大金を稼げる仕事。

 私の仕事は莫大な利益を得ることができる仕事だ。私は贅沢をしないので1年間に3件も仕事をしないこともある。それでも十分楽しく暮らしていくことができるのだ。


 結婚をする時、「好き」という動物的な感情だけで突っ走ることができたとしても、感情だけだと3年で脳内の「好き」物質は消え去り、現実が残る。


 現実を見据えて、結婚をする者はともかく、感情だけに任せた夫婦には残念な結末が待っていることも多い。


 だからこそ「うちの旦那、浮気をしていると思うんですの。もし、そうだったら思いっきりふんだくって離婚したいのです」と若い女性から不貞の調査依頼を受ける、我々のような探偵業者も、隙間なく依頼があるわけだ。


「わかりました奥様。早速始めましょう」

 私は助手と2人で調査に出かける。配偶者が気づいている──特に気づいているのが女性の場合は──ほぼ100発100中で「当たり」だ。あとは証拠写真を撮るだけ。簡単過ぎる仕事なのだ。


「旦那さん。奥さんは疑っておられます」私は証拠写真を男の前に並べる。「これをどうする気ですか?」青ざめた顔で問うてくる若い男。


「それは旦那さん次第です」努めてビジネスライクな表情と態度で応じる。「やはり、お金ですか?」と話す男に対して「私からは何とも」と恐喝行為になることを避けつつ「だいたい、示談金としてはこの程度が適当ですね」と女性から受け取る報酬の3倍程度の金額を言う。


 高額だが、ステータスの高い男性からすれば、自由裁量で支払える範囲内だ。私はこうしたステータスの高いクライアントだけを相手にしている。「わかりました」と観念した男に対し、「では、奥様には旦那様が奥様のために、時間を作っていたことにします」と、不貞がバレないよう、詳細に裏工作を指示するのだ。


「そうなのね。うちの旦那は私のために。それを疑うだなんて、とんでもないことだわ」女性は納得し、また3年間、感情だけで走れる期間が増えるのだ。


 ──「此度の結婚は、数多くの大人たちの様々な思惑が入っている政略結婚なのだ。子どものような幼稚な感情に振り回されてたまるものか」。私の真の顧客である“夫婦の父親たち”は吐き捨てるように言い、離婚を防いだ私に対して、莫大な大金を支払った。

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