが炎を防いだ。おそらくシールドの類だろう。


UBの首を絞め、さらに逃げ場を無くそうとする巨人。


UBも必死に抵抗し、巨人の腕をほどき、何とかまた大空へ飛び立つ。流石に応えたのだろう。こちらに戻ってくる様子はなかった。


だが、巨人はそれを逃がさなかった。


右腕から弓を形成し、左腕で剣を形成した。


剣を弓にかけ、弓の糸を引っ張る。その姿から青いオーラが見えた。


勢い良く弓を放ち、1秒もかからないうちにUBに命中し、爆散していった。



「なにかおかしいぞ・・・・?」


何回も巨人の戦闘を見ている俺にはこの戦いがとても不自然なものに思えた。まるで巨人が戸惑いがあるように思えたのだ。

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