呼んでるベル

年中無休跳梁跋扈

呼んでるベル

ぴん ぽん


んぁ、と喉から情けない音を出しながら、彼は目を覚ました。枕元のスマホを点けると、時刻は深夜2時とある。なぜこんな時間に起きてしまったのかを理解するのに、彼はあと30秒を要した。


ぴん ぽん


音だ。玄関のベルが鳴っている。彼はようやく自身の目覚めの原因を理解した。しかし、彼の寝ぼけた頭がその原因の異常性を理解するのには、もう30秒を要した。


ぴん ぽん


うるさいな…、と再び寝入ろうとしたところで彼は気付いた。かっと目を見開き、全身に鳥肌を立たせ、再度スマホを点ける。時刻は、深夜2時。


ぴん ぽん


恐怖と共に、彼の頭には疑問が二つ渦巻いていた。一つ、なぜこんな時間に玄関のベルが鳴っているのか。二つ、なぜ家族はだれも対応しないのか。彼の部屋は2階の奥に位置しており、玄関にほど近い一階で寝ている両親は、彼より早く気が付くのが自然だ。考えているうちに、彼には好奇心という感情が芽生え始めていた。


ぴん ぽん


よし、と意を決し、彼は上体を起こした。机の引き出しから災害用の懐中電灯を手に取り、自室を出る。と、と、と、と階段を下り、両親の寝室の前までたどり着く。刹那、


ぴん ぽん


当然ながら先程より大きくベルの音が聞こえたので、彼はひるんでしまった。そして半ば救いを求めるように、その戸を開いた。え、と彼は思わず声を漏らした。何も起こっていないかのように、あまつさえ、いびきまでたてて、彼の両親は眠っていた。単に眠りが深いだけなのか、それとも、彼らにはこの音が聞こえていないのか。


ぴん ぽん


彼はその何度目かのベルの音を聞き、少し考えて、そして恐怖した。玄関ドアの向こう側に立っている誰かのことについて彼はあえて考えることをしていなかったが、一度思考を巡らせ始めると、その「誰か」の異常性が次から次へと明るみに出てきた。


ぴん ぽん


まず、こんな遅い時間に、事前連絡もなしに訪問をする点。そして、これだけ無視し続けてもなおベルを鳴らし続ける点。そして


ぴん ぽん


明らかに鳴らす間隔が、


ぴん ぽん


短くなっている点。


ぴん ぽん


彼はもう限界だった。


ぴん ぽん


彼は玄関に急いだ。


ぴん ぽん


シューズラックに立てかけてあるバットを手に取り、


ぴん ぽん


裸足のままドアノブの元まで走り、


ぴん ぽん


ドアノブを握り、


ぴん ぽん


バットを構え、


ぴん ぽん


勢いよくドアを開け放した。









彼は目の前に現れた異形に、理解が追い付かず、気を失ってしまった。

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