「報告書」
西暦二千百九十五年、五月十六日付
本日、火星コロニー日本領において、敵性異生物の襲来が発生、今回の事件についてを簡潔に記すこととする。
太陽系標準時午後三時丁度、火星軌道最終防衛ライン内に該当の敵性異生物が侵入、この様子については添付資料1を参照
添付資料1
火星軌道内に突如として現れた巨大な黒塊、流星が見せるのとはまた違った、蒼い尾を引いている。それはすぐに衛星のセンサーの索敵範囲から離れていき、見えなくなる。ほんの数十秒の短い映像データ
なお、この敵性異生物に関しては添付資料1の冒頭にもあるように、突如として現れ、防衛ライン内への侵入を許してしまった次第である。この結果と映像解析の結果から、敵性異生物が
標準時午後三時五分
国連軍火星本部よりAF小隊が五つスクランブルし、直ちに迎撃に当たる。AF‐8ファランクス十五機が大気圏突入の瞬間からアサルトライフルでの射撃を開始したものの効果はなく、続けてのミサイルによる一斉攻撃も外殻を破壊するに至るのみで、黒塊に内包されていた八個の小さな塊が分離して市街地に向けて落下、それぞれの小黒塊は翼の生えたトカゲや龍のように見える形状を為していた。添付資料2参照
添付資料2
小黒塊の歪な全身像が克明に記された画像。
攻撃隊は黒塊が市街地に向かうのを防ぐためにこれを追撃。この時AF小隊の川俣少尉が塊に機体の翼を破壊され、墜落。機体は姿勢制御で軟着陸に成功。この際、国連軍北棟に機体が激突し、一部が損壊、菱井建設に修繕を依頼済み。
この後、残りの黒塊については各個撃破に成功したものの、実体弾はレールガンや一部のガトリング砲等を除いてほぼ無力であることが露呈した。
幸いなことに死傷者は出ず、情報統制もうまく行ったものの、一部マスコミはまだしつこく嗅ぎ回っているため、速やかに事態の収束を図るべきだとの意見が出ている。また、同様の生物の再度の襲撃に関しては性急に対策をうち、迎撃の体勢を整えていく方針が決定している。
「こちらが国連軍に送る資料でいいかい? 眠いまんまで書いてたから文体も内容も滅茶苦茶なんだけどね……ついでに言うと、新型試験機が民間人に無断搭乗されたことについても書いてないしね」司令である菊池は佐川に報告書を手渡した。
「これだけ書けていたら十分ですよ、無断搭乗の件についてはわざわざ書いて追及される必要もありませんよ。まぁ、どうせ上の人達は火星のことについては放任してしまうつもりでしょうし」佐川は苦笑いして続けた。
「それより、菱井重工に送るテスト・パイロットの資料の方はまとめ終わったんですか? 」菊地は顔をしかめた。
「風城くん達が今勧誘というか、徴発というかに、出かけているところだからまだだよ」
「出来るだけ早めにお願いします」
「はいはい、すぐやっとくよ」佐川が部屋を出て行くと、菊地は大きな溜息をついた。
「上手くいくと良いんだけどね……」髭を撫でながら外を見つめた菊池は祈るようにそう呟いた――
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