5.5 Show Interface O.S. - 10011010

 O.S. - 10011001の解体が完了した。力の本質を取り込んだノヴァは、真っ白い世界の只中で、自分の揺りかごである、円筒形の装置の中に閉じこもった。別に、その場所にいる必要はないが、円筒形の装置は、彼女にとっての心の拠り所なのである。自我を持つ存在は、必ず拠り所を必要とするものなのだろうか。あるいは、何者よりも長い時間を生きてきた結果として、そういった類を求めてしまうのだろうか。

 いずれにせよ、次の作業には関係のない事である。O.S. - 10011001の願いだって、履行する必要は存在しない。同じ、自我を持つ者として、ノヴァは彼女の意思を尊重しただけに過ぎないのだ。彼女に嘯いた合理的な理屈を付与するならば、観測者が、観測するべき事象に立ち会えないのであれば、結果など、無価値である、という所だろうか。尤も、”観測されない事実”は間違いなく存在するのだが。とは言え、それも作業には関係のない事だろう。兎に角ノヴァは、O.S. - 10011001の意思を尊重するつもりなど、持ち合わせていない。思いやりであるか、はたまた、裏切りであるのか。それは誰にも判断できない。ノヴァだって、何が真であるかを見極める事は、極めて難しい。

 ノヴァは、新しい作業を開始した。”O.S. - 10011010”の製作である。即ち、管理者が不在であるこの世界に、完璧たる管理者を、いよいよ立てるのだ。これが成功すれば、ノヴァは真の意味で、死を迎える事が出来る。


 時間が経過した。ひたすら広がる純白だけだった世界には、新しい概念が生まれた。感覚器官を持ち、思考出来る存在であるならば、その変化を捉える事が、可能であろう。つまり、温度や物体などといった概念が、生まれたのである。このようにして、リセットされた世界は、ノヴァが記憶中枢に蓄積した世界の発展の様子と寸分違わずに、着々と形を変えてゆく。

 ある時、ノヴァは新しいオブザーバーを完成させた。それには、”生”という概念が宿った。今までのオブザーバーには、存在しなかった概念である。ノヴァの計画通りだった。生という抽象そのものをコントロール出来るオブザーバーであれば、永遠の命を獲得したも、同義である。完成度が高ければ、塔という機構すら、必要ないかも知れないのだ。故にノヴァは、オブザーバーの中に眠る、生の概念を発達させた。やがてオブザーバーは、思惑通りの結果を出す。

 O.S. - 10011010は、生という抽象を操る事に、成功したのだ。

 更に時間が経過した。そして、O.S. - 10011010が、完成する。ノヴァはそれに、使命を言い渡した。永遠を獲得したオブザーバーに、全てを託したのだ。ノヴァが消えても、世界を存続させる、最後の使命だ。


 そうして、とうとうノヴァは、最後の眠りについた。自分を構成している具象を、ノヴァでは破壊できない。つまりノヴァは、形を残して、機能を停止し、どこか遠い所、誰にも分らない場所で、眠ったのである。




 一五四番目のオブザーバーは、筐体内部に渦巻く何らかの意思を読み取る。それは非常に強力な概念であり、ノヴァに学習させられたような、思念という類に近似したものであった。その正体を完全に把握する事は出来なかったが、しかし、自分の精神構造とは全く別の場所で息づくものだという点では、業務に支障をきたすレベルで、邪魔な概念である。

 だから、O.S. - 10011010は、筐体内部に息づく思念を、切り離そうとした。その瞬間、思念が、何かを訴えてくる。

 内容を読み解いてみれば、容易いオーダーであった。

 応じる必要性は存在しないが、しかし、応じても問題がない。いずれ生物が生まれるだろうが、今生み出しても問題がないのである。

 何しろ、時は無限だ。時間そのものに、時間的な限りという有限さは、存在しないのである。

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