ブラック企業にだけは、入社したくない。
「就職するなら、安心して働ける安定性のある会社だよな。まかり間違っても、ブラック企業になんか引っかかりたく無いよ。めちゃめちゃ多いじゃん、パワハラとかのニュース。どうやったら見分けられるんだろう?」「まあ、社風で“アットホーム”とか書いてたらアウトじゃね?安定してる会社は絶対条件だけど、今どき“家族のように”とか書いてるとこ、冷めるし」と酔っ払いながら話す学生たち。
少し離れた席で同僚たちと飲んでいた、本田結の耳にも否が応でもなく入ってくるボリュームであり、ああまたか、と心の中でため息をついた。
酔いが回ってきたのか、学生たちはさらに饒舌になった。「外資系なんて、めっちゃ良いって聞くぜ。給料も高いし、完全能力主義だよな?アメリカのIT企業なんて、新卒でも年収3000万円。この国じゃあ、無能なくせに高給取りのジジイたちにごちゃごちゃ言われる時間を過ごし、さらにその間は薄給だろ」「もう、会社員になるのなんてやめて、フリーランスにでもなろうかなあ。自分のしたい仕事を自由にできるし、無駄な時間に縛られないじゃん」。
本田は思う。「社会はそんなに甘くない」と。本当の実力主義というのは、ペイフォーパフォーマンスの徹底であり、たとえば営業職であれば、成果を出せば出すほど、給料は倍々ゲームのように上がっていくが、その分ノルマも上がっていく。いつか、越えられない時がやってくるし、それが首を切られる時だ。それに、役職者になれば、部下の成長を促進しなければ当然成績は落ちるし、部下が成長した暁には、コスパの良い部下が自分の仕事を担うようになるので、これまた首になる。極めてドライな体質なのが外資系なのだ。ただし、日本企業のように「とりっぱぐれ」はないのだが。
その数日後、本田は彼らに「安定志向の分際で、外資系だとかフリーランスなんて甘えた話は、通用しない」と、厳しく叱責することになる。本田の会社は、日本最大手の新卒向け媒体をリリースしており、結はそこで新卒エージェントをしているのだ。学生たちが“そう言えば、大学の近くにあったな”と気付いた時には、もう遅かった。
──そう。会社だって、不用意で迂闊な、酔っ払いながらクダを巻くような、『ブラック人材』だけは、絶対に採用したくは無いのだ。
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