『著作者人格権の不行使』※出版社バージョン。

「勝手にゴチャゴチャと書いてたら困るぞ。もうすでに、グッズも売り出しているというのに、作品のイメージを変えやがって。どれだけの損害が出ると思ってるんだ」と、怒鳴っているのはマルヤマ出版社長の丸山だ。


 自らプロデュースを手掛け、お金をかけてプロモーションも打った。そのおかげで、その作品は小説だけではなく、漫画やアニメ、映画にまで発展。キャラクターグッズも大いに売れている。出版不況にあえぐマルヤマ出版にとって、千載一遇のチャンスがやってきたのだ。


 しかし。しかしである。作家の峠弥太郎とうげ やたろうは、せっかくのハッピーエンドにしていた作品の続編を勝手にWebで公開し、無理やりブラックな内容に仕立て上げたのだ。小説以外で作品を知り、ファンになった人々たちがどんどんと逃げていく事態に、丸山は焦った。まさに社運が掛かっているのだ。何としてでも止めなければならない。


 後日、丸山は直接、作者に会うことになった。「なぜ、勝手な真似ばかりするのですか?関わる大人たち全員が迷惑しているんですよ」と、丸山は諭す。「俺の作品なんだから、好きにさせてくださいよ」と峠はダルそうに反論をするが、丸山は譲らなかった。


 ──「作品作りには、編集も含めて多くの人々の汗が加わり、大々的に宣伝をしている。たからこそ、売れるようになったのだ。みんなで一緒に創り上げた作品に対して、著作者だけが我儘を言うのは、筋が違います」と。峠に、再度反論をする余地は無く、押し黙り丸山に従った。

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