テスト・パイロット〜その8〜
一機、また一機と子機に囲まれては四肢をもがれ、あるいは体を二つに分けられ、パイロットのもらす嘆息を聞く、これが幾度となく繰り返され、気がついた時には、残っている機体は武石自身を含めて僅か四機になっていた。
「隊長、あの機体、距離をとったままです、まるで近づかれたくないみたいに……近距離ならやれるかも知れません! 残りの機体全部で援護して下さい、俺が突っ込みます! 」臨時の隊長である武石に向かって柿崎は叫んだ。近距離ならやれる、というものでも無かろうと考えたが、武石はその案に乗ることにした。
「分かった、出来るだけ子機をひきつける! 全機即時戦闘に移れるようにしろ! 」武石はそう返すと両手にライフルを装備し、出来るだけ多くの子機と渡り合えるようにした。
「一気呵成だ! 突っ込むぞ! 」武石の叫びとともにAF部隊の名残は散開して突撃した。
「うわっ! 突っ込んで来ちゃったよ! 」奏志は一瞬慌てたが、すぐに姿勢を整え、落ち着いて機体を操る、明希のサポートもあり、モニターに敵影が映れば子機がブースターを吹かし、ケーブルを蔦のように絡ませながら飛んでいく、常にAF一機に対して子機が五機の有利な状態で戦闘を進めていた。
四方から飛んでくるAFに対し、常に機体は子機たちの中心に留め、あたかも竜巻のように周囲を舞う子機たちの奔流の中にいた。この状態なら何機AFが来ようともそう簡単にはやられないだろう、奏志は得意満面だった。
「隊長! 何処か手薄な所はありませんか!? 自分で言っておいてなんですが、簡単には懐に入れません! 」柿崎は武石に助けを求めた。
「下方だ! 子機の防衛網に穴が開いている! 」武石は叫びながら、向かってきた子機の一つに最大出力の射撃をぶつけたが、やはりエネルギーフィールドに弾かれ、近くのデブリを焦がすだけだった。
「柿崎、上手くやれよ」武石はカウンターバーニアを吹かし、急速に後退した。
「了解です! 」柿崎はスラスターを全開にして、対象機の下方に迫った、確かに穴が空いているかのように子機の数が少ない、これならいける、彼はそう確信し、子機からのびるケーブルの間を縫うように静かに、しかし素早く飛んだ。もう少しで奴に手が届く、柿崎は笑みを浮かべ、勝利の雄叫びとともにサーベルを展開し、スラスターが焼き切れる程に加速した。
「近付かれると、加減しにくいから嫌なんだ! 」奏志は叫ぶと、明希から子機の制御権を一部もらって柿崎機の撃墜に向かわせた。
「ん……」意識に引っかかるような感覚、どうやらケーブルがデブリに絡んだようだ、奏志はデブリを引き剥がそうと繰り返し子機のスラスターを吹かした。推力偏向ノズルの調子が悪いようで思うようにはいかない。少しずつモニターに映る柿崎機の影が大きくなってゆく、
「もぉらったぁぁぁぁぁあああ!!!! 」柿崎機がサーベルを横一文字に振り抜くのに合わせて、奏志は上体を仰け反らせながら蹴りを入れた。ゴキョンと鈍く、宇宙に響くはずのない音が響き、柿崎機は凄い勢いで奏志から遠ざかっていった。
「やるじゃあないか、ブラックバイトあがりの高校生のくせして」柿崎はスラスターを用いてすぐに姿勢を整え、再び突撃する。子機の戻らない奏志の様子を見て明希はすかさず後ろからビームを一撃見舞った。
「おおっと、危ない。お嬢ちゃんもなかなかやるねぇ」柿崎は自動防御システムにより収束されたエネルギーフィールドでビームを弾くと、そのままの勢いを保ったまま再び斬り込んだ。
「やるなぁ、あの人」奏志は気の抜けた声を出した
「そうですね」未だそこら中を飛び回る三機のAFを軽くあしらいながら明希は言った。
しかし、どうにもこのままではマズイ、サーベルを抜いて戦うにしても、出力が高過ぎればそれはそれで柿崎さんを危険に晒してしまうし、サーベルを抜いて戦わなかったらそれはそれで後ろの明希ちゃんを危険に晒してしまう、奏志は一瞬の逡巡の後、サーベルを抜き放つ。展開した刀身は燐光を伴ってぶつかり合い、閃光を散らした。
しかし、そこは脳波制御用のオネスト・システムを搭載した機体と通常の手動での操縦にAIでのサボートを付加した機体との違いが出た。奏志は一瞬間の内に身を引き、横をすり抜けていった柿崎機の右腕を落とした。
「まだまだぁ! 」柿崎は素早く操縦桿を倒し、左腕でもう一本のサーベルを抜き、そのままの速度で斬撃を放ったが、対する奏志は戦闘が長引くのを嫌い、弧を描くように滑らかにサーベルを操り、柿崎の斬撃が届くよりも早く川俣機の左腕と両脚を引き裂いた。
「まだまだぁ! これは俺の執念だぜ! 」柿崎は叫びながら頭部バルカンのスイッチを押し、奏志の機体の装甲板を軽くへこませたものの、ようやく戻ってきた子機にその頭部を貫かれ、柿崎機の機体はただコックピットの入った胸部ブロックのみを残し、チリとして宇宙を彷徨うことになった──
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