クラスのカドのクロいの
fifty
第1話 僕の番
ついに僕の番が来てしまった。
入学式から4日目、まだ友達も出来てないのに。
昨日の番だったイシダ君は朝からずっと無表情だし。
授業もうわのそらだし。
何か鉛筆かじりはじめたし。
嫌だなぁ。
楽しみな中学校生活の唯一の不安だよ。
ああ、あと10分で授業が終わる。
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7
6
5、4、3、2、1
「キーンコーンカーンコーン」
ああ、チャイムが鳴ってしまった。
数学の授業をしていた担任のヒラノ先生がそのまま帰りの会を始めた。
明日は体育があるからジャージが必要だって・・・
「まだ入学したばかりで緊張しているかもしれないけど、宿題や持ち物は忘れないように、ではサヨウナラ」
そうヒラノ先生が締めると皆が席を立ち始める。
前の席のイシダ君ものっそりと席を立ち、教室の後ろに『何か』を取りに行った。
「おい上坂、ほら」
イシダ君が教室の後ろから手を引っ張って連れてきた『何か』は怒ったような目で僕を見つめている。
「気ぃつけろよ」
ぶっきらぼうにそう言ったイシダ君はリュックを背負ってさっさと教室を出ていってしまった。
チラッと横目で『何か』を見てみる。
真っ黒い『何か』を見てみる。
そいつは僕のパーソナルスペースなんかお構い無しに僕の座っている椅子の左横に立ち、じっと僕を見つめていた。
睨んでいたと言ってもいい。
ここでビビっていられない。
今日はこいつを世話しなければならないのだから。
今度は僕も睨みをきかせてそいつを見る。
身長は机をはみ出すくらい、80cmくらい?
小太り、って言って良いのかな、全身に真っ黒い毛が生えていて、大きな目と大きな口があって、人みたいな鼻がついていた。
でも言い表せない。
猿でも無く、チンパンジーでも無く、オランウータンでも無く、ボノボでも無く、ましてや人間では無い、今までに見たことがない生き物だった。
いや、化け物だった。
でもその化け物の印象で一番頭に残ったのは、大きな口の中の鋭い歯でも無く、赤ちゃん程の大きさだが鋭い爪が生えている手でもなく、怒ったような目で僕を見ながら口はにやけていることでも無く、右腕に真っ白いG-SHOCKを巻いていたことだった。
黒と白のコントラストもさることながら、人間性が感じられない化け物が、人間社会の基盤となる時間を示す腕時計をしていることに僕はとてつもない違和感を覚えた。
よく見るとそのG-SHOCKも僕がどこかで見たことがあるデザインだった。
そいつのG-SHOCKは午後5時13分を表示していた。
もうそんな時間か、と周りを見回すと、もう教室には他に誰も居らず、僕と『クロいの』だけになってしまった。
こんな化け物に時間を気づかされるなんて。
ともかく、今夜家でこいつを預かるだけだ。
さっさと帰って段ボールにでも閉じ込めて仕舞おう。
僕はリュックを背負って『クロいの』の手を掴もうとする。
「触るんじゃねえ!てめぇ!!」
『クロいの』がいきなり大声をあげた。
大人の男のような怒号だった。
僕はビビってひっくり返った。
さっきイシダ君は普通に触ってたのに・・・
「早く家に帰れバカタレェ!」
また隣の教室に響くんじゃないかという大声で『クロいの』が叫んだ。
僕はビクッとなって動けなくなる。
心臓の動悸がハンパじゃない。冷や汗や手の震えもだ。
「急げって言ってんだろぉ!」
仕方なく僕は教室を出た。
廊下に出ると当たり前のように『クロいの』がついてきた。
怒った目のニヤニヤ笑いで。
すれ違う部活中の先輩方は皆怯えたような目で僕と『クロいの』を見てくる。
僕はそそくさと下駄箱に行き、真新しい上履きから履き潰した運動靴に履き替えると、すぐさま学校を出た。
後ろを見るとやはり『クロいの』がひょこひょこついて来ていた。
僕は嫌悪感と同時に少し安心した。
校長先生が入学式で話したことは3つ。
【この化け物を生徒全員でローテーションで回すこと】
【この化け物の言うことに逆らってはいけないこと】
【絶対にこの化け物を殺さないこと】
この3つを守れば安心して学校生活を送れると、校長先生は言っていた。
現にこの学校の卒業生は名門高校や、一流大学、大手企業に多く存在しており、その発言を裏付けているのだ。
こんなやつを家に連れて行けば、母さんが怖がるな・・・
僕は重い足取りで家路についた。
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