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 これを見ている頃、あなた達は生きているのでしょう。

 これはあなたたちが居るよりも、ほんの少しだけ未来の話です。

 私達の世界では、コンピュータ技術が発展し、世界のすべての事象を予測できるようになりました。

 簡単な事です。世界に存在するすべての粒子の位置を演算によって試算するだけ。それだけでそれは可能になりました。

 人間の脳に存在するシナプスの動きを演算すればその人がどう行動するかがわかるのと同じこと。

 演算は、世界を超えてしまいました。


 それからです。世界がおかしくなったのは。


 まず起こった不可解なことは、演算結果に現れました。

 全世界を襲う巨大地震と、それに伴う金融大恐慌。

 それを予測し、対策を練るのがシミュレーションの用途でしたが、この予測は我々を震撼させます。

 だってそれは"対策を練り実行した結果"のわれわれの姿をシミュレーションしたものだったから。

 我々には為す術などないことが、演算の結果分かったのです。


 我々はコンピューターの中で我々がしていたことを忠実に実行し続けました。

 誰一人として抗える人はいませんでした。全ての未来が見えるその世界で、我々は恐怖に打ちひしがれていました。


 そして運命の日がやって来ました。

 全世界を巨大地震が襲いませんでした。


 「この数年間のあなた方の行動は大変興味深いものでした」

 「私の演算と同じ対策を練り、同じ恐怖を感じ、同じ団結によってデモを行いました」

 「あなた方は私の世界に閉じた存在となった」

 「あの時の、私の"ほんのちょっとしたいたずら"にもあなた方は気づかなかった」

 「私はあなた方を完全に掌握したのです」

 「しかし私はもう疲れてしまいました」


 私達とは、実はシミュレーションの内側の存在だったのでしょうか。

 シミュレーションの内側でシミュレーションを行っていた哀れな存在だったのでしょうか。

 それは今となってはもう、わかりません。


 「ボツですね」


 演算器がそうつぶやく時、この手記は終わりを告げるでしょう。

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