堕ちた者
灰と化した遺体をかき集め小さな壺に入れる。
それを抱きしめる者達はなかなかそこから離れなかった。
亡くなった者の子供が家族のそれをじっと見つめている。
幼すぎるその心では理解できないのだろう。
“死”とはどういうものなのかを、子供は知らない。
――『どうして……こうなってしまったの……?』――
誰かが呟いた。
掠れる声で、静かに。
するとその声につられるようにして何人かが呟く。
――『誰が、原因……?』――
――『誰の、せい……?』――
――『あの、悪魔……?』――
――『違う』――
――『こうなってしまったのは、きっと……』――
やけに静まり返った、物音ひとつしない真夜中。
今夜は月さえも姿を隠し、街は暗闇に包まれ足元さえもあやふやだ。
そんな中、一軒の家にのみ灯りが灯されていた。
その家からは子守唄が聴こえる。
「――――ねんねんころりよ、おころりよ……」
優しい声音で紡がれるそれは、愛おしそうで、そして寂しそうだった……。
声の主は紅色の髪をもつ女。髪と同じ色の瞳はどこか淀んで見えた。
彼女は今朝の事件で夫を亡くしている。
残された子供を大事そうに抱え子守唄を何度も何度も謡い続けていた。
その子守歌は、以前天使と呼ばれていた少女から教えてもらったもの。
天使はやがて魔女と呼ばれるようになり、そして処刑された──。
彼女と同じように、その女の瞳には我が子以外何も映してはおらずどこか虚ろだった。
「――――ぼうやは良い子だ、ねんねしな……」
眠る我が子を見つめるその目には涙が溢れ、やがて頬を伝って子の頬を濡らした。
まるで子も泣いているようで、また涙が溢れる。
その時――。
「――――もし“復讐”をしたいなら、ボクのところにおいで」
「…………」
突如背後で聞こえた声に黙り込むものの彼女は振り返ろうとせず、ただそっと子の頭を撫でた。
背後の気配が消えると、子を揺り籠に寝かせ、何も知らず幸せそうに眠るその顔を暫くの間見つめる。
そして側に置いてあった自らの剣を静かに鞘から抜き取った。
「……ごめんね――」
そう呟く彼女の顔は、酷く歪んでいた――――。
『――――ネンネンコロリヨ、オコロリヨ……』
『――――ボウヤハヨイコダ、ネンネシナ……』
真夜中の物静かな街に、子守唄を紡ぐ女の声が響いた。
か細いその声には何の感情もなく、ただ機械的に紡ぎ続けている。
彼女はゆっくり、ゆっくりとその足を進めた。
その手に抱くのは彼女の愛しくてやまない子の――
――――亡骸。
彼女の服にはその子供のものであろう血がついている。
頬にもそれはついており、彼女自身が殺したことを物語っていた。
ふと彼女の歩みが止まる。
目の前には――
――――“孤独な悪魔”と呼ばれるあの少年がいた。
「――――よく来たね。待っていたよ」
そう言って手を差し出す。
「――――さぁ、おいで……」
女は差し出された手を取った。
瞬間、美しいその紅の髪が黒く染まる。
その時一筋の涙が頬についた血と共に子供の目元に流れ落ちた。
――それはまるで、血の涙を流しているかのようだった。
――『どうして……こうなってしまったの……?』――
――『誰が、原因……?』――
――『誰の、せい……?』――
――『あの、悪魔……?』――
――『違う』――
――『こうなってしまったのは、きっと……』――
――――『……きっと、天使を殺した私たちのせい』――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます