女神星にて
starsongbird
プロローグ
小さな覗き窓の向こうに、待ち望んだ光景が広がっている。
暗くて黒い宝石箱だったわたしの視界に、光に充ち満ちた星が輝いている。
金星。明けの、明星。女神星。
わたしの目の前で、太陽の光を受けて輝く星。
わたしは子供のように小さな窓に顔をくっつけて、ただひたすらにその星を見つめていた。
光り輝く惑星。
時速三百六十キロで駆け巡るぶ厚い雲に覆われ、硫酸の雨すら蒸発するほどの大気に包み込まれた、灼熱の大地を持つ地獄の星。
それが、わたしの旅の終着点だった。
わたしは少し視線をずらす。遙か彼方に小さく無数に光る人工的な煌めきを確認し、思わず笑みが浮かんでくる。
準備は整った。
いよいよ、もうすぐだ。
地球から半年足らずの旅の終着点が、そこにある。
わたしは再び座席に腰を下ろし、静かに目を閉じる。
まぶたの裏に浮かぶのは、きっと訪れる、千年後の理想郷。
さあ、地獄の釜の蓋を開こう。
そして、千年後のわたしに会いに行こう。
わたしは目を閉じたまま、小さく笑みを浮かべる。
小さな宇宙船に乗って、わたしは静かに金星へと降りていく。
同じような形をした、数千もの宇宙船とともに。
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